買い物のたびにつくポイントを、使わずに貯めている人も多いのでは? 経済コラムニストの大江英樹さんによると、「ついたポイントは次の買い物のときにすべて使ってしまうのが正解」なんだそうです。その理由とは?
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■ポイントは常にお得とは限らない

最近は買い物をすると多くのお店でポイントが付くようになりました。初めて入ったお店で買い物をすると「お得なポイントカードを作りませんか?」と訊かれて、入会金も会費も無料だからと、つい作ってしまうこともあるでしょう。ポイントが貯まって値引きしてもらったり、そのポイントで買い物ができたりすることもあるので、多くの人にとってポイントは人気があるようです。
ところがこのポイントサービス、常にお得とは限りません。ケースによっては気が付かないうちに損をしていることにもなりかねないのです。今回はそんなポイントサービスについて考えてみることにしたいと思います。

■10%ポイント還元と1割現金値引き、どちらがお得?

例えば、家電量販店のポイントサービスを考えてみましょう。大きな家電量販店で買い物をすると、多くの店で10%程度のポイントが付きます。一方、ポイントは付かないけれど、その場で10%の現金値引きをする量販店もあります。
さて、この二つのパターン、一体どちらがお得なのでしょう?
「え! どっちも10%の割引になるのだから同じじゃないの?」。そう思った方は多いでしょうね。ズバリ答えを言えば、圧倒的に現金値引きの方がお得なのです。実際に計算してみると現金値引きは10%の割引率だけど、ポイント還元は9.1%の割引しかないのです。
「え? どうして? だってどちらも同じ10%じゃない!」
一体どうしてそうなるのか、よく計算してみましょう。
家電量販店のAカメラ、ここは10%ポイント還元です。一方Bデンキ、こちらは10%現金値引きです。同じ10万円のパソコンをそれぞれのお店で買ったと仮定します。どちらもまず10万円払いますね。ここまでは同じです。ところが買った後、Aカメラは10%つまり1万円分のポイントが付きますが、Bデンキは、現金で1万円をくれます。同じ10%=1万円ですが、AカメラとBデンキの違いはポイントか現金かということです。ここからが重要なところです。
Aカメラの場合に貰える1万円分のポイントは言うまでもなく、Aカメラでしか使えません。もちろん現金に換えることもできません。ということは、あなたはいずれAカメラでその1万円分の買い物をすることになります(もちろんその分のお金はポイントを使うわけですから、かかりません)。つまりあなたがAカメラで使ったお金は「自分の出したお金10万円+お店がくれた1万円」ですからトータルすれば11万円になります。ところがその内の1万円分はお店がくれたポイントですよね。全部で11万円使った内の1万円がタダになるわけですから、割引率は1万円÷11万円です。電卓で計算するとわかりますが、およそ9.1%の割引となります。
これに対してBカメラは10万円使った後に現金で1万円くれるわけですから、こちらは1万円÷10万円が割引率となりますので文字通り10%です。つまりどちらも1万円お得にはなりますが、Bデンキでは10万円しか使わないのに対してAカメラでは結局11万円の買い物をすることになるのです。割引率、一方は10%でもう一方は9.1%ですから、その違いは1割近くになります。長い間買い物をするなら、その違いはとても大きなものになるでしょう。

■自分の持っているものを高く評価したくなる心理

これで、数字だけ見れば現金値引きの方が明らかにお得だということがお分かりになったでしょう。ところが、恐らくこう考える人が多いでしょうね。「う~ん、それはそうかもしれないけど、でもやっぱりポイントの方が良いような気がするわ。だってその方が楽しみだもの」。いくら現金値引きの方が得でも、実は多くの人はポイント還元の方が好きなのです。そしてその理由は「保有効果」という心理的な傾向にあります。
「保有効果」というのは、自分が持っているものについては高い評価をしがちになることです。10万円の買い物をして1万円を現金で返してもらったとします。その時はうれしいでしょう。でもいったんそのお金が財布の中に入ってしまったら、他のお金と一緒になってしまうので、帰りにご飯を食べたり、洋服を買ったりするときに使いますから、いつの間にか消えてしまいます。
ところがポイントは自分がそれを使うまでは残りますから、ポイント残高を確認するのは預金通帳を見るのと同じような気分になるのです。「よーし! たくさんポイントを貯めて、高額商品を無料で手に入れるわよ!」と考え、貯まっていくポイントを眺めながら内心ワクワクするという楽しみが出てきます。それを楽しみにしている人は結構多いのだろうと思います。実際、家電量販店のレジで順番を待っていると、前で店員さんとお客さんとのこんなやり取りが聞こえてきます。
店員:「ポイント貯まっていますが、どうしますか?」
お客:「いいわ、そのままにしておいて」
このように、貯まっているポイントを使わずにさらに貯めようとする人が多いのです。つまり貯めることが楽しみになり、それが目的になりがちなのです。でもこれでは本末転倒です。

■ポイントは余分な買い物をさせる心理作戦

本末転倒ということで言えば、ポイント還元には「選好の逆転」という心理的な現象も起こります。「選好の逆転」とはどういうことか。ポイントというのはあくまでも“おまけ”にすぎません。本来ならば買い物をするときには「その品物が良いかどうか」、そして「それを買うならどこで買えば一番安いか?」といったことを検討するのが普通です。ところが、ポイントというおまけがついた途端にそのおまけ欲しさに余分な買い物をしてしまいがちになります。つまりおまけであるはずのポイントが、選ぶ際の主な基準になってしまうことを行動経済学では「選好の逆転」というのです。他のお店で買った方が安く買える場合でもポイントの付く店でしか買い物をしない。これではまさにポイント還元をやっているお店の思惑通りであり、まんまと乗せられていることになります。
つまりポイントは、“貯めたくなる”という人間の心理をうまく利用し、かつ余分な買い物をさせるための心理作戦と言って良いでしょう。もちろん、買い物をしてポイントが付くのなら、それは悪いことではありません。でも正しいポイントの使い方、それは買い物をしてポイントが付いたら、それを貯めることをせず、次回の買い物の時に全部ポイントを使ってしまうことです。なぜなら、ポイントはいくら貯めても金利が付くことはありません。それに貯めれば貯めるほど、「使うのがもったいない」とか「もっと貯めよう」という気分になって無駄な買い物をしてしまうということにもなりかねません。まさに「保有効果」と「選好の逆転」の罠に陥ってしまうということになります。おまけに貯めているうちに有効期限が来てしまってポイントが無効になってしまうということも起こり得ます。
このように、ポイントを貯めることにこだわり過ぎることによって無駄な買い物をし、「ポイント貧乏」にならないように注意することが大切ですね。
(経済コラムニスト 大江 英樹 写真=iStock.com)