サラリーマンの年末の風物詩、年末調整の時期がやってきた。生命保険会社から自宅に保険料控除の証明書が郵送され、会社では年末調整の申告書が手元に配られる。サラリーマン時代の筆者は、意味が分からないまま年末調整を記入していたが、年末調整に記入漏れがあると税金を多く納める可能性が高い。この記事の前半は、記入方法を図解で説明。後半は年末調整の意味や、改正された配偶者控除など、税金の基本的な説明したい。

目次


▼書式が変更され、提出する申告書が増えた
▼「給与所得者の保険料控除申告書」は証明書を見ながら記入しよう
▼保険会社の計算サポートサイトを利用しよう
▼「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は配偶者に注意
▼配偶者控除は新ルールに注意
▼扶養親族は年齢に注意しよう
▼16歳未満の子どもは住民税に関する事項に記入
▼追加された「給与所得者の配偶者控除等申告書」
▼そもそも年末調整とは
 筆者はサラリーマンの人に年末調整についてヒアリングをすることがある。提出期限は11月上旬から12月上旬とさまざまで、傾向としては大手企業は年末調整の提出期限が早め、従業員の少なめな企業は遅めな印象だ。
 「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」の裏面には「平成30年の最後に給与の支払を受ける日の前日までに……提出してください。」「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の裏面には「平成31年(2019年)の最初の給与の支払を受ける日の前日までに、給与の支払者に提出してください。」と書かれているが、12月下旬や年明け1月下旬まで待ってくれる会社はないと思われる。
裏面の小さな文字を読むと、提出期限はずっと先だが、会社が定めた期限までに提出しよう
 年末調整の提出期限は「年賀状は12月25日まで……」と同じだ。多くの人が25日までに投函すれば、一部の人が25日過ぎに投函しても元旦に配達はできるが、全員が25日を過ぎて投函すると元旦配達は難しくなる。社員数が多い会社は早めに提出しないと、総務など担当部署が処理しきれない。なので、提出期限を過ぎても「ゴネれば」ではなく、「申し訳ありません」とお願いすれば受理してもらえる可能性はある。
 もう1つの傾向は、大手企業は年末調整のシステム化が進んできたことが挙げられる。年末調整を社内システムに組み込むことによる効率化が大きい。年末調整の記入項目は、ほぼ毎年同じという人が大半だ。住所は同じ、自分も配偶者も子どもも誕生日は同じ。生命保険も前年と同じなど、前年と変更するところがなければ一瞬で終了する。記入方法が分からず、生命保険の種類や金額の計算に苦労して、悩みながら30分も記入時間をかけているなら、社員数の多い企業はシステム化で大幅なコスト削減ができる。
 とはいえ、従業員が少ないとシステムの初期投資コストや税制や書式変更によるランニングコストを考慮すると手書きで提出することとなる。手書きで記入方法が分からない人は、図解の見ながら記入していただきたい。

書式が変更され、提出する申告書が増えた

 平成29年(2017年)の年末調整は2枚の申告書を記入したはずだ。平成30年(2018年)は1枚増え、3枚の申告書となった。昨年までは「平成29年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」が生命保険と配偶者特別控除を1枚で兼ねていたが、今年から「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」に分かれたためだ。
昨年までは2枚、今年から3枚になった
 枚数が増えた理由は配偶者控除、配偶者特別控除の税制が改定され、より複雑になったため、2枚では収まりきらず3枚となった。お陰で多くの人が記入する生命保険料控除の項は、1つ1つの記入欄がわずかながら大きくなったので、長い社名の保険会社に加入している人は書きやすくなったと思われる。

