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 11月22日に行われたMarkeZine Day 2018 Kansai の基調講演に、「データドリブンで体験価値を創出 ~USJが進めるCX変革~」と題し、ユー・エス・ジェイの柿丸繁氏が登壇。データドリブンで新たな顧客体験の創造・向上の取り組みに積極的な同社だが、取り組みが推進できるまでの道のりには並々ならぬ努力と地道な社内啓蒙があった。その活動をリードしてきた柿丸氏が、3年以上にも及ぶプロジェクト推進の裏側を語る。

■入社後すぐに変わった、データに対する価値観

 ニッセン、楽天とダイレクトマーケティングやECに関わる業務に携わってきた柿丸氏。その中でデータの活用に魅了され、特にオンラインデータとリアル行動データを駆使したマーケティングにチャレンジしたいと、2014年にユー・エス・ジェイに入社した。しかし、すぐ大きな壁にぶち当たったという。
合同会社 ユー・エス・ジェイ デジタルマーケティングチーム 柿丸 繁氏

 「これまで私は、データを細かく・大量に集め、緻密に改善を繰り返すことが良いと考えていました。ある意味では正しいのですが、テーマパーク事業においては経営に大きくインパクトが出る戦略であることが優先。入社して早々に、私自身のデータに対する価値観が大きく変わったのです」

 考えを改めた柿丸氏は、2013年にチケットECストア、2014年にはWebサイトをフルリニューアル。オンラインによるチケット販売枚数は3年で300%も伸長したが、それでもコンビニやパークなどのリアル販売チャネルのほうが強く、経営層の関心は低かった。

 続いて、デジタルの間接貢献を可視化するため、アクセス解析ツールのリプレースに取りかかる。その際も、プロジェクトごとに異なっていたデジタルKPIの共通言語化を行い、マスマーケティングとのシナジーも証明した。しかし、ネクストアクションが提示できず「アクションのない数字の可視化に投資判断はできない」と言われてしまう。

■決裁者を説得できないビジネスマンは失格

 そんな中、柿丸氏にチャンスが訪れた。パークの入場ゲートのマシンを入れ替えるオペレーションプロジェクトがスタートし、「マーケティングにも活用できる方法はないか」という相談が舞い込んだのだ。

 「QRコードで入場させて、ゲストIDと連携することで、ゲストのパーク内における行動データを蓄積することができると考えました。そのデータをもとにゲストを理解し、リアル行動のCRMに取り組もうとしたのです」

 こうして、データファーストからユーザーファーストでのデジタル活用を掲げた柿丸氏だったが、前途多難な日々は続いた。

 「社内にデジタルマーケティングの必要性を説いて回りましたが、理解されず、不満がたまる一方でした。その当時の上司から『決裁者が理解できない提案をしてどうする、君はビジネスマン失格だ』と叱責されたんです。そこで、社内の人に向けたインターナルマーケティングの方法を改善しなければ、と気づきました」

 柿丸氏は「ぜひ知恵を貸してほしい」というアプローチで勉強会を開き、経営層へデジタルマーケティングの必要性を浸透させていった。さらに、デジタル活用で得られるメリットを各事業部に提案し、ステークホルダーからの理解を深めていったのだ。

 「時間はかかりましたが、地道な活動は必要でした」と柿丸氏は当時を振り返る。およそ2年越しのプロジェクトが、ようやくスタートした。

MarkeZine編集部[編]、関口 達朗[写]、マチコマキ[著]