大永さんの1か月のこづかいは2万円で、奥さんが1万円。収入が少ないなかにあっても、毎月しっかり確保できているという
 15%を超える貧困率(等価可処分所得が中央値の半分を下回る相対的貧困者の割合)が社会問題となっている日本だが、その予備軍の増加も深刻化している。しかし、そんな“ほぼ貧困”状態にある[年収300万円家族]でも、幸福に生活できている人もいる。そのワケとは?

◆超倹約家の妻のおかげで失業と親の介護を見事に克服

●大永富雄さん(仮名・45歳)/世帯年収275万円/家族構成:妻+子供(9歳)

 心身をジワジワと蝕む低所得の恐怖。だが、なかには少ない収入にもかかわらず、幸福を実感できている人もいる。

「口を開けばため息ばかりで、ネットで自殺サイトを調べるほどネガティブになっていました」

 そう人生のドン底を振り返る大永富雄さん(仮名・45歳)。そんな彼を救ったのは、「キツいのは今だけだから絶対に焦らないで」という妻の一言だ。

「子供がやっと小学校に入ったころに私の母親が脳梗塞で倒れ、同時期に長年勤めていた会社が倒産。ともかく落ち込んでいたので、その言葉にすごく励まされました」

 妻は元看護師で介護のために職場復帰が遠のいたが、共働きができなくとも家計的にはそこまでピンチではなかったと明かす。

「子供が生まれるまでの共働きだったときに、僕が想像していたよりも妻がしっかり貯金していたことを、このときに知りました。おかげで焦ることなく転職活動に臨めたことで今があります」

 40代が正社員で転職するのは難しいが、大永さんが活用したのは転職者向けの口コミサイト。現在の勤務先は賃金こそ安かったが、「非正規雇用でも正社員に登用される人が多い」との書き込みが複数あり、それを狙って契約社員として入社したという。

「それが功を奏し、今月からは正社員になれました。今の年収は約275万円と低く、いきなり大幅な収入増は期待できません。けど、それよりも安定が何より嬉しい。中途入社なのでそれなりでしょうけど、定年まで勤めれば退職金ももらえるので」

 さらに母を介護中の妻も遠くない時期に職場復帰できる可能性が高いことが安心材料になっている。

「実は、母親は10年ほど前からがんの再発を繰り返しており、余命宣告も受けています。職場復帰後の妻の収入は今の私の稼ぎよりも間違いなく多く、共働きになれば世帯年収は700万円を超えるでしょう。不謹慎かもしれませんが、介護は5年や10年続くことは考えにくいため、そういった意味で楽観視している部分はありますね」

 とはいえ、やはり大きいのは40代半ばにして正社員になったこと。退職金も出ない非正規雇用のままであれば、夫婦の老後の生活に影響を及ぼす可能性もあったからだ。

「今の少ない収入でも貯金は少しずつしていますし、おこづかいは2万円もある。このお金のおかげで子供にお菓子を買ったり、一緒に遊びにいったりできているので精神的にも助かっています」

 家計をコントロールしてくれる妻への感謝を繰り返す大永さんに低収入への悲観は見当たらない。

<大永さんの光明>
家族の的確なバックアップにより焦らず職選びができたことで好転

【1か月の収支】
月収      23万円
家賃      4万円
食費      6万円
外食費     1万2000円
水道光熱費   1万円
通信費     1万円
その他雑費   2万3000円
ローン・借金  3万5000円
こづかい    3万円
収支+1万円
(月収には児童手当1万円を含む)

― 年収300万円家族の苦悩 ―