具体的なコストや利益をプレゼンすることで、提案はぐっと通りやすくなります(写真:kukai/iStock)
出世や起業などを目指すビジネスマンに必要なのは“数字で考える力”。「数字で考える」習慣をつけることで、「説得力」や「伝える力」が向上し、「儲けるセンス」がある人材になるというのは、事業執行や事業開発、マーケティングを専門とする中尾 隆一郎氏です。“数字のプロフェッショナル”である中尾氏に、効果的な数字の使い方を聞きました。

お金に換算すると経営者は動く

儲けるセンスを高めるにはどうすればいいか。最大のポイントは「経営者の視点を意識すること」です。
経営者は利益で物事を見ています。会社の無駄などがあった場合に、それを「お金」に換算して説明すると正当な判断をしてもらえる可能性が高まります。これは経営者に限ったことではありませんが、特に経営者では有効です。
会社にはたくさんの無駄があります。一例を挙げると、資料作成や会議。ただし、それに対して無駄な資料を作るな、無駄な会議をするな、と言っても人は動きません。そこで、お金に換算して無駄を「見える化」してみましょう。するとROI(費用対効果)が明確になります。結果、人は無駄を削減しようと考え出すのです。つまり行動が変容しやすくなるのです。
例えば、年収400万円の従業員Aさんがいます。計算を簡単にするために年間労働時間を2000時間とします。するとAさんの1時間当たりの時給は2000円と計算できます。同じく年収1000万円の管理職Bさんの1時間当たりの時給を計算すると5000円になります。2000万円の役員のCさんであれば、同じく1万円となるわけです。
例えばCさんと同じ年収の役員が5人いる会社で、役員会を開催します。3時間の役員会だとすると、5人×3時間×1万円=15万円の人件費がかかったことになります。そこに管理職Bさんクラスの方が3人同席したとすると、3人×3時間×5千円=4万5000円となります。
メンバークラスのAさんが同席すると1人×3時間×2000円=6000円となります。合計で15万円+4万5000円+6000円≒20万円となります。これは単純に人件費だけを計算した数値になります。実際は、この2倍から3倍のコストが必要です。社会保障、家賃、交通費などが必要だからです。つまり人件費換算で20万円ということは、実際のコストは40万円とか60万円だということです。
これでも、たった、60万円と考えるかもしれませんが、60万円のコストを使うということは、同額の利益を稼ぐ必要があります。営業利益率が10%だと仮定すると60万円÷10%=600万円の売り上げに相当するという考え方もできます。少なくとも600万円程度の売り上げを生み出さないとROIが合わないということです。
さらにこの役員クラスが、この3時間を営業に出た、あるいは製品開発に費やしたとしたらどうでしょうか? その価値はもっと大きいはずです。つまり、直接人件費換算コストの20万円と考えると小さいのですが、売り上げの600万円、あるいはその時間に本来の業務をしていたらと考えると、この会議のROIはさらに高いものが求められるのです。
このように会議に求められる生産性を「お金」で説明されると、会議の生産性を高めたいと考えるのではないでしょうか? 必要な人だけに参加者を絞り、当日の議論を効率的にして会議時間を削減しなくては、と考え始めるかもしれません。
今回はたった5人の役員の会議で計算した場合です。大企業で20名、30名いるような役員会では、この5倍以上のコストがかかるのです。お金にしただけで、そのもったいなさ加減がわかるのではないでしょうか。
お金に換算する際のステップを図にまとめましたので、参考にしてください。まず自分たちの時給を計算する。次に会議や資料作りなど、それぞれの活動時間に時給を掛けて、発生する金額を計算してみる。直接人件費だけでは、その他の経費は賄えないので、その数値を3倍程度にすると実際に必要なコストが計算できる。さらに営業利益率で割ることで必要な売上額を計算してみる。ぜひ試してみてください。

