皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、夫が株に失敗して貯蓄のほとんどを使ってしまったという40代の女性。ファイナンシャル・プランナーの飯村久美さんがアドバイスします

貯蓄が少なく、退職金もなし。でも70歳まで働くつもり

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、夫が株に失敗して貯蓄のほとんどを使ってしまったという40代の女性。しかも夫の会社は退職金がないため、老後の暮らしに大きな不安を感じるというお悩みです。ファイナンシャル・プランナーの飯村久美さんがアドバイスします。

▼相談者クルミさん(仮名)
女性/契約社員/45歳
持ち家・一戸建て

▼家族構成夫(会社員/47歳)

▼相談内容夫が転職してボーナスがなくなり、年間支出を払っていくのがやっとという家計になりました。住宅ローンが2700万円も残っており、あと23年間支払えるかも不安です。夫が株に失敗して1500万円以上使ってしまい、貯蓄はもちろん、退職金もありません。今は2人で働いて、やっと生活できるという状況です。これからどうしたらいいでしょうか。

▼家計収支データ

▼家計収支データ補足(1)住宅ローンについて
・ローン開始年/2007年(新築物件)
・借入額/3750万円(諸費用込み、頭金0円)
・現在のローン残高/ 2700万円
・返済年数(借入期間)/35年
・金利/当初5年変動、5年目から10年固定。1.25%から1.75%へ上昇
・毎月の返済額/11万8000円
・固定資産税/6万5000円

(2)加入保険の保障と保険料の内訳
[夫]
・がん保険(入院2万円、診断給付金200万円、死亡保障1000万円)=毎月の保険料7400円
[妻]
・がん保険(入院2万円、診断給付金200万円、死亡保障500万円)=毎月の保険料5200円

(3)株式投資の失敗について
相談者コメント「平成6年から15年まで。銘柄は詳しくはわかりません。損失を補填するために借金を繰り返したため、すべて精算してやめました」

(4)今後の働き方について
夫は近々、今の会社を退職して、同業種で再就職する予定。夫婦とも70歳までは何としても働かなくてはと思っている。

(5)公的年金の加入状況について
受給額は、夫120万円、妻45万円(年額)程度

▼ファイナンシャル・プランナー飯村久美の3つのアドバイスアドバイス1 まずは住宅ローンの借り換えを検討
アドバイス2 家計は食費を中心に見直す余地あり
アドバイス3 70歳まで働き、家計をスリム化すれば老後資金は足りる

アドバイス1 まずは住宅ローンの借り換えを検討

いろいろご心配のようですが、まずは住宅ローンから見ていきます。金利が10年固定で1.75%とのことですから、これは借り換えをしましょう。現在の金利は10年固定で0.8%くらい、変動ならば0.5%を切る金融機関もあります。低金利時代なのでお金は増えませんが、ローンは恩恵があります。借り換えをして、しっかりメリットを享受してください。

参考までに、返済額の概算をシミュレーションしてみます。金利0.8%、返済期間は現在と同じ23年とすると毎月の返済額は約10万7000円、返済期間を20年に短縮すると約12万2000円になります。諸費用を考慮しても、総返済額の差は250万円以上になるはずです。金融機関のホームページなどで簡単にシミュレーションできますから、返済期間や返済額を変えてさまざまなケースを試算してみてください。

余裕のない家計ではありませんし、教育費がかかる子どもがいるわけでもありませんから、返済額を減らすのではなく、返済期間を短縮する方向で考えましょう。

アドバイス2 家計は食費を中心に見直す余地あり

家計については、見直す余地がありそうです。まずは食費。ご夫婦2人で7万円はちょっと多すぎます。この金額は、子ども2人世帯の目安。クルミさんの働き方は契約社員とのことですから、それほど時間がないことはないでしょう。もう少し工夫して4万円くらいを目指してください。

通信費も、スマホは格安SIMに変えてはどうでしょう。通話が多い、キャリアメールがどうしても必要でなければ、大手キャリアでなくても不自由はありません。初期設定を自分でやるのが不安ならば、量販店などにショップがある会社にすれば店頭でサポートしてくれます。一度手続きをすればその後は何もしなくても節約できますから、通信費の削減はストレスがありません。ぜひ検討してみてください。

雑費も少し多めのようです。内訳を細かく確認して、不要な支出がないか確認してみてください。不思議なもので、支出を振り返るだけでも節約できるようになります。

節約にはつながらないかもしれませんが、保険の内容も少し気になります。がんだけに手厚い内容ですが、特にご心配があるのでしょうか。脳や心臓の病気になる可能性もありますから、がん保険の保障を半分にし、医療保険に入ってはどうでしょう。高血圧や糖尿病になると加入しにくくなりますから、早めに検討してみてください。

アドバイス3 70歳まで働き、家計をスリム化すれば老後資金は足りる

70歳まで働こうと考えていらっしゃるとのこと。その気持ちは健康にもつながりますから、とてもいいことだと思います。老後資金が足りないからということではなく、前向きに捉えてモチベーションを維持してください。では、70歳まで働くことを前提に、老後資金を見ていきましょう。
 
70歳までに貯められるお金は、現在の貯蓄額に先述の見直しを加えて毎月8万円程度、概算で年間100万円とします。ご主人が70歳になるまで23年ありますから、2300万円を貯められることになります。

70歳以降は現在の家計から住宅ローンと貯金がなくなりますから、毎月の支出は20万円くらい。年金がご夫婦合わせて年間165万円ということは1カ月あたり13万7500円ですから、約7万円不足することになります。これを20年間で取り崩していくと、7万円×12カ月×20年で1680万円。70歳までに貯められるお金で、生活費はまかなえることがわかります。

もちろん毎月の支出以外のお金も必要になるでしょうが、現在の貯蓄額と合わせれば1000万円近くの余裕があります。今後はご夫婦で家計状況を共有し、健康管理に留意することを心がけてください。

相談者「クルミ」さんから寄せられた感想

先生のアドバイス、ありがとうございました。第三者のご意見を伺い、気持ちの整理ができたように思います。きちんと貯めていけば老後の生活がまかなえるとわかったことは大きな収穫でした。これから前向きに働いていこうと思います。どうもありがとうございました。

教えてくれたのは……
飯村 久美さん

ファイナンシャルプランナー。FP事務所アイプランニング代表、All About家計簿家計管理ガイド。金融機関在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。自らの経験から、お金の正しい知識を身に付けることが「やりたいこと」や「夢」の実現につながる一方で、「生活を守る手段」であると痛感し、FPとして独立。2006年、FP事務所アイプランニング開業。これまでの家計診断は1000世帯。「日本の家計を元気に」をモットーに活動中。NHK「日曜討論」、日本テレビ「ヒルナンデス!」 などメディア出演多数。著書に「シングル女子の今日からはじめる貯蓄術」(成美堂出版)、「ズボラでもお金がみるみる貯まる37の方法」(アスコム)、「子どもを持ったら知っておきたいお金の話」(中経出版)など。

取材・文/鈴木弥生
(文:あるじゃん 編集部)