先日、ZOZOの田端信太郎さんと、NPOで頑張ってる藤田孝典さんとがネットでの論争の果てにネットテレビで対談していたというので見物していたんですよ。どちらの議論もそれ相応に内側に秘めたるものを持っているだけあって、事前の予想通り平行線をしっかり辿っていたのが印象的でした。何より、藤田孝典さんがなかば田端さんに懇願するように「賃金上げてくださいよ」と語りかけていて、ああ、これは田端さんとの対談ではなくて、番組を観ている特定の誰かに伝えようとしている内容なのだなということで得心が行きました。

「田端藤田の生討論」とは何だったのか


 なにぶん、カンニング竹山さんの番組だったので、途中から話に竹山さんが割り込んできて俺の話を聞け状態となり、また、奥のほうでスパローズ大和さんが缶ビール飲んだりゲストに酒持ってきたりしていました。こういう企画でもない限りクソ深夜にネット番組なんぞ観ないとは思いますが、これはこれで楽しかったです。

ZOZOの前澤友作氏 ©︎AFLO
AbemaTVで「田端信太郎VS藤田孝典」の対談を見物した #田端藤田の生討論 - やまもといちろう 公式ブログ https://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/13206296.html
藤田孝典さんと田端信太郎さんのツイッターのバトルが興味深かった
https://today-is-the-first-day.com/2018-10-11
カンニング竹山の土曜The NIGHT#41~田端信太郎VS藤田孝典公開討論!~ @AbemaTV で視聴中
https://gxyt4.app.goo.gl/zW61y #田端藤田の生討論
 で、もともとは藤田孝典さんが謎の「月面旅行」を発表したZOZO経営者・前澤友作さんのネタに噛みついたのが発端のようでした。そんなクソ金余らせているんなら労働者に少しは還元しろよと藤田さんが言いたくなるのも気持ちは分かる。一方で、インターネットのサービス業界全体で見れば週休3日を実現したり、能力に関わらず給料を平等にしようとする前澤友作さんというのはカルロス・ゴーンさんのような強欲で剛腕な感じとは程遠い人物で、ZOZOで働いている面々でそこまで労働環境が悪いという話は聞いたことがなく、どっちかというとクリーンで高給を払っている方です。
 また、月面旅行とかいってますけど、実現するかどうかは別として、基本的には会社のカネで行くのではなく、前澤さんの個人的なカネで行くって話なので、税金全部納めた後で好きに使う分には文句も言いづらかろうと思います。なんかZOZOが広報頑張っていたけど、それはまあご愛敬ということで。なもんで、藤田さんがZOZO田端さんに「賃金上げてくださいよ」っていうのは、パフォーマンスとしては面白いんだけれども、きちんと調べずに対談に臨んでしまったのだなあと残念に感じる部分が大なのであります。

外国人受け入れの青写真が見えてこない

 で、その賃金に関する問題は結構根深くて、なにぶん、安倍政権も外国人労働者を単純労働であっても門戸を開く受け入れの方向で政策審議が進んでしまっているため、かなりの混乱の渦中にあります。11月21日から審議入りした衆院法務委員会で外国人労働者の受け入れ拡大に向け在留資格を創設する出入国管理法改正案について山下貴司法相が提案理由説明をおっぱじめ、来年度からの5年間で受け入れを見込む外国人が最大約34万5,000人と、おいちょっとと思うわけであります。
 単純な話、外国人の受け入れを進めたい背景というのは日本国内の少子高齢化が原因であって、国内の労働者が足りないので、安く働いてくれる外国人労働者を日本に移民として連れてこようという劇薬のような話であることは言うまでもありません。大丈夫なのでしょうか。基本的には、いろんな国からやってくる外国人をどのように受け入れるのか、日本社会にどうやって溶け込んでもらい、理解をし、一緒に暮らしていくのかという青写真がまだちゃんとないよなあ、というのがまずあります。いまはまだ景気がいいから仕事はあるけど、景気が悪くなったら失業する日本人と仕事を奪い合いすることにもなりかねません。
 何より、人手不足の状態であるならば、まずは賃上げをして、貴重な労働力に資金が還元されて賃金上昇の局面になってから考える必要がありますし、金融・為替政策面で解決しようとするなら円安誘導を是正すればよいわけです。そもそも、デフレ対策をするべきと言い、賃金の上昇がなければ日本経済の生産性が上がらないと叫んでいたはずなのに、人手不足なので賃金を上げるという政策ではなく安い外国人に来てもらうという話をしている時点で、アベノミクスは経済政策として破綻しています。

どこから光を当てて理解しようとするか

 そのしわ寄せは、人を雇う側ではなく、雇われる側、とりわけ外国からやってくる、日本語もまだおぼつかない人たちに仕事を奪われる可能性のある単純労働の日本人であることは、よく考えたほうがいいと思うのです。すなわち、運送会社で物流を担ったり、コンビニエンスストアで応対したり、居酒屋などで客に見えない厨房で働く仕事を担うのが、安い給料で働く外国人に置き換わる。あるいは、漁村で養殖の仕事をしたり、介護の現場で日本人の老人の世話をしたり、酒屋や旅館で頑張るのは外国人がメインになったとき、果たして彼らは本当に日本社会に好意を持ち、溶け込んでくれるのでしょうか。
「そういう外国人が安く雇えるから」と、置き換えの対象とされるのはスキルを持たない日本人である以上、確かに最低賃金が云々といってもなかなか給料は上げてもらえなくなるでしょう。まさに藤田孝典さんが「時給を1,200円に」という話をしているのも、田端信太郎さんが「そういう仕事が嫌ならば他の仕事を探せばいい」と喝破するのも、同じ現実が抱える問題に対してどこから光を当てて理解しようとするかという状況に他なりません。
 そして、その最低賃金が引き上げられ時給1,200円が実現したのだとしても、それはサラリーマンで言うならば額面21万円に過ぎません。社会保険料などもろもろ引かれて17万ちょっとの手取りで、結婚し、子どもを儲け、育み、自らの老後に備えようという気持ちになれるのか、というのは、政策に携わる人はもちろん、いまを生きる現代日本人全員がよく考えていくべきことなんじゃないかと思うわけです。

ゴーン会長逮捕に怒りたくなるのは庶民感情なのですが

 そりゃ日産ゴーン会長が50億円も所得を過少申告してました、と言われれば「なんだその金額は」と怒りたくなるのが庶民感情なのですが、実際には日本社会の経済的な没落を受け入れるためにも日産が経験したような大胆な改革が必要であったことを考えれば、怒る先はどこにあるのか、あるいはどう怒るべきなのかはもうちょっと冷静に考えたほうがいいんじゃないかとすら思います。
「優れたリーダーにこれだけのお金を払って、こういう利益が出ました」と言える社会にしたいですし、我々はデフレから脱却したかったのに何で安く働いてくれる外国人を大量に入れてるんだ? という話も含めて、議論のできる余地はたくさんあると感じます。田端信太郎さんと藤田孝典さんの議論は、本当はもっともっと、掘り下げられるもののはずなんですがねえ。