皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、海外移住を計画中の50歳会社員の男性。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。

「資金1億円」で必要なリターンを目指すためのアドバイスを

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。相談者は、海外移住を計画中の50歳会社員の男性。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。

▼相談者山田太郎さん(仮名)
男性/会社員/50歳
京都府/賃貸住宅

▼家族構成独身、一人暮らし

▼相談内容リタイアして、1年以内に海外移住を考えています。年間の生活コストは500万円ほど。90歳まで40年間で、単純計算すると現在の資産では6000万円不足です。そこで、運用によって安定的に必要なリターンを得ることを考えていますが、資産が目減りしていく中、5%弱のリターンが必要と考えます。私なりに考えたポートフォリオでは、3%程度のリターンは期待できると思うのですが、それも含めてアドバイス等、よろしくお願いいたします。

▼家計収支データ

▼家計収支データ補足(1)ボーナスの使いみち
旅行、ゴルフ等に50万円。貯蓄に50万円。

(2)保険料3000円の内訳
本人/医療(終身、入院1万円)=保険料3000円

(3)退職金と年金受給額
退職金はおそらくなし。公的年金は70歳からの受給として、月15万円以上。

(4)海外移住について
サービスアパートメント(長期滞在用賃貸住宅)利用を考えている。年間の生活費は家賃込みで500万円程度。

(5)老後生活のための投資について
相談者の考えたポートフォリオでは、本人が予想するパフォーマンスはリターン3%、リスク3%。「もう一度、リーマンショックのような悲劇に襲われても資産は3%程度の毀損で済む」と考えている。

▼FP深野康彦からの3つのアドバイスアドバイス1:5年後の移住とすればほぼ現金で準備できる
アドバイス2:投資リスクは「高め」に想定すべき
アドバイス3:場合によっては生活コストの見直しも

アドバイス1:5年後の移住とすればほぼ現金で準備できる

相談者である山田さんの海外移住プランを拝見して、まず思ったことは、移住時期が希望される1年以内ではなく、5年後であれば、かなり高い確率で必要な資金が用意できるということです。

その根拠ですが、現在年間の貯蓄額が月30万円にボーナスで年間50万円。これを5年間継続すれば、2050万円貯蓄が増えることになります。一方、公的年金ですが、70歳からの受給に繰り下げていますから、90歳までと仮定すれば20年間。受給額は少なくとも月額15万円とのことですから、トータル3600万円は手にすることができます。

5年間で新たに増えた貯蓄額と年金の総受給額を合計すれば5600万円。山田さんが必要とする老後資金の上乗せ分6000万円のうち9割以上を、投資のリスクに左右されることなく、現金で確保できることになるのです。

アドバイス2:投資リスクは「高め」に想定すべき

では、当初の希望どおり1年以内の移住となった場合、資金的にきびしいかと言えば、そうとも言い切れません。「運用次第」という部分が増えるため、それだけリスクをともなうことを、ご自身が理解していればいいと思います。

それを踏まえて考えますと「平均リターン5%でなくてはきびしい」とのご意見ですが、私はリターン3%の運用成績を維持できれば、資金的には大丈夫だと考えています。ただ、その3%が確実かというと、それはまた別の話です。

山田さんが考えているポートフォリオ(内容は省略)について言えば、リターン3%は期待できると思いますが、「リーマンショックのような悲劇があってもリスク3%で済む」という結論には、いささか疑問です。リーマンショックでは標準偏差(※)で言えば5~6というリスク度合い、つまり何百年に1度の出来事と言われるのです。あれほどのクラッシュは滅多にないことでしょうが、最大で10%近い目減りは覚悟しておくことが必要である気がしてなりません。

アドバイス3:場合によっては生活コストの見直しも

したがって、よりリスクを減らしていく運用を考えるべきだと思います。これまで十分投資経験も積んでこられたのですから、それについてはご自身で十分リスク管理やポートフォリオの組み替えはできるかと思います。

アドバイスをするとすれば、日本株3銘柄保有されていて、ともに新興株だという点がいささか気になります。銘柄名はわかりませんが、リスクを減らす方向で考えれば、早めに利益確定しておく方が賢明かもしれません。

もうひとつ、海外での生活コストを年間500万円と試算されていますが、たとえば50歳代と80歳代ではかかるコストは違ってくるはず。500万円がピーク時のコストであれば、平均額はもっと下がるはずです。あるいはピーク時を600万円、700万円と考えられているのなら、もう少しコストダウンをするための工夫、準備もしておく必要があるかもしれません。

(※)統計学的に割り出し、数値化した株式や債券などの値動きの上下幅であり、リスクを測る尺度。標準偏差が増えると、結果的に予想される最大損失の割合が高くなる。

教えてくれたのは……
深野 康彦さん

業界歴26年目のベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文/清水京武
(文:あるじゃん 編集部)