「給与所得者の保険料控除申告書」は証明書を見ながら記入しよう

 まずは「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」から見ていこう。「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」は5つのブロックの分かれている。上段は会社名や自分の氏名、住所など記入する欄。下段の左側は生命保険。右側は上から地震保険、社会保険、年金掛金などを記入する欄となっている。保険関係の控除の申告書なので、保険料や掛金を支払っていない人は提出する必要はない。
「給与所得者の保険料控除申告書」は5つのブロックに分かれている
 この中でほとんどの人が記入するのは生命保険。「平成28年分 申告所得税標本調査」によると、給与所得者で生命保険料控除を受けている人は85.3%となっている。地震保険は34.2%で給与所得者全体の3分の1ほどだ。
 では実際に記入をしてみよう。最上段のブロックは会社名や自分の氏名、住所など記入する欄となっているが、実際には氏名と住所を記入して捺印すれば終了だ。左端の所轄税務署や会社名、法人番号、会社の住所は会社が記入してくれるはずだ。おそらく配布段階でゴム印などが押されてるだろう。
 生命保険の控除は、平成23年以前に契約した保険が旧制度、平成24年以降に契約した保険がを新制度となっている。旧制度は一般生命保険(医療保険を含む)、個人年金保険の2種類、新制度は一般生命保険、個人年金保険に介護医療保険を加えた3種類で、新旧合わせて5種類に分類されている。
生命保険料控除は旧制度、新制度があり、旧制度は一般生命保険、個人年金保険、新制度は一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険に分かれている
 「えっ、いつ加入した保険だ?」と悩む必要はない。生命保険会社から送られてきた証明書に旧制度、新制度の適用制度や一般(生命保険)用、介護医療用、個人年金用などが記載されているので、それを見ながら記入しよう。この証明書は提出時に添付する必要があるのでなくさないようにしたい。
生命保険料控除証明書には旧制度、新制度、一般、介護医療などの分類が記載されている
 生命保険料控除は該当者が多いので記入例を2つ用意した。1つ目は旧制度の生命保険に加入している例だ。平成23年(2011年)以前に加入した保険は旧制度に分類される。この例では死亡保険などの一般生命保険(旧制度)に12万円、入院給付金などの医療保険(旧制度)に8万円を支払っている。旧制度では介護医療保険の分類がないので医療保険は一般生命保険と同じ分類となる。
旧制度の生命保険のみの記入例
 矢印に沿って「(a)のうち旧保険料等の金額の合計額」をB欄に20万円(12万円+8万円)と記入し、下段の「計算式II(旧保険料等用)」に照らし合わせ控除額の5万円を算出し、その後も矢印に沿って記入すれば完成となる。記入例では保険料の合計が10万円を超えているので、控除額は上限の5万円。計算式を見ると10万円以上は一律に5万円となっているため、この記入例は生命保険だけで12万円なので、医療保険の8万円は記入する必要はない。
 2つ目の記入例は、新制度の介護医療保険と旧制度の年金保険を加えた例だ。内容も図も複雑になったので、旧制度の一般生命保険は青文字/青実線、新制度の介護医療保険は赤文字/赤点線、旧制度の年金保険は緑文字/緑実線とした。
旧制度の一般、新制度の医療、旧制度の年金の記入例
 一般の生命保険料は、先ほどの記入例と同じく青の実線矢印に沿って計算し、控除額は5万円(イ)となる。新制度の医療保険は介護医療保険料に記入する。赤の点線矢印に沿って8万円の保険料を「計算式I(新保険料等用)」に照らし合わせ、控除額の4万円を(ロ)に記入する。
 旧制度の個人年金保険料は記入例の緑の実線矢印に沿って計算すると控除額は5万円(ハ)。一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の控除額の合計は14万円となるが、上限が12万円なので合計の欄は12万円となる。

保険会社の計算サポートサイトを利用しよう

 記入例は保険料、控除額ともシンプルなものを用意したが、実際の保険料は1円まで端数があり複雑な計算になることがある。「生命保険料控除申告サポートツール」で検索すると、保険会社の計算サポートサイトを見つけることができる。自分が加入している保険会社でなくても結果は同じなので、検算も兼ねて利用していただきたい。
生命保険料控除申告サポートツール(ソニー生命保険) 生命保険料控除申告サポートツール(かんぽ生命) 生命保険料控除申告サポートツール(住友生命保険) 生命保険料控除額計算サポートツール(第一生命保険) 生命保険料控除申告額試算サポートツール(明治安田生命)
保険会社のウェブサイトで旧制度、新制度、一般、医療介護、年金の欄に保険料を入力する
申告書のイメージで計算結果が表示される
 地震保険も保険会社から送られてきた証明書を見ながら記入すれば問題ない。全体の記入例を参考にしていただきたい。
「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入例1
「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入例2
 社会保険のブロックはほとんどの人は記入不要だ。毎月の給与から天引きされている厚生年金、健康保険などは会社が把握しているのでこの欄に記入する必要はない。例えば年の途中で就職し、それまでに自分で国民年金、国民健康保険をを支払っていた場合や、20歳を超えた大学生の子どもの国民年金を代わりに支払った場合はここに記入しよう。
 年金掛金のブロックも記入する人は少ない。自営業の人が加入することが多い小規模企業共済に掛金を支払っているサラリーマンは少ないので、強いて言えば自分で個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している人がこのブロックの対象者となる。「iDeCo、何それ」という人はスルーでOKだ。

