幸せはある程度まではお金で買えます。具体的には年収800万円までは「年収増=幸せ増」になるのだとか。少しでも近づく方法を考えてみます

年収800万円までは収入が増えると幸せが増える

橘玲氏といえば、『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』が以前、大ベストセラーになりましたが、お金と幸せについて説得力をもって語ることのできる作家のひとりです。

また『幸福の資本論』という本を発刊されていますが、これもまた、お金と幸せについて考えるよい本となっています。今回はこの本からひとつ示唆を得て、お金について考えてみたいと思います。

この本には面白いエピソードがたくさん詰まっていますが、そのひとつに

お金を稼ぐことは、幸福になるもっとも確実な方法だ

というものがあります。ただし「年収800万円」までは年収が増えるほど幸福度が増しますが、それ以上はあまり幸福度は増えない、とも指摘しています。年収が増えれば幸せになりそうなものですが、これはどういうことでしょうか。

年収800万円を超えると金で幸せは買えない?

お金のやりくりを考え続けなければならないことは辛いことです。毎日の生活費の節約を考え続けなければならず、子どもの学費の納入期日まで落ち着かない日々を過ごし、せっかく給料振り込み日やボーナス支給日が来てもそのほとんどを自由に使えない人は、お金を稼いでもあまり幸福感を得られません。

しかし、ひとりで年収800万円(夫婦世帯だと年収1500万円)くらい稼げるようになると、世間標準より少し上の生活を楽しみ、世間並みのレジャー予算も捻出できますので、お金が足りないことの不安はほとんどなくなります。普通に暮らしながら貯蓄をする余裕も生まれてきます。

これは言い換えればお金を使って「幸福を買う」ということです。

ところが、幸福というのは不思議なもので、年収800万円(夫婦世帯では年収1500万円)を超えて年収を増やしても、10%の年収増が10%の幸福の年収増とはいかなくなります。

むしろ年収を増やすために仕事の時間を増やさざるを得なくなったり、プライベートを犠牲にするしかないことで、幸福度は下がるかもしれません。その分岐点が年収800万円ということなのです。

私の記憶では、かつて女性向けのビジネス誌がとったアンケートでも年収600万円までは「年収増=満足増」だったものが、それ以上稼ぎ出すと「年収増=むしろストレス増」になっていました。

ある程度まではお金で幸せを買え、ある程度を越えるとお金で幸せを買えなくなるというのは、なかなか皮肉なお話です。

しかし年収800万円というのはなかなか難しい

しかし、年収800万円というのはそう簡単なハードルではありません。民間給与実態調査(国税庁)によれば、2015年のデータで、正社員男性の給与平均が539万円、女性の平均が367万円となっており、年収800万円というのは平均以上を稼ぐ、ということを意味します。

そして、非正規の働き方では年収がさらに低くなるため、年収800万円はほとんど実現困難になります。まず、正社員として働くこと、そしてさらにキャリアアップを目指すことが欠かせません。具体的な対策として、3つのチャレンジをしてみる方法をアドバイスしてみたいと思います。

▼チャレンジ1 能力に見合う年収をもらえるようあがくまず最初のステップは、「本当はもっと高い給料をもらってもいいのに、もらっていない人」が改善を図ることです。

自分の能力を謙遜している人ほど、高い年収を取り損ねています。私の友人には、転職したら年収が2倍になったという人がいますが、これは、能力は高まったのに給料がまったく上がらないまま10年くらい同じ会社にとどまってしまい、転職前の年収が低すぎたために起きた現象です。

同じ会社にいて、年収がいきなり1.5倍になるようなことは日本の人事システムではほとんど不可能です。もし、あなたの能力の伸びに見合う給料を会社がくれないと感じているなら、それは飛び出すタイミングかもしれません。ダメ元でもいいので、転職情報サイトに登録して、一度相談をしてみてください。自分がもらってもいい年収がどれくらいかも、客観的にアドバイスをもらうことをおすすめします。

▼チャレンジ2 転職するなら大きな会社を選択肢に入れておく同じ仕事をするなら、中小企業と大企業のどちらに転職活動をすべきかといえば、大企業です。なぜなら、同じ仕事につく値段が違ってくるからです。

大企業の平均賃金は中小企業より高いことは先ほどの調査でも明らかになっていて、従業員数10人未満の中小企業は平均年収337.2万円のところ、5000人以上の会社の平均年収は503.2万円になります。500人以上1000人未満の会社でも平均年収470.7万円です。

だからといって、大企業の普通の社員が中小企業の普通の社員より頭がいいとは限りません。いったん中に入ってみると、大企業の社員は思ったより普通の仕事をしていたりします。いくつかの社内ルールを覚えるまでは苦労しますが、それも特殊技能を必要としないことが多いものです。

転職のチャレンジをするとき、最初から大きな会社を諦めてしまう人がいますが、同じダメ元なら、大きな会社も小さな会社も受けてみてください。もちろん中小企業のほうが働きやすい、という場合はそれでもいいでしょう。しかし、最初から選択肢を除外しないほうがいいでしょう。

▼チャレンジ3 ひとりで働かずに共働きをする先ほどの「年収800万円」というのは「世帯年収であれば1500万円」というカッコがついていましたが、共働きで近づくほうがひとりあたりの必要年収は50万円下がります。これはひとりでもがくのではなく「夫婦で稼いで幸せを買う」ほうが少しラクになるということです。正社員共働きになると社会保険料負担は重くなりますが、生活コストはひとり暮らしより下げることが可能になります。

少なくとも、結婚したときはふたりで共同戦線を張ることを前提とするべきです。1500万円とはいかなくても、夫婦合計で900~1000万円を稼ぐことができれば、生活感覚はぐっとラクになるはずです。

年収800万円に達しなくてもいい! とにかく年収を50~100万円あげてみよう

さて、コラムの最後に話をひっくり返すようですが、「年収800万円」にこだわる必要は実はありません。正確には

「今の年収より多くして、少しでも800万円に近づく」

ことができれば、その幸福感のアップは大きいと考えるべきです。

誰だって、年収が50~100万円上がれば生活はぐっと楽になり、豊かな気分で暮らせます。上がる前の生活と比べれば、精神的にも余裕をもって日々の家計と向き合えるはずです。今いる会社でも標準的な昇格年度にしっかり昇格すれば年収が上がりますし、資格手当がつく資格を全部合格しておけば、月数万円、つまり年収換算では20万円以上の年収増になったりします。

転職活動でも、800万円は気にせず、今の年収よりアップするかどうかで考えればいいわけです。

夫婦合計の話も同じで、1500万円は気にせず、夫婦が順番に転職活動をしてみるといいでしょう(転職直後はストレスが大きいので、同時に転職すると家庭内でストレスが大きくなる)。個人的には、夫婦合計で1000万円を超えるとかなり家計に余裕が出てくると思います。

タイトルを見て、「800万円稼げりゃ、そりゃ幸せだろうよ」とぼやきながらコラムを読んだ人も多いと思いますが、今できることをしっかりチャレンジしてみることが、幸せ獲得の大事なステップになるのです。
(文:山崎 俊輔(マネーガイド))