1997年~2012年の15年で退職金の額は1000万円もダウン。退職金制度自体が無い企業も増えています。収支がマイナスでも、「退職金でリカバリーできるから大丈夫」とは言っていられない時代に突入しました。その現状と回避方法をご説明します

退職金は15年間で1000万円ダウン

ひと昔前までは、退職金で住宅ローンを完済したり、子育ても終わって悠々自適に老後を過ごす……といったことが可能だったかもしれません。しかし、これから老後を迎える世代にとっては、そうもいかなそうなのです。

厚生労働省の「就業条件総合調査」によると、退職金(大卒、就業20年以上)は1997年の2868万円をピークに、2002年2499万円、2007年2280万円、2012年1941万円と15年で約1000万円近く下がっている計算。退職金制度がない会社も24.5%と全体の約4割。しかもその割合は年々増加しています。


弊著の「60代の得する「働き方」ガイド」では、65歳までフルタイムで働く「仕事バリバリ派」の近代太郎さん(仮名)が登場します。59歳の会社員で、長女は24歳、長男は28歳。ともに独立して、教育費の心配はない。60歳の定年退職時に1000万円の貯蓄があり、退職金を1764万円もらう設定。定年退職後は定年時50万円だった給料が26万円に下がるが、65歳の誕生日まで働く優等生です。その結果、貯蓄が底をつくのは84歳のとき。


このように退職金が貰えれば、もう少し日々の生活を切り詰めたり、0.5%でも運用すれば、なんとか年金生活を安泰を暮らせる計算でした。

しかし、この試算。もしも退職金が0だったらという試算に変えると、結果は大きく変わります。65歳までフルタイムで働くとしても、65歳のときは貯蓄が底をついてしまうのです。年金生活に入る前に老後破たんしてしまうという、とんでもない結果に……。

退職金がゼロだとどうなる?

以前もご紹介しましたが、60歳から65歳は、ライフイベントや第2の人生の門出としての出費が多い時期です。近代太郎さんの場合も、60代前半は、夫婦で海外旅行、車の買い替え、自宅のリフォーム、長男・長女の結婚式への援助、孫誕生のお祝い金など、ライフイベントの出費でいっぱいです。

でも退職金が0になったら、前述のようなイベントはもちろんすべて中止。それどころか、夫だけでなく、妻も夫が定年退職しても働き続ける必要があります。今まで50代で子どもたちに教育費がかかり、それまでの貯蓄が切り崩されても、退職金があるからなんとかリカバリーできたのが日本人のライフプランでした。しかし、退職金がなくなると、多くの会社員が老後破たんを迎えてしまうのは間違いないのです。

退職金クライシスを回避するには

さて、ではどうしたらいいのでしょうか。まず、定年を迎える前から準備をすること。下流老人の記事でもお伝えしましたが、子育てが終わったからと気を緩めて贅沢をしてしまわずに、収入が多いうちに日々の生活費をダウンサイジング。「なんとかなるだろう」と問題を先送りにせず、コツコツ貯金を増やしておきましょう。

そして、これからの時代は70歳まで働くことも視野に入れること。定年までに高いポジションにいたからと、「事務職がいい」「お給料が高くないと……」とこだわりを持ちすぎず、割り切ることも大切です。例えばマンションの管理人のアルバイトをして、月に15万円稼いだとすると1年で180万円。65歳~70歳の5年間で900万円にもなります。定年前のポジションやお給料にとらわれすぎずに、地道に収入を確保していきましょう。
(文:酒井 富士子(マネーガイド))