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 デサントに対し伊藤忠が、廣済堂に対し旧村上ファンドが敵対的TOBを相次いで仕掛けた。今、再び敵対的買収が増え始めている理由は何か? その背景に迫った。

◆既存株主も反旗を翻す? 企業と株主の間に緊張をもたらす2つの行動規範

 敵対的な買収やTOBが増えている背景には、金融庁と東証が制定し、’15年6月から適用されている「スチュワードシップ・コード」(責任ある機関投資家の行動規範)と「コーポレートガバナンス・コード」(上場企業が守るべき行動規範)がある。2つの行動規範は金融庁と東証が主導して制定。企業と株主の行動のルールとなっている。早稲田大学大学院経営管理研究科教授・鈴木一功氏が解説する。

「スチュワードシップ・コードとは、顧客利益のために機関投資家は投資先の経営にきちんとモノを言ってくれというもの。コーポレートガバナンス・コードは、株主の言うことを企業は尊重するように、というもの。どちらも法的拘束力はありませんが、上場企業に適用される“行動規範”で、原則実施、さもなければ実施しない明確な理由説明が必要。スチュワードシップ・コードが株主を突き動かし、企業側はコーポレートガバナンス・コードで株主の意見を尊重しなければなりません。この2つの“行動規範”が、経営陣と株主の間に適度な緊張関係を持たせています」

◆帝国繊維の場合

 その結果が近年のM&AやTOBの増加にも繋がっていて、その代表例が帝国繊維だ。

 帝国繊維は消防用ホースや災害時の給水車などのニッチ分野で高収益を上げる超優良企業で、豊富な内部留保を抱える。これに異を唱えたのが独立系投資会社スパークス・アセットマネジメントだ。

 ’14年に帝国繊維株を取得し、利益還元強化を提案してきたが無視され続けたことに業を煮やし、昨年と今年3月の定時株主総会で大幅増配など株主提案に踏み切った。

◆機関投資家が議案に賛成

 興味深いのは帝国繊維と関係の深い機関投資家の動向だ。みずほ銀行系のアセットマネジメントOneやみずほ信託銀行もスパークスの増配や社外取締役選任の議案に賛成している。

 あくまで努力目標のスチュワードシップ・コードだが、「行動規範に反している」と金融庁に睨まれれば、公的年金運用の受託から外されかねないと、ある市場関係者は話す。こうなると運用会社へのダメージは大きく、影響力は絶大だ。スパークス・アセットマネジメントの執行役員、服部英明氏も「これまでのように同系列だからといって運用会社が無条件で味方をしてくれる時代は終わった」と指摘する。今のところ、2つの“行動規範”がうまく機能しているようだ。

【鈴木一功氏】
早稲田大学大学院経営管理研究科教授。富士銀行(現みずほ銀行)でM&A部門チーフアナリストを務める。M&A関連の記事を多数寄稿
― 敵対的買収が増えるワケ ―