国産初の小型ジェット旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)をグループで開発する三菱重工業が、競合相手であるカナダ航空機大手ボンバルディアの小型機事業買収に向け、交渉していることが明らかになった。
 三菱重工はMRJの開発だけでなく、機体納入後の整備・補修など保守事業を強化する必要もある。経営不振に陥ったとはいえ、ブラジルのエンブラエルとともに小型機市場で「2強」とされる強力なライバルを傘下に収める奇策で、劣勢を挽回したい構えだ。
 MRJは2020年半ばの初号機納入に向け、綱渡りの開発が続く。また、高い安全性が求められる旅客機は、整備や補修部品の供給など納入後の保守事業を充実させることが重要だ。「24時間体制で対応しなければならず、機体が納入できてからも大変だ」(三菱重工OB)という。既に小型機の納入実績があるボンバルディアの整備拠点や人員などを活用すれば、一気に体制を強化できる。
 仮契約も含めたMRJの受注は407機にとどまっており、数千機とされる採算ラインにはほど遠い。整備体制の強化を通じ、受注拡大に弾みをつけたい考えだ。
 保守事業で支援を受ける米航空機大手ボーイングの戦略も背中を押した可能性がある。同社はエンブラエルから年内に、MRJと競合する小型機事業を買収する計画だ。ボーイングはMRJの保守事業を計画通り支える意向を示している。しかし、三菱重工がボンバルディア買収に成功すれば、ボーイングとの関係が今後変わったとしても、自前で一定の対応が可能になるメリットが生まれる。
 ボンバルディアは、同社元従業員を採用して機密情報を不正に入手したとして、三菱重工傘下でMRJを開発している三菱航空機(愛知県豊山町)などを相手に提訴し、三菱航空機側も「根拠がない」として反訴している。法廷闘争の相手に仕掛けた買収交渉には、MRJをめぐる市場環境の厳しさも透けて見える。