ウォルマート、配送強化 対アマゾン姿勢鮮明に
2019/6/8 17:19
【ベントンビル(米アーカンソー州)=高橋そら】米小売り最大手ウォルマートが全米5000の実店舗とネットとの融合を一段と深めている。今秋にはネットで注文した生鮮食品を自宅の冷蔵庫まで届ける新サービスを開始する。先端技術と実店舗をもつ強みをいかし次世代の配送サービスの開発を進め、ネット通販事業で5割のシェアを握る米アマゾン・ドット・コムを追う。
米ウォルマート、生鮮品を冷蔵庫にまで配達 新サービス発表
2019/6/7 13:05
【ベントンビル(米アーカンソー州)=高橋そら】米小売り最大手のウォルマートは6日、インターネットで注文した生鮮食品を自宅の冷蔵庫にまで届ける新サービスを始めると発表した。今秋に米国の3都市で始め、約100万人の顧客が利用できるようになる見通し。顧客が自宅にいなくても冷蔵が必要な生鮮食品を配達できるようにし、消費者の利便性を高める。
「顧客までの最後の数ステップを埋める」。ダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)は新サービス「イン・ホーム」への期待感をにじませた。まずミズーリ州カンザスシティー、ペンシルベニア州ピッツバーグ、フロリダ州ベロビーチで開始し、順次対象エリアを拡大する。
新サービスでは、まず顧客がウォルマートのネット上のウェブサイトかスマートフォンのアプリを使い、生鮮品を注文して受け取りたい日付を選ぶ。注文を受けると、店舗の従業員が顧客の家まで行き、スマホでドアを解錠できる「スマートロック」を使って中に入り、商品を冷蔵庫や倉庫に置く。サービスの価格は今後公表する。
外出中の顧客が配達員が家に入ってから出るまでの一連の動作をスマホで監視できるシステムも導入する。同社のネット部門を率いるマーク・ロア氏は「顧客との信頼関係の醸成がとても重要だ」と述べた。19年後半からは返品も受け付ける。
ウォルマートはこれまでネットと店舗の融合に注力してきた。数年前からはネットで注文した商品を最寄りの店で受け取ったり、店舗から自宅に届けたりするサービスを拡大した。こうしたサービスの成功体験から「配達の限界を取り払うことができると確信した」(マクミロンCEO)という。
【ウォルマート】“テック企業”に変身狙いデジタル投資を急拡大
世界最大の小売企業であり、EDLP(エブリデー・ロープライス:毎日安売り)モデルで世界を制したウォルマートが変身中だ。新店と海外への投資を実質凍結し、デジタル分野に集中投資しているのだ。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
2019年3月、米国テキサス州オースティン。テック企業が新技術を持ち寄る恒例のイベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に、観客が予想していなかった“新顔”が登場した。ウォルマートだ。
カンファレンスに登壇したジェレミー・キングCTO(最高技術責任者。当時)は、VR(仮想現実)ヘッドギアを装着した店員や、AI(人工知能)を実装したロボットが、ECで受注した商品を素早く集める様子を紹介した。そして「われわれはいまテック企業としての組織を築いている」と断言したのだ。
1年365日いつでも競合店より最も安い価格で商品を提供する、EDLPモデルで成長してきた、世界最大の小売企業ウォルマート。19年1月期の営業収益は5144億ドル(約56兆円)。これは、イオンとセブン&アイ・ホールディングス(HD)の営業収益の合計額の4倍近い(図1)。この“巨人”は、いま変わりつつある。
ウォルマート 対 Amazon 、新しい戦場は「金融サービス」
米小売最大手ウォルマートが顧客を囲い込み、売上高を伸ばし、eコマースライバルの機先を制するべく、金融サービスを利用している。
ウォルマートは小切手の現金化、各種請求書の支払い、送金、プリペイドカードといった金融サービスを顧客に提供しており、4月第1週には、2年前に導入したマネーカード(MoneyCard)――アプリ/ウェブサイトからアクセスできる同社のマネー管理ツール/プリペイドカード――を介して顧客が動かした金額が20億ドル(約2200億円)を越えたと発表した。
ウォルマートは、銀行をはじめとする従来の金融機関を使用できない/しない顧客や、キャッシュバック型クレジットカードの審査が通りにくい人々への金融サービスの提供に積極的だ(マネーカードのキャッシュバック率は、オンラインでの使用が3%、マーフィーUSA(Murphy USA)およびウォルマート系ガソリンスタンドでの使用が2%、実店舗での使用が1%)。アンダーバンクト層[銀行口座を持たない/銀行を利用しない人々]に対して口座開設/金融取引のハードルを下げ、同市場への参入を狙う他のリテーラーに対抗しているほか、ペイデイローン企業[給与を担保に小口ローンを提供する消費者金融]への対抗策として、ダイレクトデポジット[給与の口座振込制]を設定した顧客には、給料日の2日前から給与の取り出しも可能にしている。
