賢者が選ぶ「年金術」(2/2)
年金を3階建ての建物に例えれば、基礎、2階の「公的年金」に上乗せできるのが“3階部分”である。老後の手取りを増やすにあたってのポイントとなる部分だが、まず検討したいiDeCo(イデコ)については前回説明したとおり。掛け金が全額所得控除になるなどのメリットがある一方、加入資格が60歳までという制限もあるのだ。
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イデコでの運用が面倒だという自営業の方なら、会社員は加入できない国民年金基金という選択肢がある。
「確定給付型なので運用によって増やすことはできませんが、イデコと同じく掛け金が全額所得控除となる。イデコでも国民年金基金でも、所得控除というメリットを最大限利用して、老後資金を増やしましょう」
とは、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!』の著者で、ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士の井戸美枝氏。もう60代で、イデコのお世話になることができないと嘆く貴方も、確実に年金を増やせる術はまだある。
例えば、定年後に再就職の意思を示せば、雇用保険の失業給付を受けられて、65歳以降なら年金と同時に貰えるが、他にもこんな制度を利用できる。
「失業給付の一種で、高年齢雇用継続給付というものがあります。これは再雇用された時に、給料が60歳到達時の額から75%未満になってしまった人に上乗せされるもの。雇用先が手続きしてくれることになっていますから、特別な申請は必要ありません」(同)
これは稀なケースで、年金制度は「申請主義」で、こちらが言いださない限りは貰えないお金が多いのだ。
ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏によれば、
「定年を迎えても、希望を出せば60歳以降も厚生年金に加入しながら働くことができます。1階部分の国民年金は、60歳までの間の保険料を納めた額で生涯の年金額が決まってしまいますが、2階部分の厚生年金は60歳以降も働いた分だけ年金額が高くなる。60歳以降も働くということは、給与収入が老後の生活を支えるだけでなく、将来貰うことのできる年金を増やすことにも繋がるのです」
受け取る時期をズラす
自営業などの個人事業主には、こんな裏ワザもあると紹介するのは、年金問題研究会代表の秋津和人氏である。
「厚生年金に加入していない方でも、国民年金には付加年金という制度があります。毎月の保険料に400円をプラスして納めていれば、納めた月数×200円で年金額が増えるというものです。例えば、60歳から任意加入した人が5年間だけ払い続けても、負担額は400円×60カ月で2万4千円。これで65歳から貰う年金額が年間1万2千円増えますから、たった2年で元が取れる格好になります」
長生きすればするほどお得になるというワケだ。
憶えておきたいのは、これら各種の年金やDC、まとまった額が貰える退職金などで一時的に定年後の年収が増えると、所得税や住民税、社会保険料などの負担も上がってしまうこと。
それを防ぐ手立てを再び井戸氏に聞いてみると、
「老後に貰えるお金は、なるべく貰う時期が集中してしまわないよう、受け取り時期をズラすのがオススメです。退職金やDCを全額受け取ってしまうより、退職所得控除の上限ギリギリの額を一時金として受け取る方がお得なんです。健康で長生きする自信がある方なら、70歳までは公的年金を繰り下げておき、それまではDCや企業年金を受け取って生活するという選択肢もあります」
「週刊新潮」2018年11月22日号 掲載
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