モテる、で儲ける元アイドルのネット社会
モテたい10~20代女子がこぞってファッションや化粧、しぐさをマネする女性がいる。モテクリエーターのゆうこすこと菅本裕子さん。ツイッターやインスタグラム、YouTubeなどSNSのフォロワー数は計150万人を超え、紹介した服やコスメは飛ぶように売れる。じつは彼女は、かつてAKBグループに所属していた元アイドル。なぜテレビではなくネットを主戦場として選んだのか。人気の秘密を田原総一朗が聞き出す!
■インフルエンサーになった本当の理由
【田原】菅本さんは、もともとHKT48にいらっしゃったんですね。どうしてアイドルをやろうと思ったの?
【菅本】恥ずかしいんですけど、私、中学校はサボリ気味で、あまり行ってなかったんです。それなのに、頭のいい高校に入ったらかっこいいと思って、受験1カ月前から猛勉強。なんとか合格できましたが、無理して入ったので入学後は案の定、授業についていけなくなりました。そんなときに見かけたのがHKTの告知。もともとAKBさんが好きなこともありましたが、「もし受かったら芸能系の高校に転校して夏休みの宿題をしなくてもよくなる!」と思って、オーディションを受けました。
【田原】オーディションに合格後は、歌を歌ったりしていた?
【菅本】はい。でも1年くらいでやめちゃいました。だからCDデビューもしていません。
【田原】どうして?
【菅本】恋愛したくなっちゃったんです。高校に通いながらアイドルをしていたのですが、学校にはカップルがたくさんいて、ああ、うらやましいなと。
【田原】AKBは恋愛がご法度でしたね。どうして恋愛禁止なんだろう?
【菅本】どうしてですかね。応援している人は、夢だけに集中してほしいと思うのかな。
【田原】そうですか。やめた後は、無事、恋愛できた?
【菅本】しました(笑)。
【田原】やめた後は何をしていたのですか。普通の高校生?
【菅本】アイドルをやめたときにあるデマが流れました。きっかけは、誰かがヤフー知恵袋に「やめたのは、ファンとお酒を飲んでタバコを吸ったのが発覚したからじゃないか」と臆測を書いたこと。それが1人歩きして、テレビや新聞、雑誌が本当のことのように報じ始めました。地元のローカル局で自分のニュースを見たときはびっくり。「えーっ!」と思って局に電話したら、「ネットに書いてありました」で、2度びっくりです。そのせいで学校で後ろ指をさされるようになり、地元にもいづらくなりました。それで学校をやめて、料理の専門学校に。卒業した後は、ニートになりました。
【田原】またタレントになろうとは思わなかったの? AKBじゃなきゃ恋愛もできるだろうし。
【菅本】無理だと思ってました。いちおう元アイドルという肩書でそれっぽい活動はしていたのですが、ファンイベントを開催したら3人しか集まらなかった。タレントになろうとしても、仕事はなかったと思います。
【田原】ファンイベント?
【菅本】トークショーみたいなものです。当時ツイッターのフォロワーが3万人いたし、地元の福岡だったので、100人くらいは来てくれるかなと期待していたんです。いざふたを開けたら3人だけでトークショーというよりガールズバー状態(笑)。
【田原】その後はどうしました?
【菅本】自分が本当にやりたいことって何だろうと考えました。そこで出てきたのが、少人数でいいから誰かに共感されたいということ。顔だけちょっと好きというのではなく、私の考え方まで含めて好きでいてくれる人に、何か伝えられたらいいなと。
【田原】菅本さんの考え方って?
【菅本】私、生まれつき“ぶりっ子”なんです。でも、女子は「モテたい」と言っちゃいけないという風潮があるじゃないですか。私は「ぶりっ子でべつによくない?」と思っていたので、モテを伝えたいなと。ただ、テレビだと、私の思いはきっと表面的なところしか伝わらない。だから、ツイッターやインスタグラム、YouTubeなど、インターネットで発信を始めました。
【田原】発信するって、具体的にはどうやるの?
