小田急電鉄で乗降客数最多の駅は新宿で1日約50万人ですが、すぐ隣の南新宿はたった4000人ほどです。店舗や住宅、予備校や専門学校、病院などに囲まれているのに、なぜここまで利用者が少ないのか、実施に歩いて理由を探りました。
新宿駅から800mの場所にある静寂
小田急電鉄が公表している最新の乗降客数(2017年度)を見ると、1位は新宿駅で、1日あたり50万6229人。この数字は、2位の町田駅の29万2579人を大きく引き離して圧倒的トップです。
一方、このデータを下から見ていくと、全70駅中70位は小田原線の足柄駅(神奈川県小田原市)で3917人。この駅は終点、小田原駅のひとつ隣であり、利用客の少なさもなんとなくうなずけます。そしてさらにさかのぼって69位を見てみると、意外な名前の駅がランクインしていました。一体どんな所か気になり、実際に現地に赴いてきました。
南新宿駅。1番左の高いビルは代々木ゼミナール本部校 代ゼミタワー(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
この日、私はJR新宿駅の甲州街道改札を出て、国道20号(甲州街道)を渡り、小田急電鉄の新宿駅に向かいました。
改札をくぐり地下1階のホームから各駅停車に乗り込みます。発車後ほどなくして、「本日も小田急をご利用いただきありがとうございます。各駅停車、本厚木行きです」と自動アナウンスが流れました。続いて「まもなく南新宿です」と放送されると、電車は速度を上げないまま、最初の停車駅である南新宿駅に到着しました。
種明かしですが、今回の目的地、つまり小田急線内乗降客数69位の駅は、ここ、南新宿駅です。2017年度の1日あたりの乗降客数は4024人で、最下位の足柄駅とトントンです。ちなみにどちらの駅も、列車は各駅停車しか停まりません。
JR新宿駅前の甲州街道(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
小田急電鉄新宿駅の地下ホーム(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
南新宿駅(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
南新宿駅で下車したのは、ほかに4人。みな足早に改札へと向かっていきました。残されたのは筆者(蜂谷あす美:旅の文筆家)と、そして静寂でした。あの新宿駅から800mしか離れていないというのが、何か冗談のように思われます。
駅から北へ 昼休みのサラリーマンはどこから来る?
さて、ここからどこに向かってみようか――ホームで考えていたとき、視界に飛び込んできたのは高層ビル。最上部に「代々木ゼミナール」とありました。まずはこちらに向かうことにします。
駅近くの五差路に面した小学校は、すでに閉校していた(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
南新宿駅側から見た代々木ゼミナール。看板は、南新宿駅と反対の北側(甲州街道側)にある(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
甲州街道側から見た代々木ゼミナール(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
駅の改札を抜けた先にあったのは一方通行の細い道。周りは静かな住宅街といった印象で、ぶらぶらと歩きまわるには最適です。「代々木ゼミナール」を目指し、北のほうへしばらく歩くと、五差路にぶつかります。正面には代々木小学校の正門がありました。調べてみると、この学校はどうやら2015年に近隣の旧・山谷小学校と併合する形で閉校し、現在は渋谷区の施設となっているようです。
さらに3分ほど歩くと、先ほど見えた高層ビル「代々木ゼミナール本部校 代ゼミタワー」に到着しました。向かいにはJR東京総合病院もあります。大手予備校の本部、さらに総合病院が近くにあれば、自ずと駅の利用者数も増えそうなもの。しかしそうならない理由は、なぜでしょうか。
時刻はちょうどお昼どき、サラリーマンの人たちが昼食をとるべく、ぞろぞろと歩いており、行列のできている飲食店もありました。ここまでの行程では、こんなにたくさんの人に会っていません。サラリーマンはどこから来ているのか、その「上流」をたどると、どうやら北であることが分かりました。私が南新宿から北へ向かっていたので、まったく逆です。
代々木ゼミナールのはす向かい(北東)には、「都営大江戸線 新宿駅」の案内(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
代々木ゼミナールからさらに北上して、甲州街道に出る。写真奥がJR新宿駅(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
甲州街道から南下して来たほうが、代々木ゼミナールの幕がよく見える。奥の踏切は小田急特急「ロマンスカー」の50000形電車「VSE」が通過中(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
さらに北に何があるのかと歩みを続けるまでもなく、代ゼミタワーのはす向かいに都営地下鉄・京王新線の新宿駅への案内が出ているではありませんか。人々の源流を知るべく北上したところ、たどり着いたのは甲州街道。先ほどまでの住宅街とうって変わって、人もクルマも盛んに往来しており、パラレルワールドに迷い込んだような驚きがありました。
そしてさらに右を向けば、冒頭で渡ったJR新宿駅前の横断歩道が見えます。近すぎです。この南新宿駅の北側界隈は、新宿駅の徒歩圏内でもあるようです。おそらく多くの人にとっては、新宿駅から「ちょっと行ったところ」という扱いなのだと思います。
駅から南へ 小田急の元本社ビルがひっそりと
