各社が一斉に参入した「キャッシュレス決済」。普及のカギを探るべく、今回6人の若者の座談会を収録しました。世界の「キャッシュレス社会」に関して研究を行っているサイバーエージェント次世代生活研究所・所長の原田曜平さんは「若者たちの間では小さな財布やバッグが流行している。小銭を増やさずに済む点をアピールすれば、普及に弾みがつく」と指摘します――。(後編、全2回)
座談会の収録の様子(撮影=プレジデントオンライン編集部、以下すべて同じ)
【座談会メンバー】
法政大学国際高校3年・赤峰沙枝、早稲田大学3年・牧之段直也、中央大学2年・小川莉歩、日本女子大学2年・千葉愛子、青山学院大学3年・浅見悦子、青山学院大学2年・里村萌恵。

■「キャッシュレス派」はお金に余裕のある人

【原田】前回、若者のキャッシュレス決済の使用状況について皆で議論したんだけど、それを踏まえて、周りにいる「キャッシュレス派」と「現金派」のタイプの違いを教えてもらえるかな。
【浅見】キャッシュレス派、特にQRコード決済やプリペイドカードを好む人の特徴は、①小銭が増えるのを嫌う人、②会計を早く済ませたい人、③現金の盗難を警戒する人、④お金遣いが荒い人ですね。
【原田】①の「小銭が増えるのを嫌う人」は、財布やバッグが小さい。つまりオシャレな人の傾向があるという話だったね(※前回参照)。
②も③も分かるけど、④はどういう意味かな?
【浅見】私がお金遣いが荒いと感じる人の傾向は、大学の学費を両親が全額を払い、本人はバイトをしていないなど、お金に困ったことがない友人の中に多い印象です。この人たちは、買い物の際も財布や口座にいくら残っているか心配にならない人が多く、使用金額や残金を目で現金を見て確認する必要性をあまり感じていない人が多いんです。
【原田】家庭環境や収入などに恵まれているので、そもそもお金への関心が周りよりも薄く、どんな形でもお金はお金というドライな考え方を持っている、ということなのかな。
【浅見】彼らは現金を目で見て確認できなくても良いので、現金以外の支払い方法で払うことに抵抗がありません。だから、使用額の現金を目で見てその都度確認したい現金派よりも、キャッシュレスに抵抗がないようです。現金を確認するよりも、支払いが早く楽な決済方法であるキャッシュレスを好む傾向にあるんだと思います。
【原田】なるほど。では、現金派はどんなタイプの人たち?
【浅見】はい。一方の現金派は、①家計簿もノートに記入するようなアナログ好き、②デジタルをそもそも信用してない人、③お金の使い方が慎重な人、④新しいものより使い慣れている物を好む保守的な人、という感じです。
【原田】アナログで慎重で新しいモノが嫌いな保守的な人、ということだね。まだ若者の間でキャッシュレス決済がまだまだ普及していないことを考えると、日本には若者なのにこのタイプの若者が意外と多い、ということなんだろうね。しかも、財布やバッグが大きい、言い換えるとオシャレじゃない人もこのタイプの中に多い、と。
【里村】私、現金派だし財布も大きいから、ダサい人だ……。

■キャッシュレス派は「面倒くさがり」が多い

【原田】(笑)。他に意見はあるかな?
【里村】キャッシュレス派は「面倒くさがり」が多いと思います。小銭をいちいち数えたくない、リュックからいちいち財布を出したくないという声がありました。そういう人はプリペイドカードもいちいちチャージするのが面倒だからオートチャージにしたり、クレカと連動させたりしていますね。
【原田】まあ、現金派の君の視点から見たら「面倒くさがり」という表現になるんだろうけど(笑)、逆に言えば、「便利さを求める人」という表現でも表せるよね。
ちなみに、実は僕はまだバリバリ現金派なんだ。理由は東京でさえ、まだまだ現金しかダメ、っていう飲食店が多いから。巣鴨の焼き鳥屋なんて大体そうだよ(笑)。でも、そんな現金派の僕でさえ、本当は完全キャッシュレスにしたいと思っているんだけどね。
【牧之段】僕の周りのキャッシュレス派は、情報収集力があってすぐ実行に移す気質の人、いう感じです。
【原田】「能力のある人」。あるいは、「ミーハーな人」とも言えるかもしれないね。
【牧之段】あとは、現金派には、「そもそもクレジットカードを持っていない人」も含まれると思います。
【赤峰】私たち高校生の場合、クレカどころか自分の銀行口座すら持ってない子も結構いるので、完全キャッシュレス派はゼロです。現金チャージという方法もありますけど、チャージするほどそもそもお金がないですし、こまごまチャージするのも面倒くさいので。
【牧之段】QRコード決済の場合、クレカを持っていなくても銀行口座と連携できるはずなんですが、銀行口座と連携できること自体を知らない若者もまだまだ多いはず。
【小川】「詳しいことを知らないからキャッシュレス化していない」という現金派は、たしかに多いですね。使ってみたら意外と便利だということも知らない。
【原田】高校生・大学生の中には、現金派にならざるを得ないでなっている人もたくさんいるわけだ。
【牧之段】あと、浅見さんの出した現金派の特徴である「③お金の使い方が慎重」は、裏返すと使いすぎを防ぐために現金で管理したいということでもありますね。学生だと収入が少ないですから、現金の減りを日々目視することで自己管理しています。
【原田】キャッシュレスにした方がデータで明確に残るので、本当は現金よりもちゃんとお金の管理ができるはずなんだけど、残金を現物で見て確認した方が安心、ということなんだろうね。日本はいまだに現金信仰の強い保守的な若者が多いんだろうね。
【千葉】私がインタビューした若手社会人たちは、私の周りにいる学生たちと違って、全員がキャッシュレス派でした。だから、社会人になって、比較的お金に余裕ができるとキャッシュレス派になる人が多いのでは。
お金に余裕のない学生でキャッシュレス決済をよく使っている人は、大人と関わることが多い人です。社会人の先輩とかがQRコード決済しているシーンに居合わせて、「これなんですか?」「便利だよ」みたいに説明を聞いて使いはじめるんですよ。
【原田】クレカを作れない高校生や大学生を狙うか、お金に少し余裕のできる若手社会人を狙うか、キャッシュレス決済サービス業者は、ターゲットとタイミングとインサイトをしっかりと見定めないといけませんね。
皆の意見を総合すると、キャッシュレス派の若手社会人には総じて「できる人」という良いイメージがあるようだから、「できる社会人の身だしなみ」みたいな訴求の仕方は若手社会人には効くかもしれないね。