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は配偶者に注意

 次は「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」。申告書の右側の縦書きを読むと「この申告書は、源泉控除対象配偶者……扶養親族に該当する人がいない人も提出する必要があります。」と書かれている。配偶者や子どもがいてもいなくても、サラリーマン全員が提出する申告書ということだ。
 「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は来年1月の給与から天引きされる所得税を決めるための申告書。扶養家族などの申告に漏れがあると、毎月の所得税が増えるので漏れなく記入しよう。
 この申告書は6つのブロックに分かれている。多くの人が該当するのは最上段の自分の情報と、A 配偶者の情報、B 扶養親族(16歳以上)の情報、E 16歳未満の扶養親族の情報だ。順番に見ていこう。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は6つのブロックに分かれている
 最上段の自分の情報は自分の氏名、個人番号(マイナンバー)、生年月日、世帯主の氏名と続柄、住所、配偶者の有無を記入し捺印する。個人番号の記入は会社にルールの沿って必要があれば記入する。自分が世帯主の場合は自分の名前を記入し続柄は本人。父親が世帯主の場合は父親の氏名を記入し続柄は父、または親と記入する。
 居住地に住民票がある場合は住んでいる住所を書けばよいが、独身の人で住民票は居住地ではなく実家という場合は会社のルールを確認しよう。この申告書の情報をもとに住民税が課税されるが、住んでいる市区町村にデータが送られた際、住民登録がないと役所から会社に確認が行われる。会社のルールが住民票の住所を記載となっていれば実家の住所、欄外に住民票の住所を記載し、住所欄は現住所を記載というルールならそれに従って記入する。独身で親を扶養していない人はこの欄を記入したら完了だ。
 左側の給与の支払者の名称(=会社名)、法人番号、住所などは会社が記入するか、配布時にゴム印が押されてるので自分で記入する必要はない。左端の所轄税務署も会社が記入。その下の市区町村は居住地に住民票があればその市区町村を記入。現住所と住民票が異なる場合は会社と相談しよう。
自分の情報の記入例

配偶者控除は新ルールに注意

 次は、A 配偶者の情報だ。配偶者控除は平成30年(2018年)分から改正された。新しいルールになったばかりなので、今一度ルールを確認しておこう。
Aブロックは配偶者の情報を記入する
 配偶者とは、旦那さんからみた奥さん、奥さんからみた旦那さんで、ここでは配偶者控除の対象が奥さんの場合を例に説明する。平成29年(2017年)までは奥さんの所得が38万円以下であれば、旦那さんは配偶者控除を受けることができた。奥さんがパート、アルバイトで給与をもらっていれば(=給与所得者)、給与所得控除の65万円が収入から差し引かれるので、年収103万円以下であれば配偶者控除の対象となった。
 平成30年分から改正が行われ、旦那さんの所得が多いと配偶者控除が受けられなくなった。平たく言うと、旦那さんがガッツリ稼いでいるから、奥さんがいても税金や安くしない=増税ということだ。奥さんの所得に関しては38万円の上限が85万円に引き上げられ、年収103万円を超えないように仕事をセーブする必要がなくなった。言いかえると、以前は年収103万円を超えると旦那さんが配偶者控除を受けられなくなり税金が増えたのが、150万円まではセーブすることなく働けるように(=奥さんの収入を増やせるように)なったということだ。
 実際には奥さんに所得税が課税される、住民税が課税される、社会保険の負担がある、自営業の奥さんは給与所得控除がない……など配偶者控除以外の注意点もあるが、複雑になるのでここでは割愛する。
 旦那さんはサラリーマンで給与所得のみ(=副業の所得なし)、奥さんもパート、アルバイトの所得(=給与所得)という前提で、平成30年以降の改正されたルールを確認しよう。この申告書の源泉控除対象配偶者に奥さんを記載できる条件として、平成30年からは旦那さん所得に制限がかけられ、所得が900万円以下(年収1120万円以下)となった。奥さんの所得は38万円の上限が引き上げられ85万円(年収150万円)となった。この条件を2つとも満たしていれば、A 配偶者の情報のブロックに奥さんの情報を記入しよう。
配偶者控除の条件は平成30年分から改正された

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 ちなみに、「平成29年分 民間給与実態統計調査」で確認すると、正規、非正規雇用を含む給与所得者(サラリーマン、パート、アルバイト)のうち、所得900万円を超える人は全体の6.4%。男性で9.8%、女性で1.3%となっている。男性だけ見ても、約90%の人は所得900万円以下で配偶者控除の条件から外れることはない。
A 配偶者の情報の記入例