【菅本】自分で動画を撮影・編集して発信しています。私はメークやファッションが好きなので、「ぶりっ子のための毎日メークを紹介しまーす!」と言いながらメークを紹介する。俗にいうユーチューバーですね。
【田原】反応はどうでした?
【菅本】最初はボチボチでしたが、見た人がコメントをつけてくれたり、友達に「ゆうこすって知ってる?」って伝えてくれて、少しずつファンが広がっていきました。いまはフォロワーが150万人以上います。
■You Tubeで儲けるキッカケ
【田原】「ゆうこす」は、菅本さんの芸名ですよね。この呼び名は、いつつくったんですか?
【菅本】芸名というより、高校のときからのニックネームです。昔からのあだ名をそのまま使いました。
【田原】フォロワーが増えて、どうなりしたか?
【菅本】だいたい半年後くらいからマネタイズできるようになりました。たとえば私が動画の中で口紅を塗ると、みんなが「かわいい」「それ欲しい」とコメントをつけてくれて、その口紅がめちゃくちゃ売れるようになりました。それを見た化粧品会社から「こんど新商品が出るので、一緒に動画をつくりませんか」と声をかけていただけるようになって。いわゆるインフルエンサーマーケティングですね。そうした広告案件がどんどん増えて、多いときには月に100本のオファーが届くように。それで会社を立ち上げました。
【田原】菅本さんもいわゆるインフルエンサーになったわけね。
【菅本】はい。2016年末頃には、そう呼ばれることが増えてきました。
【田原】インフルエンサーになると、スポンサーがついてお金も儲かる。あなたは評判になりたかった? それとも稼ぎたかった? どっちが先かな。
【菅本】最初は稼ぎたかったです。ニートだったから、ちゃんと生きていけるくらいは欲しいなと。
【田原】何度も聞くけど、タレントになろうと思わなかったんですか? 歌を歌ったりテレビに出るようになれば、稼げるかもしれない。
【菅本】本当に好きなことができないイメージがあったんですね。なんだろう、決められたことをしないといけないというか、「演者」と言われるだけあって何か演じないといけないという勝手な思い込みがありました。自分のやりたいようにやるには、テレビよりSNSなんじゃないかなと。
【田原】なるほど。テレビは窮屈で、ネットなら本音で発信できると。菅本さんにたくさんのフォロワーがついたのも、本音で話したからかな。
【菅本】そうですね。「本当は私もモテたいけど、そんなこと言えない」という子たちはたくさんいます。そこで私が「みんなでモテようよ」と言ったから、共感が広がったのかなと。もちろん全員がモテに共感してくれることはありません。30人のクラスがあれば、たぶん1人か2人です。でも、ニッチだからこそ熱量が高いと思ってます。
■ゆうこすとトランプの共通点
【田原】嫌がるかもしれないけど、菅本さんはアメリカ大統領のトランプに似てるね。
【菅本】え? 私がですか。といっても、トランプさんのことはあまり知らなくて……。
【田原】トランプ以前の大統領は、アメリカが世界のためにどう尽くすか、世界の安全保障をどう守るかということばかりを言ってきました。ところがその結果、アメリカの経済はダメになって失業者が増えた。そこに現れたのが、アメリカさえよければいいというトランプです。じつはアメリカ国民も本音ではそう考えていたから、大統領選に勝っちゃった。本音と本音がむすびついたという点では、あなたもそうだ。
【菅本】あはは、たしかに。まさかトランプさんに似てると言われるとは思っていなかったです(笑)。
【田原】インフルエンサーのほかには何かやっているのですか。
【菅本】化粧品会社を2年前につくって、18年の9月からスキンケアの商品を売っています。
【田原】化粧品をつくるとなると、お金がかかるんじゃない?
【菅本】3000万円くらいかかりました。それまでの自分の活動の利益で用意できたので、ギャンブルするつもりでバーンと注ぎ込みました。
【田原】生産はどうしてるの?
【菅本】インターネットで調べて、つくってくれる会社を見つけました。いまはサティス製薬という会社にお願いして、6商品をつくってます。
【田原】なんで化粧品をつくったの?