いろんなことに勝手に納得しつつ、再び代々木ゼミナールまで戻ってきたところで気付いたのは、ビル玄関口にそびえる「代々木ゼミナール」の看板が敷地のなかでも北側に位置しており、北(甲州街道側)を向いているということ。南新宿駅前にも「代々木ゼミナールはこちら」の案内板はありましたが、この予備校には、南下して訪れるのが正しかったようです。
さて、南新宿駅の北側を探検したので、次は南側へ向かってみます。代ゼミの通りをそのまま南下すると、小田急線新宿2号踏切の遮断機に引っ掛かりました。脇には「小田急トラベル旅行サロン代々木店」の入るレトロな「小田急南新宿ビル」があります。このビル、かつての小田急本社にあたります。
新宿2号踏切。写真右手の建物が小田急南新宿ビル(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
新宿2号踏切付近の歩道橋から見た新宿駅方面(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
新宿2号踏切付近の歩道橋から見た南新宿駅方面。写真左手が山野美容専門学校、右手が小田急南新宿ビル(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
南新宿駅は1927(昭和2)年の小田急線の開通とともに開業した駅です。当時の駅舎は、いまよりも100mほど新宿寄りで、千駄ヶ谷新田駅という駅でした。その後、本社が現在の小田急南新宿ビルに移転したあと、1937(昭和12)年「小田急本社前駅」と改称します。戦中は東急と合併したことにより本社ではなくなったため、1942(昭和17)年に「南新宿駅」とさらに名を改め、現在に至ります。その後、1973(昭和48)年には、新宿駅の改良工事に伴い、現在の場所に移転しました。
この新宿2号踏切を越えて、南新宿駅の南側に入ると、右手に山野美容専門学校があり、そのまま代々木商店街が続いていました。ちなみに南新宿駅、駅名にこそ「新宿」と入っていますが、実は住所は渋谷区代々木です。商店街には、マクドナルドやガスト、サイゼリヤといったチェーン店も見られますが、個人経営の飲食店も多く、見ているだけでお腹が誘惑に駆られました。こうして南下を続けることおよそ5分、北上したときと同様に、また大通りにぶつかります。道路標識によると東京都道414号。そして目の前にはJRと都営大江戸線の代々木駅がありました。こちらも近すぎです。
南新宿は、埋もれていてもやっぱり「新宿」!
南新宿駅の利用者が少ない理由は、つまるところ、利便性の高い駅が周囲に多く存在しているがゆえに、都会のど真ん中にありながら埋もれてしまっている、ということなのでしょう。前述のとおり南新宿駅に停車するのは、小田急小田原線の各駅停車のみです。一方で新宿駅や代々木駅は多くの鉄道路線が乗り入れており、使い勝手が抜群です。実際、歩き回るなかで見てきた代々木ゼミナールや山野美容専門学校は、ウェブサイトの交通案内で鉄道のアクセス方法を複数載せていますが、両サイトとも「南新宿から」を最後に表記していました。山野美容専門学校については、「南新宿駅徒歩1分」であるにもかかわらずです。
代々木商店街(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
代々木駅西口(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
路地を通って南新宿駅に戻る(2019年4月、蜂谷あす美撮影)。
南新宿駅までの帰路は、先ほどの代々木商店街ではなく、別の路地を通ってみることにしました。通りには、クリーニング店や街の電器店、あるいは定食屋など、普段使いの店や戸建て住宅、アパートなどが立ち並ぶ一方、視線を上にやれば遠くに高層ビルが控えているという、なかなか見られない光景で、まさに都会のエアポケットと呼ぶにふさわしいエリアでした。
こうして探訪の余韻に浸りつつ、南新宿駅まで戻ってきたところで、最後に現実を見せつけられました。それは、駅前の月極駐車場にあった「月額51,429円」という表示。思わず「わっ、高い」と独り言を発してしまいました。都会のエアポケットといいつつも、ここはまごうことなき「新宿界隈」でした。
小田急、MaaS基盤開発で日航やJR九州と連携
- 2019/5/27 17:44
小田急電鉄は27日、次世代移動サービス「MaaS(マース)」のアプリ向けのデータ基盤開発で日本航空やJR九州と連携すると発表した。データ基盤に日航の航空機の運航情報やJR九州の乗車券の販売状況を追加することで、MaaSアプリで使える機能を増やす。小田急はデータ基盤を他社にも開放し、MaaS市場の拡大を後押しする。
MaaSとは、複数の移動手段を組み合わせて一つのサービスとして提供する仕組み。小田急電鉄はルート検索大手のヴァル研究所(東京・杉並)と共同で、MaaSのアプリを作る際に必要な鉄道の運行情報や地図などのデータ基盤の「MaaS Japan(マース・ジャパン)」を開発している。マース・ジャパンに日航やJR九州、ジャパンタクシー(東京・千代田)、ディー・エヌ・エー(DeNA)の情報も追加する。
日航は航空機の運航情報、JR九州は鉄道の運行情報や特急券の販売情報、ジャパンタクシーやDeNAはタクシーの配車システムのデータを提供する。データ基盤をもとにMaaSアプリを開発する。小田急電鉄は今秋にアプリを用いて箱根などで実証実験をする計画だ。データ基盤は他社にも開放する予定。
MaaSアプリ向けのデータ基盤をイチから開発すると多額の費用がかかるとされており、MaaS参入の障壁になっていた。小田急の仕組みを使えば、事業者はシステムの利用料など少額の負担だけで済む利点がある。(長尾里穂)
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