■割り勘はキャッシュレス決済向き?

【原田】ここらでキャッシュレス決済向きのシチュエーションと現金決済向きのシチュエーションを整理してみたいと思います。みんなの意見として一致していたのは、小銭のやりとりが煩わしいコンビニではキャッシュレス決済が向いている、ということだったよね。
【浅見】列が長い時に早く会計が済みますし、店員さんの立場からしても釣り銭ミスが減るのは良いことだと思います。
【原田】多人数で食事をしたあとの割り勘はどうかな? 「LINE Pay」は割り勘機能を売りにしているらしいけど。
【赤峰】全員が「LINE Pay」を使っていなければ割り勘ができませんし、今はファミレスなどでも個別会計のできる店がほとんどなので特に必要性を感じていません。
【原田】そうか、アメリカでは「Venmo(ヴェンモ)」という個人間送金アプリで割り勘をするのが若者の間で定着しているのだけど、そもそも割り勘が昔から根付いており、個別会計してくれる店が多い日本では、少なくともアメリカに比べると必要性自体が少ないんだね。
【千葉】そうですね。割り勘はなんとなく現金のほうがいいかな。
【小川】私は割り勘機能って便利だと思いますよ。計算してる時間がもったいないし、1円単位で割り勘するから、飲み会に行く前にお金を細かく崩しておく必要があるから現金はとっても面倒。小銭が多くなって財布が重くならないためにも、割り勘こそキャッシュレス向きでは?
【里村】私も割り勘機能はキャッシュレス向きだと思います。
【牧之段】僕も「LINE Pay」の割り勘機能に憧れはあります。使ったら便利だろうな、って。
でも、現状のLINE Payは少々若者ニーズとずれている点があるようで……。
LINE Payの割り勘機能は、LINE上で「割り勘グループ」を作成し、割り勘する友達にそのグループに入ってもらいます。グループに入る人は、現金で支払うのか、LINE Payで支払うのかを選択してグループに入ります。全員がそのグループに入ったのを確認した後、グループの代表者一人がLINE Payを通してお店に支払います。そして、代表者が、グループに参加している一人ひとりの携帯に送金してほしい金額をリクエストします。合計金額を人数分で割った金額が設定されますが、この際に金額の調整は任意でできるそうです。
参加者一人一人には、代表者が決済した合計金額と、自分にリクエストされた金額のどちらも確認できます。そして、代表者に対してLINE Payを通して送金する、という流れです。
ちなみに、合計額はわかっても、お互いそれぞれがいくら払っているか、というのはわからないようです。代表者は金額を設定するため、全員の支払額はわかるようですが。
となると、例えば女子とのデートの場合、かかった総額と女子に払ってもらう金額が女子に分かってしまうことになり恥ずかしいなと思います。

■ディズニーランドに行く時はマスト

【原田】男子が多く払ってないことが女子にバレるから? 女子の分を完全におごるか、男が多めに出すといった気概がもはや日本男児にはないんだね(笑)。
でもさ、現金会計だって、個別会計したら「あ、こいつ、割り勘するんだな」って相手に分かっちゃうから結局は同じことなんじゃない?
【牧之段】現金の個別会計だと、ひとりずつレジに対面して払うじゃないですか。それだと、女の子と同額なのは自分の責任じゃないみたいな気がするんですよ。だけどテーブルで二人のスマホ上に金額が出ちゃうと、気まずいというか、そこに流れる空気が嫌というか……。
【原田】あまりに小さいなあ(笑)。でも、言いたいことはなんだかわかる。
じゃあ他にキャッシュレス向きだと思うシーンは? きっと主に荷物を減らしたいと思うシーンだよね。
【赤峰】ディズニーランドに行く時はマストですね。極力荷物を減らしてパークを回りたいので。ディズニーは今のところQUICPay、交通系IC、idとクレジットカードしか使えないようなので絶対にニーズは強いと思います。ディズニーでの荷物はスマホとカードと「持ち充(もちじゅう)」だけにしたい。
【原田】持ち充?
【赤峰】持ち運び式充電器のことです。
【千葉】え、私たちはモバ充(モバイル式充電器)って言いますけど。
【牧之段】僕はモババ(モバイル式バッテリー)です。
【原田】なんでもいいよ(笑)。
【千葉】赤峰さんの意見はよくわかります。ディズニーランドはポシェット1個だけで行きたいから、小銭はないほうがいい。ディズニーランドが全部キャッシュレス化してくれたらうれしいですね。
【原田】ハロウィンという今や国民的イベントが、まさにディズニーとUSJの仕掛けから一般社会にも普及していったように、若者の多くが行くディズニーとUSJが完全キャッシュレス化を実施したら、一気に日本のキャッシュレス化が進む、少なくとも若者の間ではキャッシュレス化が定着するきっかけになるかもしれないね。

■現金は「不衛生」