皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、親を実家から呼び寄せ、マンションを新たに購入して同居生活を来春スタートさせる、49歳の派遣社員の女性。家計コンサルタントの八ツ井慶子さんがアドバイスします

マンションを現金で購入。今後が老後資金はどう増やすべき?

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、親を実家から呼び寄せ、マンションを新たに購入して同居生活を来春スタートさせる、49歳の派遣社員の女性。しかし、購入したことで貯蓄が大きく減り、自分たちの老後や親の介護が心配になってきたということです。家計コンサルタントの八ツ井慶子さんがアドバイスします。

▼相談者のんのさん(仮名)
女性/派遣社員/49歳
賃貸住宅

▼家族構成一人暮らし

▼相談内容ご相談は、老後の不安です。先月、実家に住む母親と同居するためにマンション購入を契約し、来年3月から入居予定です。87歳の母は現在持ち家に住んでいますが、家も古く(築50年、土地100平米)、生活の不便な場所に住んでいるため、同居を決めました。実家は処分する予定でその費用に200万円ほどかかるそうです。マンションは母と私で資金を出し合い、私の預金は150万円に、母の預金は1600万円になりました。現金で買ったので住宅ローンはありません。マンションの管理費と修繕積立金、固定資産税を月割りすると4万~5万円になりそうです。

私は現在、派遣社員で働いており、来年の春に終了予定です。収入も不安定で年齢も高いため、次の仕事がみつかるのか不安です。マンション購入で貯蓄も大きく減り、母親の介護も必要になることも考えられます。今後のどのように老後資金を増やしていけばいいでしょうか。以上、長くなりましたが、どうぞよろしくお願いいたします。

▼家計収支データ

▼家計収支データ補足(1)加入保険について
・本人/個人年金保険(60歳から10年確定、年金額160万円)=毎月の保険料3万4167円
・本人/医療共済(病気死亡50万円、入院6000円、通院2000円)=毎月の保険料1600円
(※)詳細が不明な場合は、わかる範囲(商品名、保険会社名)で構いません。

(2)購入物件について
2LDK・バリアフリー仕様/64平米/物件価格4100万円
資金の割合/本人1700万円、母親2400万円

(3)公的年金について
母親の年金は月12万円、相談者の年金は「ねんきん定期便」によると9万円ほどになる予定。
(※)定期便を受け取った年齢からして、おそらく相談者の年金額は現在支払った保険料で算出した年金額で、今後増える可能性があると考えられます。

(4)貯蓄の経緯
23~35歳まで正社員として勤務。この間、年間100万円貯蓄していた。
退職金200万円も貯蓄。

(5)今後の働き方について
相談者コメント「働くことが好きなので、できればフルタイムで働きたい。現在派遣で勤務しているのは、正社員で職に就けなかったため」

(6)母親の健康状態
普段の生活に支障はなく、病院や高齢者が通う学校など、一人で出かけたりもする。ただ、足腰が弱っているので買い物などはあまりできない。持病はなく、87歳にしては食欲も旺盛とのこと。物忘れはかなりあるが、病院で検査した結果、認知症ではなく老化だった。

(7)兄弟について
2人の兄弟(ともに既婚)がいる。同居やマンション購入、実家の処分については基本的に同意、賛成している。下の兄弟は購入するマンションの近くに住み、病院の付き添い、買い物などは手伝うと言っている。上の兄弟は遠方だが、介護になれば援助するとのこと。

▼家計コンサルタント八ツ井慶子の3つのアドバイスアドバイス1 老後資金は大きく困らない程度に準備が可能
アドバイス2 長く働くことで老後資金も増える
アドバイス3 同居のメリットもあっておそらく収支はプラスで貯蓄できる

アドバイス1 老後資金は大きく困らない程度に準備が可能

ご相談の老後資金について、試算してみましょう。家計は、現時点での収支が継続されると仮定します。マンションに引っ越した後は、家賃はなくなりますが、管理費や固定資産税などの維持コストに月4万~5万円かかるとのことですから、便宜上、住宅コストも今と変わらないとします。

その場合、まず、60歳までにどのくらい金融資産ができるかですが、現在の貯蓄および投資ペースは月2万5000円。11年間で330万円(投資商品は評価額が変わらないとします)。今ある金融資産に上乗せすると、計580万円。これに個人年金保険の年金受給総額1600万円を、前倒しではありますが加算すると2180万円。これが一応、のんのさんが準備できる老後資金となります。

