財務省を退職後、就職先が見つからず無職だった半年間は、夫婦の預金が8万円まで減り、「世の中から求められていない」という現実に苦しみました。一方で、マッキンゼーのニューヨーク時代には、プラチナカードを持ち、ファーストクラスで飛び回り、ホテルのスイートルームで特別な待遇を受けるという華やかな暮らしを経験しました。
お金がない生活と、お金がある生活の両極をわずか数年の間に経験し、私はお金について正反対ともいえる以下の結論を得ました。
・お金がなければお金に縛られる
・お金がありすぎてもお金に縛られやすい
なぜお金があってもなくてもお金に縛られてしまうのでしょうか。自分の経験と反省から、その理由を考察し、さらに「お金に縛られないための3つのルール」をお伝えしたいと思います。
お金がなければお金に縛られる
こちらは想像がつきやすいのではないかと思いますが、お金がなければお金に縛られます。
「お金がない」の定義は人それぞれだと思いますが、私の場合、夫婦の預金が合わせて8万円まで落ち込んだときに、「お金がない」ことを痛感しました。
そもそもなぜこんな状態になったかというと、仕事を辞めてMBA留学したものの、次の仕事が見つからなかったからです。
「家庭を大事にしたい」という思いから、10年近く勤めた財務省を退職した後、フランスのパリ郊外のビジネススクールにMBA留学しました。学費が高く、退職時に1000万あった貯金は、卒業するとき100万円を切っていました。
ビジネススクールを卒業すれば仕事が見つかるだろうという見立ては甘く、20社近い企業に応募しても受かりません。同級生が次々と内定をもらう中、無職の状態で卒業することになりました。帰国後も就職活動を続ける中、ついに預金が8万円まで落ち込みました。
こうなると、お金のことばかり考えてしまいます。野菜の値段が数十円変わるだけで身体が反応するほどで、知らず知らずのうちにお金に縛られてしまっていました。ただ、最もつらかったのは、「お金がないこと」そのものではなく、世の中の誰からも求められていないという感覚でした。
あるとき四谷3丁目のスターバックスで、妻と1杯のコーヒーを分け合っていたら、目の前にいた老婦人が愛犬にマンゴー味のフラペチーノを食べさせ始めました。この瞬間、言い表しようのない衝撃を受けました。飼い主から必要とされ、フラペチーノをおいしそうに食べている犬。片や、無職でお金もなく、昼間から1杯のコーヒーを分け合っている自分。自分は世の中に必要とされていない人間だ――。
世の中に必要とされ貢献していれば、お金はおのずと入ってきます。当時の私にお金がなかったのは、世の中で必要とされることをしていなかったからです。とはいえ、当時はそんな考えに至る余裕もなく、次の職場となったマッキンゼーに拾ってもらうまで、お金のこと以外は考えられない状態でした。
ちなみに「犬以下」は、今となってはよい経験だったと感じます。とくにマッキンゼーをやめて起業しようと思ったとき、失敗してすべてを失ったとしても「犬以下」にはならない、と腹をくくりました。 いい例えかどうかはわかりませんが、お化け屋敷も一度入ればそれほど怖くなくなります。一度どん底を知っていたからこそ、自分が信じる道を選べたのだと思います。
お金がありすぎてもお金に縛られる
お金がない状態から、今度は「お金がありすぎる」状態へと急展開していきます。お金がないときの「お金に縛られる」は、お金のことしか考えられない状態でした。不思議なことに、お金がありすぎるときも、お金のことしか考えられない状態に陥りがちです。
マッキンゼーのニューヨーク時代、高年収とVIP待遇によって、私もそうですし、お金に縛られた同僚を何人も見てきました。コンサルタントにかかわらず、年収の高い職種の人は、要注意だと思います。
マッキンゼーで働き始めた私を待っていたのは、別世界でした。ニューヨークでは、クレジットカードがプラチナカードになり、飛行機は毎回ファーストクラスにアップグレードされ、空港ではリムジンが出迎えてくれました。
アメリカのさまざまな都市を飛び回ると、ホテルのスイートルームに、支配人からの手紙とともにフルーツが用意されていました。専任のコンシェルジュが付き、出張先にちょうどよいホテルがない場合にはライバルチェーンのホテルを予約してくれるほどの特別待遇でした。
想像していなかった出来事が起こるとあっけにとられるように、突如訪れたきらびやかな生活に私はいっとき心を奪われていました。
私の場合、どん底から反転し、収入が急増したこともお金に縛られた原因の1つだと思います。アメリカ人の妻は、私がいつ“Do you know who I am?(私をいったい誰だと思っているんだ?)”と言い出すのではないかと心配していました。
