中国庶民の生活がどんどん厳しくなっていく。マンションは購入後に値下がり、給料踏み倒しも…
 経済力や技術力で「日中逆転」が叫ばれ、イノベーション大国として中国を持ち上げる論調が近年増えていたが、米中貿易戦争の火蓋が切られた夏頃から、流れが一気に変わったように見える。いったい何が起きている?

◆可処分所得がどんどん減っていく庶民

「ふざけるな! なんで俺が買ったときよりも安いんだ、カネを返せ!」

 吹き抜けの玄関ホールに、男の怒号が響いた。広東省仏山市の新築高層マンションで行われていた、現地販売会での出来事だ。現場にいた現地在住の日本人は言う。

「男は竣工前にマンションの売買契約を行っていたそうで、販売会では最初の売り出し価格より8%ほど値下げして売っていた。自分が買ったマンションがわずか数か月で資産価値が減っては当然、面白くなかったんでしょう」

 これまで、例えば上海市内の物件なら、竣工前に売り切れるのが当たり前だったが、最近は売れ残ることも多く、セール価格での販売会も各所で開催されるようになったという。『東方日報』(10月17日付)も、上海の不動産会社に過去に物件を購入した数十人の住人が押しかけ、現在の売り出し価格との差額返還を求め、事務所を破損するなど暴徒化したと伝えている。似たような事件は、福建省の廈門(アモイ)市や貴州省貴陽市でも発生しているという。中国の不動産市場にも明るいジャーナリストの姫田小夏氏は、政府公表のデータからは見えてこない実情をこう話す。

「中国では、不動産価格の急落を避けるため、当局によるあの手この手のマクロ調整が行われている。ただ上海市を見ると不動産成約量は下がってきており、不動産市場が軟調であることは確かでしょう。それでも、不動産をいくつも持っているような富裕層はそれほど切迫した状況にない。かわいそうなのは、外から移り住み、結婚などを機に最近1軒目をようやく買った下位中間層。一番高いときに買っているのでローン返済も苦しい。売却も難しいので房奴(ファンヌー・住宅ローン奴隷)を続けるしかない」

「賃貸派」も決して楽ではない。武漢市在住の日本人駐在員は話す。

「賃貸相場はどんどん上がっている。私の周りも、契約更新時に大家から突然賃料の値上げを通告される例が相次いでいる。『キャピタルゲインで儲けられないならインカムゲインで』と考える大家が増えてきているようです。しかも値上げ幅は2~3割。日本のように居住権というものがない中国では、それが嫌なら賃借人は出ていくしかない。賃貸住まいの人のなかには、副業で配車アプリを使って運転手をやったり、日本製品の転売などをする人が増えています」

 経済鈍化のしわ寄せは、結局庶民が被るということか……。

「企業の倒産でも難を被るのはやはり庶民」と話すのは、北京在住18年で『本当は怖い 中国発イノベーションの正体』を上梓した作家の谷崎光氏だ。

「中国では企業が破産する際に経営者は国内外などに逃亡し、結果的に給料や支払いが踏み倒されることが往々にして起こる。先日もシェアサイクル会社が倒産し、デポジットを預けていた利用者や、給与を踏み倒された社員が責任者を訴え、裁判になっていました」

◆灰色収入にもメス。来年から徴税強化

 谷崎氏によると、そうした世情を反映してか「景気自体は“曇り”ですが、最近は若者が安定志向になっており、公務員が人気職業として返り咲いている」という。アリババのジャック・マーやテンセントのポニー・マーのように、一代で大富豪へとのし上がる起業家はもう出てこないかもしれない。

 景気減退で人々の財布のヒモも堅くなっている。消費者マインドを表す消費者信頼感指数は2月には24ポイントだったのが、6月には18.2ポイントと大きく悪化している。

 北京市で日本料理店を経営する日本人も、消費者マインドの低下を身をもって感じている。

「半年ほど前から、客単価が2割ほど落ち込みました。特に高価格帯の日本酒などが売れなくなった。ウチだけではなく、他の多くの同業者も客単価の低下に悩んでいる。一方で、テナント料は上がっているので、閉店する店も多い」

 この経営者がさらに危惧しているのが、来年1月の改正個人所得税法の施行だという。

「今回の改正では、中所得者以下の税負担が軽くなる一方、徴税自体は厳しくなると見られています。有名女優が脱税で挙げられたのも、その“前哨戦”だと見られている。中国ではキャッシュレス化が進んでおり、個人のカネの流れも当局に筒抜け。灰色収入も含めて所得税を納めなければならなくなったら、ウチのような外食産業はさらに売り上げがガタ落ちでしょう」

 消費低迷という副作用が目に見えていながら、徴税強化に踏み切る中国政府。やはり財政は破綻寸前ということなのか!?

― 中国経済は崩壊する ―