夫のDVを「子供のために我慢」して、つい浮気に走った妻の窮地
夫からの暴力などに悩んでも、離婚すると生活できない…とガマンしている女性は多いでしょう。
 配偶者・交際相手からのDV(暴力)についての相談は年間10万6110件にのぼり、うち98%は女性からの相談です(平成29年4月~30年3月、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数)。

 1992年から「離婚110番」を主宰する澁川良幸氏(離婚カウンセラー・夫婦問題アドバイザー)のところにも、DV相談は数多く寄せられるそうです。そこで、澁川さんの話をもとにケースを再現しました。

◆「子どものために我慢しよう」と思った

「3人の子供のために、私だけが我慢すればいいと思ったのが、間違いでした」と後悔の念を表情にいじませる菅野エリカさん(仮名・29歳・専業主婦)
 夫のDVを我慢することで子供たちを守ろうとしたエリカさんは、実はやっかいな過ちを犯してしまったのです。

「4年前に3歳上のサラリーマンの夫と結婚したきっかけは、夫の母親つまり姑と同じ職場で働いているうちに、見染められたのです。ところが結婚後、夫は何かというと、私を殴るようになって…」

 わがまま放題の夫は、自分の意に沿わないと、実の母親にもひどい言葉を浴びせます。姑から、彼が小さい頃から暴言を吐いていたと聞き、エリカさんは驚きます。夫を甘やかした姑にも責任はあるのではないか? と、姑に不信感を持ったそうです。

「子供も生まれて、何とか夫のDVをやめさせようとしました。親の育て方も悪かったのかも…と夫がかわいそうになることもありました。私が夫の母親のような存在になれば、DVもやめてくれるのではないかと優しくしたのですが、かえって激しさを増してしまって…」

◆つい浮気をしてしまい、DV相談員にも「自業自得」と…

 専業主婦で、子どもを育てるためにも、夫のDVを我慢していたエリカさん。辛すぎる日常から逃避したくて、とうとうSNSで知り合った男性と浮気してしまったのです。しかし浮気はたいてい配偶者にバレてしまうもの。

「夫に見つかってしまい、さらに暴力がエスカレートしていきました。身の危険を感じて、DV被害専門のNPOに相談したのですが、誰も親身になってくれなかったんです。それどころか、ある相談員から『自業自得ですね』と責められてしまって」

 困り果てたエリカさんは、しばらくは3人の子供たちのために、踏ん張ろうとします。
 誰も味方がいないなか、DV被害者の妻たちの声をネットで調べる日々。そしてある被害者が相談したというDV専門の弁護士を見つけて、訪ねたところ、「離婚できる」と言われたそうです。

「一刻も早く別居するように促され、協議離婚を勧められました。私の浮気が原因で始まったDVではなく、もともとDV被害者だったのだから、と。弁護士さんの力強い言葉に背中を押されて、子供たちのためにも早く離婚して、生活を立て直そうと決めました」

 子供たちを連れて別居してから、弁護士を介して、協議離婚を申し出た菅野さん。拒否されたら、調停、そして裁判で闘うことを辞さないと覚悟したそうです。
「弁護士の先生から、早期に離婚できるでしょうと言われました。私が慰謝料を請求しなかったからです。とにかく一刻も早く離婚したい」

 早い段階で調停にもっていったため、菅野さんは離婚できたそうです。

◆DV夫に母性は無用

 前出の「離婚110番」・渋川良幸氏は、「DV夫に、母性は無用」と一刀両断します。

「エリカさんのケースから学べるのは、浮気がまずいということ以上に、『夫がかわいそう』と母性を抱いてはいけない、ということです。
 夫をなんとかしてあげたい。本当は優しい人なのに、何かのきっかけでDVするようになった。だから私が夫を救ってあげる。――こういった母性は、DV男には通用しません。時に、DVを加速させてしまうのです」

 DV加害者は支配したいという強い欲求が、暴力へとエスカレートする傾向があります。被害者の「優しさ」は、さらに支配欲をかき立てることが多いというのです。

―シリーズ・DVを体験した女性たち―

<取材・文/夏目かをる>

【夏目かをる】
コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマン取材をもとに恋愛&婚活&結婚をテーマに執筆。難病克服後に医療ライターとしても活動。ブログ「恋するブログ☆~恋、のような気分で♪」