舞い上がっていた私ですが、次第に違和感を覚えるようになりました。プラチナカードもリムジンもスイートルームも、マッキンゼーのメンバーとしての特別扱いにすぎません。
そもそも、「家庭を大事にしたい」という思いで財務省を辞めたのに、気づけば週に4日は出張で家にいません。スイートルームにチェックインしても、ソファで1人深夜まで仕事をし、早朝から電話会議に臨むような毎日です。家族と離れて仕事に追われ、睡眠不足になっている自分に気づいたとき、言い表しようのない虚無感に襲われました。やがてプラチナカードは解約し、スイートルームも断るようになりました。
収入が上がって生活水準を極端に上げると、お金のことばかり考えてしまいます。マッキンゼーの同僚の中には、収入が上がったことで交遊関係が派手になったり、極端にお酒に身を投じる人もいました。分不相応な生活水準を維持しようと、やりたくない仕事を続けていたり、収入が下がる転職をしようとして家族の反対にあうケースも見てきました。家族もお金に縛られてしまっていたら抜け出すのはかなり難しくなります。
お金に縛られないための3つのポイント
お金があってもなくても、お金に縛られている状態はとても不幸です。お金はあくまで、目標や夢、日々のささやかな幸せを実現するための手段なのに、お金のことしか見えなくなっている状態だからです。ではどうすればいいでしょうか。
ポイントは大きく3つあります。
① 収入を増やす努力をする
② 収入が増えても生活水準を上げない
③ 人生で本当に大切なことに向き合う
① 収入を増やす努力をする
まずお金がないと感じている場合は、「収入を増やす」ことに集中するのがいいでしょう。世の中で必要とされ貢献してお金を得ることは、それ自体が喜びをもたらすはずです。
そのために自己投資が必要であれば、時に借金をしてでも注力するのがいいと思います。資産運用サービスを提供している身ではありますが、とくに20代なら、余裕資金は資産運用ではなく自己投資に充てることを強くお勧めします。若い頃の自己投資によって得られるリターンは、資産運用で得られるリターンよりずっと力強いからです。
自己投資に成功し、収入を増やすことができれば、お金がなくてお金に縛られることはなくなるはずです。
② 収入が増えても生活水準を上げない
さて、結果として収入が増えたときこそ、気をつけなければいけません。ポイントは、生活水準を上げすぎないことです。
転職などで収入が増えると、周りの人の生活水準が高い――例えば高級車を保有している、三ツ星レストランで食事をしているなど――を肌で感じることも多いでしょう。羨ましいと感じるのは自然なことなのですが、一度立ち止まって考えてもらいたいのです。
それは本当に自分が実現したいライフスタイルなのでしょうか。家族も望んでいるのでしょうか。周りの人に流されていないでしょうか。もし自分も家族も本心では望んでいないのに生活水準を上げるとしたら、誰のため、何のためなのでしょうか。
「お金」と「家族」を天秤にかける
マッキンゼーにいたとき、責任あるポジションにいる人の退職を何度も目にしてきました。退職理由のほとんどは、“家族”でした。高収入を得ながら社会に貢献する意義を感じつつも、家族を大切にしたいという自分の夢を考えたとき、今のワークスタイルは維持できないという決断だったのでしょう。
もし収入が上がって生活水準を保つ自信がなければ、収入を上げすぎないということも選択肢に入れたほうがいいかもしれません。
③人生で本当に大切なことに向き合う
最後に、人生で実現したいことに向き合うことです。
日本にいると、お金の話は避けられがちです。しかし、お金はとても大切です。お金があれば、夢や目標を実現できるチャンスが広がります。だからこそ、世の中から必要とされてお金を得ることに一生懸命にならなくてはいけません。安心して老後を迎えるために資産運用で備えることも大切です。
一方で、お金には限界があります。もし私がVIP待遇を受け続けたいがために、お金に執着して仕事を続けていたら、起業することはなかったでしょう。お金を得ることが自己目的化するとかえって不自由になってしまうのです。
とはいえ、お金の大切さと限界を意識し、お金とのちょうどいい距離感をとり続けるのはとても難しく、私は今でも試行錯誤しています。お金から自由になり、自分が本当に大切にしたいことと向き合えるようになれば、人生はより豊かになっていくのではないでしょうか。
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