住民税がどのようなデータを基に、どの市区町村から課税されるのかを知ると、無収入でも住民税がかかる仕組みが理解できます。

収入を得ると住民税・所得税を支払う義務が生じる

個人が何らかの形で稼ぎを得ると、通常、国に対しては所得税を支払わなくてはなりません。地方自治体に対しては住民税を支払う義務も生じます。

ただし、収入がなくても住民税がかかる人がいます。収入がない中、住民税を払うのは結構な負担です。

なぜこのようなことになるのでしょうか。その理由は、住民税が課税される仕組みにあります。

住民税は前年の所得に基づいて課される

住民税は「前年課税」。住民税が課税される年度の前年の、1月から12月まで1年間の所得を基準に税額が計算されます。

サラリーマンの場合、年末調整の時期に所得の証明書として「源泉徴収票」が発行されます。それと同じ内容が「給与支払報告書」という書式で、翌年の1月末日までに勤務先から各住所地の市区町村に送られます。

このデータをもとに、住民税の課税額が計算されます。

例えば、平成30年分の所得の状況に応じて、令和元年度(=令和元年6月から令和2年5月までを指す)に住民税が課税されます。つまり、平成30年は就業していたが、令和元年は失業中(あるいは転職期間中)という場合でも、住民税の納税通知書が送られてくるのです。

これが、失業期間中などで収入がなくても、住民税を支払わなくてはいけない理由です。

住民税は1月1日の住所地に全額を支払う

住民税は、1月1日現在の住所地で、前年の1月1日から12月31日までの1年間の所得に対して課税されます。そのため、1月2日以降に他の市町村に転居した場合でも、1月1日現在で居住していた市町村に全て納付しなければいけません。

※逆に、その年度の住民税は転居先の市町村から課税されることはありません。

例えば、平成30年8月に、A県B市からC県D市へ引っ越したケースで考えてみましょう。

・平成30年度の住民税:平成29年分の所得の状況に応じて、平成30年1月1日時点の住所地であるA県B市に支払う。

・令和元年度の住民税:平成30年分の所得の状況に応じて、令和元年1月1日時点の住所地であるC県D市に支払う。

このルールによると、年の途中で死亡した人も、その年の1月1日は生存していたことになるので、前年の所得の状況に応じて死亡年度の住民税を納める必要が出てきます。

一方、死亡した翌年の1月1日は住所地がないことになりますので、死亡年の翌年度の住民税は課税されません。

※この場合、1月1日から死亡日までの所得の状況について、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告をする必要があります。

なお、年の途中で会社を辞めた場合は、平成29年にA県B市で就業していたか、あるいは平成30年にC県D市で就業していたかは関係ありません。

引っ越しをして会社を辞めた場合でも、前年の所得の状況に基づいて、その年の1月1日の住所地から住民税が課税されます。あくまでも基準は「1月1日の住所地」ということです。

所得税ゼロでも住民税が発生することがある理由

「課税所得」とは、「収入」から必要経費である「給与所得控除」を引き(この段階のことを「所得」といいます)、さらに「所得控除」を差し引いた後の金額です。基本的には、この「課税所得」に対して所得税や住民税が課税されることになります。

課税所得=収入-給与所得控除-所得控除

「所得控除」とは、個々の生活状況や家族構成などを考慮して、税の負担を調整するという仕組みです。具体的には次のようなものがあります。

・物に対する控除(物的控除):社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除など
・人に対する控除(人的控除):扶養控除、配偶者控除、障害者控除など

この「所得控除」は、所得税と住民税のそれぞれにあります。人的控除を中心に、住民税のほうが所得税よりも低く設定されている項目があります(表参照)。

たとえば基礎控除は所得税だと38万円ですが、住民税では33万円。5万円の差があります。


すると、所得税では所得控除を差し引いた後の金額が残らなくても(=所得税がゼロ)、住民税では所得控除を差し引いた後の金額が残る、ということもありえます。そのため、所得税は課税されないが住民税は課税される、ということになるのです。

住宅ローン控除が全額控除できないことがある

所得税も住民税も、所得から所得控除を差し引いた金額に対し、税率を乗じれば税額計算は終了、というわけではありません。一定の要件を満たせば、その税額からさらに税の負担を軽減する措置(=税額控除)が受けられます。

最も一般的なのが住宅ローン控除でしょう(図表にあるように消費税率アップ後は、現行10年の住宅ローン控除が13年に延長されましたが、10年までの仕組みは現行と同じです)。


例えば、平成30年に住宅ローン控除を申請した人が、令和元年に何らかの事情により退職した場合で考えてみます。現行の住宅ローン控除では、住宅ローンの年末借入金残高の1%を限度として、まずは所得税から控除します。

令和元年に退職し、その年に給与から天引きされていた源泉所得税が少なかったとしても、まずはその所得税から控除されます。すると、住宅ローン控除が所得税から控除し切れず残ることが想定されます。

残った住宅ローン控除は、住民税から控除することになります。しかし、控除できるのは引き切れない全額ではなく、上限13万6500円と決められています。

また、令和元年に収入がない場合、住宅ローン控除が優先適用される所得税がそもそも少ない(あるいは0円)なので、住宅ローン控除限度額がそっくり住民税からの控除対象として残ってしまいます。しかし、これも同じく上限が決まっています。

このように、住宅のローン控除を申請しても、年末借入金残高の1%の全額が軽減されるとは限りません。

住宅ローン控除を申請したから、年の中途で退職しても所得税から控除されない分、全額が住民税から差し引かれ、住民税が課税されないだろうと考えている人がいたら注意してください。
(文:田中 卓也(マネーガイド))