翻訳の相場は、英日翻訳で1ワード0.09~0.13 USD。これはA4一枚で約250USDです。一方で、0.01 USDで請け負う翻訳業者もいます。
なぜ、ここまで価格が違うのか、機械翻訳が進歩しているのに、なぜこんなに高いのでしょう。現役のフリーランス翻訳家である早瀧正治が解説します。

1. 機械はニュアンスを翻訳できない

機械翻訳は日々進歩していますが、未だにニュアンスの翻訳はできません。
下記がわかりやすいでしょうか。
たとえば、bachelor(バチュラー)という単語、未婚男性、独身男性、学士と辞書では訳しています。ここでクイズです。どれが、一般的なbachelorの定義に近いでしょう?
1. 籍を入れていない彼女と10年同棲している人
2. 年金で細々と暮らす、奥さんに先立たれた80歳の男性
3. 投資銀行で働く高給取りで、毎日パーティに行くプレイボーイ
正解は3番です(笑)。
その他にも、日本語の「こころ」、「ココロ」、「心」は、微妙にニュアンスが違いますが機械にとってはどれも同じ意味として捉えてしまいます。
こういった、細かいニュアンスは機械翻訳が苦手とするところ。そのため、ニュアンスの翻訳が必要な分野では、必然的に価格が上がるのです。
一方で、製品の説明書などの文章はニュアンス翻訳が少ないので単価が下がります。

2. 機械にできないTranscreation = Translation(翻訳)+Creation(創作)が重要

広告や、ウェブサイトのヘッドラインなどは、翻訳よりもコピーライティングの分野です。
どんなに正確な翻訳をしても、文法のミスがひとつもなくても、売れなければ意味がないからです。
日本語で広告を作成するときは、有名なコピーライターに高いお金を払って、心に響く一文を書いてもらうのに、海外に展開するときは、社内で一番TOEICの点数が高い人が広告を英訳する。そんな広告では、英語のネイティブには響きません。
コピーライティングの場合、翻訳者あるいは編集者には、原文をある程度無視することが求められます。原文を無視して、新しい文章を作ることは、機械翻訳には決してできません。

3. 新しい単語を作ることもある

金融やIT関連文章の翻訳の場合、翻訳者は新しい言葉を作らなければならないときもあります。
たとえば、敵対的買収を仕掛けられた対象会社を、買収者に対抗して、友好的に買収または合併する会社のことを英語で「white knight」と言います。
日本語では、ホワイトナイトと訳すのが一般的ですが、この単語が初めて登場したとき、機械翻訳は「白騎士」などと翻訳したはずです。
つまり機械は、インプットをしたものをアウトプットするのが基本。そもそもインプットされてない言葉や翻訳パターンは、機械翻訳では上手に処理できません。
新しい単語を認識し、日本語に訳すとき、それをどのように翻訳するかの判断は、機械翻訳より人間の方がずっと上手にできます。

4. 原文の作成者や依頼者と相談が必要になる

たとえば、「田中君ってヤムチャっぽいよね」は、一部の日本人に通じます。
しかし、これをそのまま英訳はできません。漫画ドラゴンボールの「ヤムチャ」というキャラクターが持つ、かませ犬やヘタレというニュアンスは、それを知っている人にしか通じないからです。
同様に、欧米では大人気のドラマ『Game of Thrones』の例えをスタートアップ企業のブログでよく見かけますが、これを背景や文脈を説明せずに、そのまま日本語に翻訳しても理解されないでしょう。
また、欧米各国では「Best Lifehacking media(最高のライフハックメディア)」という言い回しを使った広告が許されているところがあります。
ところが、日本では他者と比較したり、No.1・ベスト・最強などの言葉を使うことは、景品表示法に抵触するため、そのまま翻訳はできません。
このように、直訳すると問題になる場合、翻訳者は依頼人に相談する必要が出てきます。(残念ながらまったく相談しない人や代理店もたくさんいますが)。
この相談や調整をする作業は、機械翻訳には決してできない仕事です。
そもそも、安い翻訳者や代理店、機械翻訳を使った訳文を確認しないのは、外国人の残念な漢字タトゥーのようなもの。
そう心得て、必要に応じて的確な翻訳をしてくれる相手に適正な価格で仕事を頼みましょう。
早瀧正治
海外を旅しながら働くノマドワーカー。フリーランスのオンラインマーケターとして、海外企業の日本のプロモーションする。趣味は写真(Instagram:masaharuh)。旅程と現在地はこちら。仕事のサイトはこちら。
Image: Gettyimages
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