厚生年金や健康保険などの社会保険料は、4、5、6月の給料から決められる「標準報酬月額」というものを元に計算されます。

厚生年金と健康保険の保険料はどうやって決まる?

給与から引かれるものは、主に「税金」と「社会保険」です。この社会保険のうち、厚生年金保険料と健康保険料が通常は4、5、6月の給料によって決められていることをご存知でしょうか?

つまり、4、5、6月に残業代が多く支給されると、1年間の社会保険料が高くなります。3、4、5月などに残業が多く、4、5、6月分の残業代が増えれば、負担が重くなるということです。これで1年間の保険料が決まるので、少し注意したいですね。

そこで、厚生年金保険料や健康保険料が決まる仕組みと、実際の給料がどれくらい保険料に反映されるかをご紹介します。

厚生年金、健康保険の保険料は「標準報酬月額」を元に計算

厚生年金や健康保険などの社会保険料は、給料の金額に比例して決まっています。この保険料計算、毎月1人ずつ個別に計算していては、その作業だけでも膨大なものになります。

そこで、月々の給料から支払うべき保険料を「標準報酬月額」という仕組みを使って簡易に計算できるようにしています。

標準報酬月額とは、月額の報酬を報酬額に応じていくつかの等級に区分けしたものです。その標準報酬月額の区分に応じて、保険料が自動的に決まります。また、この標準報酬月額は、厚生年金と健康保険で分け方が少し異なります。

厚生年金の標準報酬月額は31等級


この表は、厚生年金の標準報酬月額等級です。全部で31等級となっています。例えば、月額の報酬が9万3000円未満であれば1等級とみなし、標準報酬月額は8万8000円となります。最高等級は報酬月額が60万5000円以上の31等級で、標準報酬月額が62万円となっています。

平成28年10月分から、厚生年金の標準報酬月額の下限(1等級)が変更され8万8000円となりました。平成28年9月までは、9万8000円でした。

この報酬は、賃金、給料、俸給、手当その他どんな名称であっても、労務の対償として受けるものすべてを含みます。もちろん、残業手当もこの報酬に含まれます。

健康保険の標準報酬月額は50等級


健康保険の標準報酬月額は、厚生年金よりもさらに細かく区分けされています。1等級は、報酬月額6万3000円未満で、標準報酬月額は5万8000円。最高ランクは報酬月額135万5000円以上の50等級で、標準報酬月額は139万円となっています(平成28年4月より)。平成28年3月までは、最高等級は47等級で標準報酬月額は121万円でした。このように、平成28年4月より標準報酬月額の上限が変更されました。

厚生年金も健康保険も、この標準報酬月額ごとに保険料が決まります。そして通常、この標準報酬月額の等級を決めるのが、4、5、6月分の給料になります。

4、5、6月の給料で1年間の保険料が決まる

厚生年金や健康保険の保険料は、標準報酬月額で決まりますが、この標準報酬月額は毎年7月1日に、4、5、6月の3カ月間の報酬の平均額を元に決定されます。

そして基本的には、4、5、6月の給与で決まった標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月までの1年間利用されることになります(昇給や降給などによって大きく報酬額が変化した場合は、標準報酬月額の改定が行われることもあります)。

つまり、3、4、5月などに残業が多くなって4、5、6月の残業代が増えた場合、その後の1年間の厚生年金保険料と健康保険料がアップする可能性が出てくるということです。

報酬は、労働の対償として受け取るもの

ここで、何が「報酬」と見なされるかを確認しておきましょう。

報酬とは、賃金、給料、手当などの名称を問わず、労働の対償として受け取るもの全てをいいます。ただし、3カ月を超える期間ごとに受け取るものは報酬にはなりません。年に2回支給されるボーナスなどは報酬に含まれないということですね。

報酬となるものとしては、基本給はもちろん残業手当、休日手当、皆勤手当、役付手当などが含まれます。また、通勤手当、家族手当、住宅手当、食事手当なども報酬となります。また、定期券など現物給付されているものも、その時価相当と計算されて報酬に含まれます。

報酬に含まれないものとして、退職手当や結婚祝金、出張旅費や出張手当などがあります。

厚生年金、健康保険の保険料は、標準報酬月額×保険料率

厚生年金の保険料率は、一般の被保険者で18.3%。これを会社と折半することになるので、実際の負担はその半分の9.151%となります(平成29年9月分(同年10月納付分)から(厚生年金基金加入員を除く))。

健康保険の保険料率は、加入している健康保険によって異なります。例えば、全国健康保険協会管掌健康保険で東京都の場合だと、保険料率は9.9%。この半分が実際の負担で4.95%となります。また、40歳以上になれば、介護保険料の負担も加わり、保険料負担率11.63%(折半により実際の負担は5.815%)となります(健康保険:平成30年3月分(4月納付分)から、介護保険:平成31年3月分(4月納付分)から)。

月3万円の残業手当で保険料負担が年6万7600円アップ

具体的な残業代でどれくらい保険料がアップするかを計算してみましょう。

例えば、月額の報酬が20万円の人に、月3万円の残業代が4、5、6月の各月に加算されたとします。

報酬月額が20万円の人は、標準報酬月額は20万円の区分に分けられます(厚生年金:14等級、健康保険17等級)。

この人が毎月3万円の報酬アップとなり、報酬月額が23万円となったとしましょう。報酬月額が23万円の人は、標準報酬月額は24万円の区分に分けられます(厚生年金:16等級、健康保険19等級)。

なんと、標準報酬が2ランクアップとなりました。

標準報酬月額が20万円の場合、厚生年金保険料は1万8300円、健康保険料は9900円で、合計2万8200円。標準報酬月額が24万円になると、厚生年金保険料は2万1960円、健康保険料は1万1880円で合計3万3840円(いずれも、全国健康保険協会管掌健康保険料(東京都)で40歳未満の場合。平成30年3月分から)。

すると、1カ月の社会保険料が、単純計算で5640円アップすることになります。これが1年間になると、6万7680円のアップとなります。

この残業手当の支給が7、8、9月であったとすると、保険料には何の影響もなかったことになります。社会保険料を考えると、4、5、6月に支給される残業手当には少し注意したいですね。
(文:福一 由紀(マネーガイド))