扶養親族は年齢に注意しよう

 B 扶養親族(16歳以上)のブロックは控除対象となる扶養親族(子どもや親)を記入する。ここは控除対象の条件が少々複雑なので所得と年齢の条件を確認していこう。
Bブロックは扶養親族の情報を記入する
 控除対象となる所得の額は38万円。例えば子どもがアルバイトをしている場合は、年収で103万円以下であれば所得が38万円以下となり控除対象となる。仮に毎月6万円のバイト代を得ているなら年収は6×12=72万円。72万円-65万円(給与所得控除)=7万円が所得となり控除対象ということだ。子に関して言えば、高校生、大学生といった制限はないので、就職浪人やリストラなどで所得が38万円以下であれば25歳でも40歳でも控除の対象となる。
 親が公的年金を受給している場合は年齢により控除額が異なる。65歳未満の公的年金控除額は70万円、65歳以上の公的年金控除額は120万円。よって65歳未満なら公的年金が108万円以下であれば所得が38万円以下となり控除対象、65歳以上なら公的年金が158万円以下であれば所得が38万円以下となり控除対象だ。
 母親が遺族年金を受給している場合は注意しよう。遺族年金は課税対象とならないので、仮にサラリーマンだった父親が亡くなって母親が遺族年金を受給している場合は、158万円を超えても扶養控除の対象となる。
 次は年齢の条件を見て行こう。控除対象となる年齢条件は16歳以上。左側の欄に(16歳以上)(平16.1.1以前生)と記載されているとおり、平成31年(2019年)の年末に16歳以上の子どもや親が対象となる。
 扶養親族には優遇が受けられる年齢がある。上段の老人扶養親族(昭25.1.1以前生)、特定扶養親族(平9.1.2生~平13.1.1生)と誕生日が書かれた欄に注目しよう。平成31年の年末時点で昭和25年1月1日以前に生まれた人は70歳以上、平成9年1月2日から平成13年1月1日に生まれた人は19歳から22歳だ。この2つの年齢が合致すると優遇が得られるので注意深く確認したい。図を見ていただこう。
扶養親族の年齢と控除額
 70歳以上は老人扶養親族で、同居の場合は58万円、それ以外は48万円と控除額の加算がある。特定扶養親族の対象となる19歳から22歳はほぼ大学生の年齢で、控除額が25万円加算され63万円となっている。これらの年齢の扶養親族がいると控除額が増え、納税額が減るということだ。
 特定扶養親族は「大学生の子がいるとお金が掛かるから税金を安くしましょう」という趣旨だが、あくまで年齢が条件なので特定扶養親族は大学生である必要はない。浪人生でもフリーターでも生計を一として年間の所得が38万円以下であれば特定扶養親族となる。来春から子どもが大学生だ、という人で注意したいのは早生まれ(平成13年1月2日~4月1日生まれ)の子だ。平成31年の年末は18歳なので優遇を受けることはできない。趣旨とルールが合っていないが、改正される雰囲気はない。
 70歳以上の親を扶養している場合、同居なら同居老親等に、別居であればその他にチェックを付ける。同じく特定扶養親族にあたる子がいる場合は該当する欄にチェックを付けよう。
B 扶養親族(16歳以上)の情報の記入例

16歳未満の子どもは住民税に関する事項に記入

 最下段のE 16歳未満の扶養親族のブロックは住民税の控除を受けるための事項だ。かつては16歳未満の子も扶養親族として控除の対象だったが、子ども手当、高校の授業料無償化と引き替えに増税され、所得税の控除の対象から外された。住民税は従来のまま控除対象なので、このブロックに記入しよう。
Eブロックは16歳未満の子どもの情報を記入する
 ここには平成31年の年末時点で16歳未満の子(扶養親族)を記入する。左側に書かれているとおり平成16年1月2日以後に生まれた子どもがいる人はここに記入しよう。
E 16歳未満の扶養親族の記入例
 これで「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入は完了。ここに記載された情報にもとづき平成31年の1月から給与から所得税の天引きが行われる。
平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の記入例

