「挑戦もせずに『私には才能がない』と思っている人が多いですが、誰にでも才能はあって、磨くことでとがらせられるんです」と語る坪田信貴氏

「挑戦もせずに『私には才能がない』と思っている人が多いですが、誰にでも才能はあって、磨くことでとがらせられるんです」と語る坪田信貴氏
スポーツや芸術、仕事や勉学など、あらゆる行為の出来不出来の判断基準に使われる「才能」。その優劣は、あたかも生まれつき決まっているようにも思われている。「才能がない」と言われたり、そう感じたりして肩を落としたことも一度はあるはずだ。
だが、『才能の正体』を上梓(じょうし)した坪田信貴氏は、「才能の芽は誰にでも必ずある」と断言する。
坪田氏といえば、著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』で一躍有名になった敏腕塾講師。現在は吉本興業の社外取締役も務めるなど、多岐にわたって活躍する氏が、これまでの個別指導や企業研修で培った経験をもとに、「才能」の磨き方を語った。
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──幼い頃から人の才能というものに疑問を抱いていたそうですね。
坪田 学生の頃にすごく勉強ができた時期があって、そのときに周囲の大人から「頭がいい」「天才」などと言われていたことがあったんです。それで、自分もしばらくそう思い込んでいたのですが(笑)、高校のときに母が「自分のことを天才だと思ってるかもしれないけど、違うよ」と(笑)。
実は、幼稚園のIQテストは散々な結果で、同じテストを2回受けて、ようやく合格していたというんです。結局、僕を褒めていた人たちはそんな過去も知らずに、その都度の定期テストや模試の点数、学年順位だけを見ていた。そのときに「人って結果で才能を決めてるだけじゃん?」って思ったんです。
多くの人は、いとも簡単に才能の有無を口にしますが、自分に「才能スカウター」があるわけでもなんでもないわけで、ただ結果を見て言っているだけなんですよね。
──結果だけに固執するから、うまくいかないとすぐに諦めてしまう人が多いと。
坪田 諦めるとか以前に、ほとんどの人がチャレンジもせずに、はなから「自分には才能がない」と思ってしまっています。特に、現代はそういった段階にまできてしまっていると思いますね。でも、本来はそうではなくて、才能は誰にでもあって磨くことでとがらせられるものです。
──勉学や仕事では、常に結果が求められますが、そこで一喜一憂せずにどう才能を磨いていけばいいのでしょう。
坪田 僕は結果がすべてだと思っていますが、その結果というのは長期的なもので、「目的」と同意だと思っています。「短期的な結果」と「長期的な結果(=目的)」は、どちらも大切ですが、かなり違うんです。
──どういうことでしょう。 
坪田 例えば、坪田塾に来る生徒さんの多くは、大学受験で成果を挙げたいと思って来ます。ところが、皆何を求めるかというと、目先の定期テストの結果ばかり求めるんです。
もちろん、大学受験と定期テストの結果にはなんの相関関係もないので、僕は受験の勉強をするように言います。でも、定期テストの点が悪いと塾を辞めてしまう。
そこで、一度だけ定期テストの対策を徹底させてみることにしたんです。すると、良い点数を取った子はめちゃくちゃ信頼してきてくれました(笑)。
本当に求めているのは長期的な結果ではあっても、やはり最初にある程度成果が出るということはすごく重要だということなんです。
本当の意味で才能を磨くためには、短期的な良い結果を最初のうちに出しておいて、目的を成し遂げる意欲を保つために、ちゃんと成功体験をつくっておくというのが大切ですね。
──では、経営者でもある坪田先生から見て、企業が社員の才能を伸ばすためにはどうすればいいでしょう。
坪田 まず、日本特有の「お金を払っているほうが偉い」といった価値観はやめたほうがいいと思います。社長がそう考えているような企業は、社員全員が社長のほうを向いてしまい、社長や上からの評価などに恐怖を感じるようになるんです。
これは「フィアーアピール」といって、不安を与えて人を動かそうとする手法で、短期的には効果的ですが、長い目で見ると絶対に人は動かなくなり、辞める人も増えます。それで「裏切られた」と言う社長さんは数多く見てきました。ですが、僕からすれば社長から人心が離れているだけだろうと。
そんな上下関係よりも、個々人の才能を伸ばすためには、僕は企業理念(=クレド)を徹底的に共有することが大切だと思っています。
──企業理念を理解している人は少ない印象がありますね。
坪田 そうなんです。有名企業から、地方の中小企業まで、僕は社員研修時に企業理念を必ず社員さん全員に聞くのですが、それぞれが似ているようで違うことを言いますね(笑)。
でも、これを共有することで、社員は社長ではなくお客さまを見るようになって、ますます成果を上げるようになります。もちろん坪田塾では、社員は僕に対してではなく、クレドを共有して仕事をしています。
自分で言うのもなんですが、僕がこれまでやってきた企業は、社長として在任している期間に辞めた社員がほぼゼロなんですよ。
──でも、そういった自由な環境って逆に大変そうですが。
坪田 確かに「おまえは何がやりたいんだ」って言われ続けるのはけっこうキツいですよね(笑)。そりゃあ、カリキュラムのとおりに勉強をやっていって、とりあえず給料と福利厚生がいい会社で言われたとおりにキャリアを重ねていったほうが楽っていうのは、気持ちとしてはすごくわかります。
それに、現代は「お父さんのようになっちゃダメだぞ」「私は苦労したから、あなたにはそんな目には遭ってほしくない」といったメッセージを親が言うことがとても多い(笑)。これは子供の希望をますますそぐと思うんです。
これが江戸時代だったら、子が父の働く背中を見て、将来を志すといった封建主義的な価値観があったわけです。そこに戻る必要はありませんが、僕は少なくとも、自分が信じる価値観をしっかりと持って、「すてきだな」と思える会社と、その仲間と一緒に働いてほしいなと思います。
そうすれば、今の資本主義社会の中でも自分を見失うことなく才能を磨いていくことができるようになるんじゃないのかなって思いますね。
●坪田信貴(つぼた・のぶたか)
坪田塾塾長、起業家。心理学を駆使した学習法により、これまでに1300人以上の子供たちを指導してきた。ほかにも、多くの企業でマネジャー研修や新人研修を担当し、現在は吉本興業の社外取締役も務める。著書に、大ベストセラーの『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(角川文庫)、『人間は9タイプ 仕事と対人関係がはかどる人間説明書』(KADOKAWA)など多数
■『才能の正体』
(幻冬舎 1500円+税)
「才能」という言葉は、抜きんでた成績を持つものに対してはポジティブな意味合いで使われる一方、「私には才能がないからムリ」などと、ネガティブな要素でも使われることも多い。『ビリギャル』の生みの親であり、これまで数多くの学生や社会人を育成してきた著者は、誰にでも才能の芽があることだけでなく、それをいかにして伸ばすかについて、実践的な側面からも切り込む。確かな指導実績に裏づけられたメソッドは、まさに目からうろこ。幅広い層にオススメしたい一冊だ。
撮影/五十嵐和博