※本稿は著者・山口周『劣化するオッサン社会の処方箋』(光文社)の一部を再編集したものです。
■人材のクオリティは、世代交代のたびに三流に近づく
人材の質を一流、二流、三流と分けた場合、もっとも出現率が高いのは三流です。企業を起業し、成長させることは一流の人材にしかできないことですが、組織が成長し、人員が増加すればするほど、採用のエラーや人材の枯渇といった要因から三流の人材が増えることになります。
その上でさらに、二流の人間は一流の人間を見抜けますが、三流の人間は一流の人間を見抜けず、二流の人間は一流にコンプレックスを抱えていてこれを疎んじるため、一度でも二流の人材がトップにつけば、以降、その組織のトップに一流の人材がつくことはなく、人材のクオリティは世代交代のたびに三流の平均値へと収斂していくことになります。
組織の人材クオリティが、世代交代を経るごとにエントロピー増大の影響を受けて三流の平均値に収斂するということは、長く続いている大企業であればあるほど、リーダーシップのクオリティが劣化している確率が高いということです。
2018年6月、1896年の開始以来、ダウ平均株価の構成銘柄であり続けた最後の企業であるGEが、ついにそこから外れ、話題となりました。
ダウ平均株価を構成する30の企業には、その時代のアメリカ経済を代表するような企業が選ばれ、必要に応じて入れ替えられてきましたが、GEを最後に、開始以来選ばれている企業がなくなったのです。現象面だけからいえば、100年以上にわたって「代表的な企業」であり続けることは不可能だということなのでしょう。
このメカニズムにより、なぜ劣化したオッサンが組織の上層部に居座るようになるのかが理解できると思います。
■もう長生きしてきただけのオッサンの経験は役に立たない
かつて人類は、「何百年ものあいだ、ライフスタイルがほとんど変わらない」という時期を過ごしてきました。このような社会であれば、オッサンたちが有する過去の経験や知識は、コミュニティや組織の存続にとって貴重で重要なものであり、したがって、社会において「長く生きている」人々が尊重されたのも合理的であったと思われます。
しかし、現在のように環境変化が早く、過去の知識や経験の陳腐化がどんどん進む社会では、単に「長く生きている」ことの価値は減少していくことになります。それどころか、「昔とった杵柄」よろしく、不良資産化した知識や経験を振り回すようになれば、むしろ老害をなす存在にすらなってしまいます。
そして実際に、そのような「権力だけは与えられたけれども、まともな知性を育んでこなかった」オッサンたちが、この国の各所でポジションにしがみつき、配下の中堅・若手を振り回して彼らの人生を無為に消耗させています。
このような社会にあって、私たちは、単に年長者だからというだけの理由で、その人を尊重し、彼らの意見や行動に対して、おもねって従う理由はまったくありません。
重要なのは、その人の意見や行動が、自分の判断基準に照らして「真・善・美」であるかどうかということであり、もしそうでないのであれば、別に恭順する必要はありません。むしろより積極的に、これを攻撃・否定することが求められます。
■劣化したくない若者よ、オッサンに意見を
劣化したオッサンがここまで大量に出現した最大の理由は、配下の中堅・若手からのフィードバックの欠如です。学習のためにはフィードバックが不可欠ですが、劣化したオッサンたちはこれまでの人生でまともなフィードバックを受けていないため、ここまで劣化してしまったのだと考えられます。
では、どのようなフィードバックが有効なのか。
カギはオピニオンとエグジットの二つを活用することです。
オピニオンとは、自分がおかしい、間違っていると思ったときにはそれを声に出して意見する、ということです。エグジットとは、オピニオンによって状況が改善しない場合、その場所から退出するということです。
逆にいえば、オピニオンもエグジットもしないということは、権力者の言動を支持しているということでもあります。
一連の不祥事を起こした企業に身を置きながら、オピニオンもエグジットもせず、ただダラダラとその日の糧を得ているということは、これらの不祥事に自分もまた加担し、それらを主導した権力者を支持している、ということにほかなりません。
もちろん、本人としては致し方なくそのようにせざるを得ない、という事情があるのかも知れませんが、そのような状態に甘んじてしまうことはとても危険です。
なぜなら、長い年月にわたってそんな状態を続けていれば、自分自身が「劣化したオッサン」になってしまうことは、間違いないからです。
■「会社以外で通用するスキル」や「会社の外に開かれたネットワーク」があるか?
では、そのような状態を避けるためにはどうすればよいのか。
キーワードは「モビリティ」です。
どこでも生きられる、誰とでも働けるという自信が、オピニオンとエグジットの活用へとつながり、これが権力を牽制する圧力となります。
モビリティを高めるためには「会社以外で通用するスキル」と「会社の外に開かれたネットワーク」が重要になってきます。
では、どのようにしてこの二つを獲得し、育てることができるか。
カギは「良質な仕事体験」と「社外での活動」ということになるでしょう。
社外でも通用するようなスキルや知識の獲得は、良質な業務体験と良質なコーチングによってなされます。メンバーの立場として、これら二つをコントロールすることはそれほど簡単なことではありませんが、できる限り良質で大変な仕事を、なるべく優秀で見識のある上司とやる、というのが基本的な戦略になります。
その上で、自分の仕事体験が、難易度とスキルの釣り合ったものになっているかどうかのチェックを定期的に行いましょう。
■「異業種交流会」を除いた、意味ある社外活動を
人の能力は、タスクの難易度とスキルが適度に釣り合った「フロー」に入ったときにはじめて開発されます。
しかし、日本では、多くの人がタスクの難易度も低く、スキルのレベルも低い「無気力」のゾーンで仕事をしている。長いこと「無気力」の領域で仕事をしていれば、スキルも開発されず、そもそもチャレンジができないような状態に追い込まれることになるので注意が必要です。
また、会社の外に開かれたネットワークを構築するには、「社外での活動量」を増やすしかありません。
よく、社外での人脈を増やすことを目的にして、異業種交流会などに出席している人がいますが、個人的にはあまり効果がないのではないか、と思っています。なぜなら、仕事の契機につながるような意味のある人脈は、単にパーティで名刺交換した程度のつながりでは作り出せないからです。
その人の信用というのは、ストレスのかかる状況下で、どのような判断や言動を取るかを観察しなければ、生まれません。そのような状況下でも、人として「真・善・美」にのっとった判断や行動ができる人だ、ということがわかれば、その人の信用の貯金口座には新たな振り込みがされることになります。そして、この「ストレスのかかった状態」というのは、やはり仕事を通じてしか得られません。
これが、筆者が異業種交流会などの効果に懐疑的な理由です。
(コンサルタント 山口 周 写真=iStock.com)
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