金融サービスの理由
はたして、これらが売上増に繋がったのか。ウォルマートはコメントを辞しており、こうしたサービスはあくまでも顧客の利便性のためと、同社広報は語る。 ただ、ウォルマートとマネーカードで提携する金融サービス会社グリーン・ドット(Green Dot)のCEOスティーヴン・ストライト氏は、2月の収支報告で投資家に対し、ウォルマートはマネーカードの利用手数料を取っており、店舗とオンラインのいずれでも売上を伸ばしていると伝えた。
実際、マネーカード経由の20億ドルという数字は、ウォルマートが金融サービスツールを介して顧客を自社エコシステム内に徐々に取り込んでいることの証だ。今年2月後半には、金融スタートアップのアファーム(Affirm)と提携し、購入代金の分割払いも導入した。こうしたサービスを通じて同社が目指すのは、総合小売店/金融機関としての地位確立――より多くの顧客に店舗まで足を運ばせ、購買行動を促すためのツールの確保だ。
この戦略は、同社にとってきわめて重要な意味を持つ。最大のライバルAmazonもディスカウントプログラムと実店舗でチャージ[リロード]可能なプリペイドカードを武器に、低所得者/アンダーバクト層を標的にしているからだ。
「1カ所ですべて済む」
ウォルマートは現在、3種類の金融商品を提供している。そのひとつが、多くの店舗に設置されたマネーセンターで、これは準銀行的な機能を有し、来店者数を増やすべく、小切手の作成、小切手の現金化、海外送金、マネーオーダー、税金の確定申告に関する手続き、各種請求書の支払いなど、さまざまなサービスを提供する。さらには、クレジットカードや先述のアファームを介した分割支払サービスのほか、オンラインバンキングツールの名残である「金庫(vault)」機能を備えたキャッシュバック型プリペイドデビットカードも発行している。
もっとも、ウォルマートは銀行に取って代わりたいわけではない。デジタルセービングツールとキャッシュバックを通じて、低所得者/アンダーバンクト層に節約/貯金を促し、それを最終的にはウォルマートでの購買増につなげるのが狙いだ。
「デジタルにしろ、フィジカルにしろ、1カ所に行けば、そこですべて済むようにさせる――それが彼らの戦略だ」と、金融業界に特化したリサーチ企業アイテ・グループ(Aite Group)のシニアアナリスト、ケヴィン・モリスン氏は指摘する。
ウォルマート対Amazon
Amazonは店舗でチャージできるプリペイドカード(Amazon Cash)を2年前に導入して以来、ウォルマートの陣地に徐々に進出を続けており、低所得者層をターゲットにしたスーパーマーケットの開店も発表している。Amazonアカウントへのチャージは、CVS、ビデオゲーム販売店のゲームストップ、セブンイレブンなどの大手チェーンを含め、3万軒以上の提携小売店で行なえる。
そんななか、ウォルマートの金融サービスはアンダーバンクト層を自身のエコシステム内に留め、究極的には購買を促すための手段ではあるが、広い意味でのブランディング戦略でもあると、データ分析会社Yaguara(ヤグアラ)のCEOジョナサン・スモーリー氏は指摘する。
「ウォルマート対Amazonの競争において、これは侵略の対極にある戦略であり、ウォルマートにとっては、『私どもは単に収益を上げようとしているのではなく、純粋にお客様の便宜を考慮しているのです』と公言できる大きなチャンスにほかならない」。
今後も容易ではない
とはいえ、ほかのリテーラー勢も金融商品やロイヤルティプログラムの開発/導入を進めるなか、ウォルマートが顧客の関心を引き続けるのは、今後も容易ではないだろう。
「ウォルマートはいま、この分野で何かをしなければ、と考えているが、提供する商品がレリバントな[親和性のある]ものでなければ、何の意味もない」と、小売業界に強いリサーチ会社グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクター、ニール・サンダース氏は指摘する。「実際、そうでないものも少なくないし、消費者は一般に、大量のカードを持ちたいとは思わない」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:SI Japan)
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