【菅本】理由は2つあります。まず、もともと私は肌荒れがひどかった。化粧品なら、同じように肌荒れに悩む子と同じ気持ちになれると思いました。もう1つは、スキンケア商品のPRがやりにくいから。たとえば服やコスメはインフルエンサーが毎回違う商品を紹介していてもおかしくないですよね。でも、スキンケアは毎回違う商品を紹介していたら信用されなくなってしまう。1つに絞らなくちゃいけないなら、自分でブランドをつくっちゃおうかなと。
【田原】この化粧品は売れてますか?
【菅本】18年発売したときは個数が足りなくて、取り合い状態に。19年4月から正式にスタートして、1日で1800万円売り上げました。月2000万~3000万円くらいです。
【田原】インフルエンサーの活動も含めて会社の売り上げはどれくらい?
【菅本】ざくっと言うと2億円です。従業員も8人になりました。
【田原】すごいね。でも、若いうちに有名になりすぎたんじゃない? もっと言うと、この先も持つのかな。
【菅本】若いからいいんですよ! じつは私、売上高2億円になるまで、えげつない量の失敗をしてるんです。もし40代だったら心が折れていたと思いますが、若いと「まだ若いから」と許してもらえた。逆にうまくいけば「若いのにすごい」って言われます(笑)。もちろん田原さんがおっしゃるように、30歳、40歳になってもフォロワーを増やし続けるのは難しいと思ってます。でも、それもちゃんと手を打っているんですよ。
【田原】次の手?
【菅本】いま私の会社に、インターネットで活躍したい若い子たちが約350人所属しています。私自身は3年以内にインフルエンサーをやめて、会社に専念するつもりです。一番いいときにやめたほうがかっこいいので(笑)。
【田原】つまりネットの芸能事務所ね。
【菅本】テレビに出ようと思うと芸能事務所に入らないといけませんが、地方の子たちはチャンスが少ない。でも、インターネットなら発信ができます。
■ネット上での炎上怖くないの?
【田原】いまの若い人たちは、テレビよりネットで有名になりたいのかな。
【菅本】そこはいろいろで、ネットをステップにしてテレビに行きたい子もいると思います。ただ、いまはネットのほうが安心です。私はHKTをやめたあと、怪しい事務所にスカウトされて入りました。最初は料理タレントでレシピ本を出すという話だったのに、「やっぱりグラビアDVDを」と言葉巧みに脱がせようとしてきた。こういうケースは珍しくなくて。一方、ネットで私が所属の子に怪しいことをしたら、すぐ晒されて信用を失います。
【田原】タレントさんたちは女性?
【菅本】女性限定です。いまのところ私は女性の応援のされ方しかよくわからなくて。いまいる子たちが成長して私に自信がついたら、男性もカバーするかもしれません。
【田原】ネットだから、地方だけじゃなくて海外もありですか。
■いつかは中国に展開したい
【菅本】外国人の子もいますし、逆に日本から海外に配信している子たちもいます。英語でテロップをつくったり、中国語を話したり。スキンケアブランドもいつかは中国に展開したいと思っているので、私もちょっとだけ中国語を習いに行ってました。
【田原】1つ聞かせてください。菅本さんは1度、ネットで炎上したでしょう? またネットで活動するのは、怖くなかったですか。
【菅本】SNSをやっていたら、アンチと言われる人たちは必ず出てきます。ただ、最近はかなり減ってきました。私は自分のことを「丸く尖ってる」と思っているんです。モテは誰も言ってこなかったから尖っていますが、誰かを批判しているわけじゃないから、先端が丸い。だから最近は炎上もしないのかなと。
【田原】最後に1つ。モテを極めて、いまは恋人がいらっしゃる?
【菅本】いまはいないんですよぉ。悲しいけど、仕事が恋人になっちゃって。
【田原】そうなんだ。今後の活躍、期待しています。
ゆうこすさんへのメッセージ:トランプのように本音をバンバン発信しろ!
(ジャーナリスト 田原 総一朗、モテクリエイター 菅本 裕子 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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