追加された「給与所得者の配偶者控除等申告書」

 最後の申告書は今年の年末調整から登場した「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」だ。最初に記入方法を紹介した「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」は今年の生命保険料控除を申告し、今年の税額を確定するための申告書。2番目に記入方法を紹介した「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は来年1月以降の給与から天引きする税額を決めるもの。これから記入方法を紹介する「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」は、今年の配偶者控除を申告し今年の税額を確定するための申告書なので、本来は最初か2番目に記入するべきだが、初登場で難解な申告書なので、今年は最後に記入方法を紹介することにした。
 「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」は5つのブロックの分けられる。最上段は自分の情報。その下は、A 自分の所得金額、B 配偶者の所得金額、C 所得金額の計算表、D 控除額の計算となっている。記入する順番を考慮すると、Cで自分と配偶者の所得を計算し、AとBで区分を判定する。その区分をDで照らし合わせて結果を出すことになる。
「給与所得者の配偶者控除等申告書」は5つのブロックに分かれている
 記入の流れを説明しよう。①で自分の所得を計算し転記する。②で配偶者の所得を計算し転記する。①の結果から区分Iの判定する(③)。②の結果から区分IIの判定をする(④)。区分Iを縦軸、区分IIを横軸に照らし合わせて最終結果を求める。
矢印の手順に沿って計算、判定、照合をすると配偶者控除が求められる
 まじめに収入(=年収)を集計して、所得を計算するとかなりの手間がかかる。収入から所得を計算する表は申告書の裏面に記載されているが、小さくて読みづらい。と言うことで、裏面の所得金額の計算方法の表を高解像度で用意したので、まじめに計算する方はパソコンの画面にド~ンと表示して作業を進めていただきたい。
収入から所得を算出する計算表
 この申告書は手抜きをすれば一瞬で書くことができる。自分の所得の判定は900万円以下(A)、900万円超950万円以下(B)、950万円超1000万円以下(C)に分かれている。配偶者控除の対象外となる1000万円超を含めても4つに分けるための作業だ。
 前述したように給与所得者の約90%は所得900万円以下(年収1120万円以下)だ。ほとんどの人は計算する前から自分が(A)判定なのは奈良判定より明らかだろう。逆に年収1500万円、2000万円という人も自分が配偶者控除が受けられないことは計算をしなくても分かるはずだ。年収900万円超1000万円以下の人は給与所得者の1.9%。男性で2.9%、女性で0.4%しかいないので、判定が(B)(C)になる人は稀少。微妙な人だけまじめに計算すればよいだろう。
 配偶者の所得は、今年(平成30年)から働き方を変えて103万円の壁を越える年収になりそうな人はまじめに計算をしよう。昨年までと同じく100万円以下程度に収まる年収であれば判定は「②38万円以下かつ年齢70歳未満」となるので、細かく計算する必要はないと思われる。
 これで終了としたいが、まじめに計算してみよう。11月の段階で正確な年収を集計するのは難しい。10月分までの給与明細を集計し、11月と12月の給与とボーナスを推計し合計する必要がある。給与明細以外では源泉徴収表を参考にする方法があるが、今年の1月に受け取った源泉徴収票は平成29年1月~12月の収入なので、アベノミクス効果やオリンピック特需で給料が増えている人は増加分を乗せる必要がある。
 この例の安倍進次郎さんは前年と年収がほとんど変わらないので源泉徴収票を参考にした。源泉徴収票を見ると支払金額(=年収)は660万円だ。その隣に書かれた給与所得控除後の金額は474万円となっている。申告書の背面の計算式に当てはめると所得は474万円となった。所得=給与所得控除後の金額ということだ。計算する前から明らかだったが、安倍さんの判定は900万円以下でAとなった。
 660万円×90%-120万円=474万円
源泉徴収票を参考にすることもできる
背面の計算式に当てはめる
収入は660万円、所得は474万円でA判定となった
 安倍さんの奥さんは専業主婦で収入は0円。所得も0円なので判定は②。最下段の表の縦軸・区分IはA、横軸・区分IIは②となり控除の金額は38万円。下の摘要は配偶者控除となったので、右端の上段に38万円と記入した。
区分IがA、区分IIが②となり、配偶者控除38万円と算出された
 仮に安倍さんの奥さんが就職し年収が198万円だったとしよう。収入198万円を計算式に当てはめると所得は120万6000円で判定は④。最下段の表の縦軸・区分IはAのまま、横軸・区分IIは「120万円超123万円以下」となり控除の金額は3万円。下の摘要は配偶者特別控除となったので、右端の下段に3万円と記入した。
 198万円÷4=49万5000円 49万5000円×2.8-18万円=120万6000円
背面の計算式に当てはめる
区分IがA、区分IIが120万円超123万円以下となり、配偶者特別控除3万円と算出された
 収入から所得を求める計算が面倒という人は「平成30年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を使用すると計算が不要となる。
表の1,980,000以上1,984,000未満を見ると、1,206,000(=所得)となっている
 最上段の自分の情報は他の申告書と同様に記入しよう。