次に公的年金ですが、のんのさんの年金受給額がまだ未定です。いただいたデータでは月額9万円とありますが、「ねんきん定期便」を確認されての額だとすれば、それはこれまで支払った年金保険料から割り出したもの。50歳以降に受け取る定期便には60歳まで保険料を支払った場合の見込額が記載されますので、そちらを確認してみてください。

ともあれ、現状の収入が60歳になるまで継続したとすると、受給額は10万台前半。ただし、実際はそこから国民健康保険料と介護保険料が差し引かれますので(税金はおそらく非課税)、手取額は9万円台半ばといったところでしょう。

アドバイス2 長く働くことで老後資金も増える

では、老後の生活費はどうでしょうか、現在が14万5000円。ただし、個人年金保険料の支払額がなくなりますので、それ以外のコストが変わらなければ、保険料を差し引いた11万1000円が生活費となります。

となると、公的年金による生活費の不足額は月1万5000円程度。60歳から公的年金受給開始となる65歳まで、貯蓄を取り崩さない程度=約11万円、収入を得るとすれば、用意した老後資金だけで120年間カバーできる計算になります。となると、生活費以外にかかる支出(住宅リフォーム費用、自身の医療費や介護費用など)を考慮しても、十分、老後の生活設計はできるのではないでしょうか。

とは言え、まだ不確定要素も少なくないですから、ご自身も言われていわれているようにフルタイム勤務を目指すことはいいと思います。そして、できるだけ長く働くほど(収入が高くないとしても)老後期間が短くなり、その結果、老後資金により余裕が出ます。老後資金を実質的に増やす、もっもと確実な方法と言えるでしょう。また、適度に働くことは健康にもいい影響を与えます。日々の生活を大切にコツコツと働くことで、それなりの老後資金のプランは十分描けると考えます。

アドバイス3 同居のメリットもあっておそらく収支はプラスで貯蓄できる

家計で少し気になる点と言えば、投資部分。投資の詳細な内容は不明ですが、今後、アメリカを含めた投資環境、マーケットの動向については注意深く見ておくことをお勧めします。まだ大きな額ではありませんが、いざとなれば思い切って売却するといった判断も必要かもしれません。『殖やしたい』のか、『減らしたくない』のか、自分はどちらなのか自問してみるといいでしょう。

また、購入されたマンションの修繕積立金ですが、将来的には値上がりする可能性もあるでしょう。上がった分、家計負担は増えますから、先の試算も異なってきます。マンション規約などよく読んでおきましょう。

最後に、心配されているお母さまの介護。ここでは、介護費用を予測するのは難しいので、お母さまの家計とは切り離して、のんのさんの老後の資金設計を考えてみました。逆にいうと、お母さま自身で介護費用を賄うことができれば、先の計算に大きな変更はありません(ただし、働き方に変更がない場合に限る点は注意が必要です)。お母さまの年金額を考えると、同居のメリットもあって、おそらく収支はプラスで貯蓄できるのではないでしょうか。だとすると、「現在の貯蓄+これからできる貯蓄+年金」で介護に備えることができると思います。

今はまだ大変お元気とのこと。そこは大いに感謝すべきで、同時に、家事もある程度は任せることができれば、同居という中でのんのさんが助かる部分もあるでしょう。同居を前に心配事は当然あるでしょうが、せっかく新しい生活がスタートするのですから、まだ起きていないことに必要以上に心配にならず、楽しく日々を過ごしてほしいと思います。

相談者「のんの」さんから寄せられた感想

マンションを購入したのはいいけれど、生活していけるのか不安になっていましたが、アドバイスをいただいて安心できました。投資は増やしたいと思って始めましたが、コツコツ預金が自分には合っているので、時期を見て売却しようと思いました。母と同居を決めたことで、自分の老後の住まいも得られました。あとは収入を減らさないように、60~65歳までに働けるところを探すこと、体調を崩さないように食生活に気を付け、健康に過ごしたいと思います。ありがとうございました。

教えてくれたのは……
八ツ井慶子さん

家計コンサルタント。法政大学経済学部経済学科卒業。2001年4月より「家計の見直し相談センター」の相談員として、家計コンサルタントとしての活動を始める。13年7月に独立し、「生活マネー相談室」を設立。個人相談を中心に、講演、執筆、取材などの活動を展開。これまで1000世帯を超える相談実績をもつ。著書に『ムダづかい女子が幸せになる38のルール』『レシート○×チェックでズボラなあなたのお金が貯まり出す』など。テレビ、新聞、雑誌などでも活躍中

取材・文/清水京武
(文:あるじゃん 編集部)