具体的なコストと効果を数字で見せる

また、「お金で換算する」ことは、ムダを削減するだけでなく、提案を通す際にもパワーを発揮します。
経営者は「利益」を考えているということは、つまり投資したお金はプラスになって返ってくるのかどうか判断しています。100万円使ったら、100万円以上になって返ってきてほしいのです。そうならないと利益が出ないからです。
例えばあなたが、勉強会をすることで販促を検討することを上司に提案しました。いい提案かもしれません。しかし、立場を逆にしてあなたが上司の営業責任者であったらどうでしょうか? 勉強会の実施は有効かもしれない。しかし営業担当を集めて、勉強会を実施したとしても、効果が出ない可能性もあります。それは避けたいものです。時間もコストもかかります。それで効果が思わしくなければ目も当てられません。
つまり、営業責任者の気持ちとしては、「勉強会はいいけれど、効果はどれくらいあるの?」あるいは「投資に見合った効果があるのかどうか」をざっくりとでもいいので知りたいのです。 
その際に、例えば、あなたが次のように回答できたらいかがでしょうか?
「首都圏と比較すると、関西とその他のエリアの商品Bの基本企画の売り上げは1人あたり月額60万円少ないことがわかっています。もしも今回の勉強会に参加した営業のうち半数が、その差額の60万円の売り上げ向上ができたとしたらどうでしょうか? 関西の営業担当は6名、エリアの営業担当は15名です。(6人+15人)×60万円/月×50%=630万円/月となります。5月の売り上げ1億500万円を基準に考えると、630万円÷1億500万円=約6%の売り上げの向上を見込めます。これで当初の目標の5%を超えることができます。
ポイントは2つです。首都圏との差分である60万円を埋められるような改善点を見つけることができるのか? もう1つは、それを勉強会として仕立てた際に参加者の半数に効果が出せるようなコンテンツを作成できるのかです。この両者について詳細を検討するので、その際は事前にチェックいただけないでしょうか?」
このように、勉強会を企画する商品Bの企画担当に、この程度の売り上げアップ(参加者の半数が月額60万円売り上げアップできる)を見込めるような勉強会の企画内容(コンテンツ)を作れるのかどうかを検討してもらうといいわけです。

同時に投資額も考えて費用対効果の数値を出す

このとき、月額600万円の売り上げアップという効果(Return)を推測するのと同時に、そこにかける投資(Investment)も確認しておくことが必要です。
例えば、移動コストがエリア「5万円/人」「関西3万円/人」とします。移動コストの合計は、関西分3万円×6人+エリア分5万円×15人=93万円となります。
また勉強会の移動のために1日営業できなくなります。1日当たりの営業の損失売り上げを5月分の売り上げから計算すると、関西分月間売り上げ1680万円/月間営業日数20日=84万円/日、それにエリア分月間売り上げ3900万円/月間営業日数20日=195万円/日を加えると、279万円となります。もしも今回の勉強会のために営業担当を1日拘束すると(移動コスト)93万円+(売り上げ減少)279万円=372万円となります。
売り上げ増加を600万円と想定しましたので、投資対効果は「効果600万円÷投資372万円」=161%です。つまり372万円の投資をして、600万円の売り上げしか上がらないので投資対効果は161%だということです。
161%という数字は投資よりも効果のほうが61%大きいということですので、いい数値です。ところが冷静に考えてみると、投資側の372万円という数値はリアルな数値。リアルと書いたのは間違いなく使うコストです。一方の、効果側の数値はあくまでも推定、あるいは願望にすぎません。
空手形の可能性もあります。これでは上司は勉強会を実施するのを躊躇してしまいます。
そこで、勉強会をテレビ会議で実施してはどうでしょうか。移動時間がなくなるので、営業の拘束時間を営業時間の半分にできます。移動コストの93万円も不要になります。また半日拘束ですから、損失売り上げは279万円の半分の140万円になります。
でも、テレビ会議では、効果も少し下がるかもしれません。売り上げ側の効果も減らして、600万円×90%と見積もると540万円になります。するとテレビ会議で実施した場合の投資対効果は、「効果540万円÷投資140万円」=約3.9倍。約4倍ですので投資対効果はかなり高いと言えるでしょう。これならば、勉強会の実施を判断できるかもしれません。
さらに勉強会の売り上げ効果が一過性ではなく一定期間見込める、仮に今後半年間効果があるとしたら「効果540万円×6カ月」=3240万円となります。すると投資対効果は、「3240万円÷投資140万円」=約23倍となり、これならば、営業責任者の上司は、勉強会を実施すべきだと判断できるのではなないでしょうか。
ここで計算に使ったのは四則演算だけです。四則演算だけで、営業向け勉強会の可否の判断がしやすくなったのではないでしょうか?
「数字でビジネスを考える」は、決して難しいことではありません。「数字が苦手」「文系だから」と言わずに、ぜひ数字で考えるスキルを磨いて、ビジネスにお役立てください。