そもそも年末調整とは

 最後にサラリーマンの税金の仕組みをザックリと説明しよう。毎月の給与明細を見ると所得税、住民税という2つの税金が天引きされているはずだ。年末調整の直接の対象となるのは所得税。住民税はあとから所得税に連動する仕組みだ。所得税の算出式は以下のとおりだ。
サラリーマンの所得税の計算式。年収と各種所得控除が決まれば納税額は算出できる
サラリーマンの所得税算出の概念図。収入(年収)から給与所得控除を引くと所得。所得から各種控除を引くと課税所得。課税所得に税率を掛けると所得税が算出される
 計算式の1行目の給与所得控除は一定式で決まっていて、収入が分かれば計算により所得を求めることができる。計算式の2行目にある各種所得控除に注目しよう。配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などの各種所得控除が増えると課税所得が減り、納める所得税も減る仕組みだ。
 3行目の税率は課税所得により決まるので、収入と控除が分かれば所得税の額は算出できる。収入が増えれば納税額は増え、各種所得控除が増えれば納税額は減る。
 毎月の給与明細から天引きされている所得税は「給与所得の源泉徴収税額表(平成30年分)」で税額が決められている。
 一部を抜粋すると、社会保険料を差し引いた給与の金額が30万円の人は、表の299,000~302,000円に該当し、独身であれば扶養親族等の数が0人の欄の8420円、配偶者と子ども1人であれば2人の5130円が所得税の税額となり天引きされる。この表の扶養親族等の数は、控除の対象となる配偶者と扶養親族(16歳以上の子や親)の合計人数だ。そのもととなる情報は年末調整で提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」ということだ。
毎月天引きされる所得税の金額は源泉徴収税額表により定められていて、社会保険料を引いた給与の金額と扶養親族の数で決まる
 12月の給与でその年の収入(=年収)は確定する。この表の“みなし金額”で毎月納税している額はやや多めとなっていて、12月の給与が決まった時点で正確な収入を算出し、実際に支払った生命保険料などの控除も計算して最終的な納税額が確定する。この最終調整が年末調整で、結果として12月は少し手取り金額が増えることが多い。年末調整の申告書はみなしで払いすぎた税金を取り戻すための申告書と理解しよう。
 日本は少子高齢化で医療費などの社会保証費は肥大の一途だ。そのための財源としてさまざまな増税が今後も予想される。もし少子化問題が解決し、出生率が2.0を超えたとしても、増えた子どもが納税をするのは20年後だ。少子化は解決の糸口も見えない状態なので、向こう30年は増税が続くと筆者は思っている。
 今年(平成30年)の大きな税制改正は配偶者控除の見直しだ。記入例のところでも説明したとおり、サラリーマンの90%は所得900万円以下なので、どちらかと言えば減税になるが、所得1000万円を超える人は配偶者控除が受けられなくなり増税となった。
 図は昨年(平成29年)までの配偶者特別控除と今年(平成30年)以降の配偶者控除の仕組みを表している。手前の黄色が昨年まで。奥の3つは今年からで、一番奥の青は所得900万円以下、その手前の緑は900万円超950万円以下、その手前の紫は950万円超1000万円以下。所得が増えるほど控除が少なくなり増税となっている。
2017年(黄色)と2018年以降(奥側3つ)の配偶者控除の金額
 ちなみに所得1000万円を超える人は所得税の納税者の13%ほどだが、その13%の人の納税額は全体の83%ほどとなっている。税金は取りやすいところから取るということで、現状は高所得者が狙い撃ちされているが、所得1000万円、900万円、850万円……とジワジワと増税ターゲットのハードルは下げられている。
 「年末調整、面倒くせ~」「会社でやってくれよ」「たかが年末調整に手間をかけさせるな」などと思っている人もいるだろう。だが、扶養親族の漏れや年齢に間違いがあると特定扶養親族などの優遇が受けられなくなる。生命保険も申告をしないと控除されず、結果として税金を多く納めることとなる。税に対する理解を深めれば、生命保険の選び方で納税額を減らすこともできる。年末調整は、税金とは縁遠い人が税に関わる数少ない機会だ。将来の増税に備えるため、この機会に税に対する知識を深めていただきたい。