21世紀に入って20年近いわけだし、法制度も改正されている。まさか女だから不利ってことはないはず……と思っていたら大間違い。女性こそお金の勉強をしておかないと、思わぬ大損が待っているのだという。
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 サラリーマン世帯の将来の年金額は、1カ月22万円――老後の資金計画の基になるこの金額は、「夫=サラリーマン、妻=専業主婦」をモデルにしたもの。夫婦共働きや男女ともに単身者が増えた今では、あまり参考にならなくなった。
 ところがマネー記事の多くでは、相変わらずこの数字が使われている。女性の皆さんはご存知だろうか。年金制度を男女別に見れば、女性は男性よりも圧倒的に受給額が少ないことを。
 日本の法律や社会保障制度には、女性に不利な状況がいまだに残っている。まずは何が不利なのかを把握すること。そして対策となるマネー術はあるのか。専門家に話を聞いた。

ピンチ1:年金 最も要注意なのが離婚時の分割!

 まずは冒頭でも触れた年金の話。女性はなぜ受給額が少なくなるのだろうか。
 老後や障害、死亡時の保障がある「公的年金」には、「国民年金」と「厚生年金」がある。
・国民年金:日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入する年金。

・厚生年金:国民年金に積み上げる形で会社員・公務員などが加入する年金。
「厚生年金」の給付額は、現役時の給料に比例するため、給料が相対的に低い女性は年金も少なくなるのだ。

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厚生年金に入れるパートを

 実際、現役会社員の平均月収は、男性の約35万円に対し、女性は約24万円とほぼ10万円の差がある。この差が、老後にも現れるのだ。厚生年金の平均給付額は、男性の1カ月約16万6000円に対し、女性は約10万円だ。
 また給付金額の分布を見ると、より愕然とするのではないだろうか。男性は、1カ月20万円以上の人が25%もいるのに対し、女性は1カ月15万円以上の人は9%しかいない(厚生労働省「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。
 しかし女性が年金を増やす、または他の方法で資産を増やすことは一朝一夕でできるものではない。
「現役の女性は、仕事を選ぶ際に、パートでも勤務時間を確認して厚生年金に入れる仕事を選んだほうがいいでしょう。厚生年金に入れば健康保険とセットになるので、各種の手当が付く利点もある。また、厚生年金は〈平均給料と加入年月〉で算出されるため、短期間に高い給料を得るより、出来るだけ長く働くほうが効果が出やすい。雇用保険にも加入するので、教育訓練給付制度を利用してスキルアップを目指すことも考えるべきです」(ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝氏)
 では、共働き夫婦が熟年離婚する時はどうなるだろうか? 離婚時には、婚姻期間中の2人の厚生年金を足して2分割する(合意が必要)。
「年金分割は、給料が高かった方が損します。一般的な男女の給料差を考えれば、年金分割は女性が受け取る方が多くなる。しかし、離婚による年金分割はお互いが減り、お互いが損をすることになる」(同前)
 離婚に際しては、財産分与も考える必要がある。
「企業年金も、そして退職金も分割の対象外。しかし、これらは給料の後払いと考えれば、婚姻期間中に2人で築いた財産になる。財産分与の話し合いでは、企業年金や退職金を含めて考える方がよいでしょう」(同前)
 また、子供の養育費の問題もある。離婚する時に、養育費の支払いに関して取り決めをする夫婦は4割しかなく、しかも養育費の支払いは平均して3年間で止まるという調査結果もある(厚生労働省「ひとり親家庭等に関する調査研究」)。
「年金だけで考えれば、我慢して別居にとどめ、離婚しない方が得。年金の分割額より、夫が先に亡くなった時の遺族年金の給付額の方が多いからです」(同前)
 実は、遺族厚生年金は夫に不利にできている。
 夫が亡くなった時は無条件で妻に支給されるが、妻が亡くなった時の支給条件は55歳以上の夫が対象で、支給開始は60歳。対策としては、共働きの時は、死亡保険に入るのは、夫より妻を優先したほうがいい。
 また、夫の死亡時に妻が30歳未満で子供がいない時は遺族年金が終身で支給されていたが、07年に改正されて一気に5年間に短縮された。この対策は逆に、夫の死亡保険を増やすこと。
 遺族年金では、年齢によって対策が逆になるのだ。
「社会保障制度は、夫が働いて妻は専業主婦で子育てすることを前提に制度設計されてきましたが、様々な趣旨で改正が逐次加えられてきたため、継ぎはぎになり、複雑化し過ぎている」(ファイナンシャル・プランナーの新美昌也氏)
 離婚や死別して単身になった女性(寡婦)には、所得税では「寡婦控除」の優遇措置が採られている。
「しかし寡婦控除は、夫婦の配偶者控除に比べて常に低く設定されている。制度として、離婚を推奨できないのでしょう。また、所得税の寡婦控除に未婚の母は含まれません。夫婦別姓が実現しないのと同様に、日本の制度は法律婚を前提にしているからです」(経済ジャーナリストの柏木理佳氏)

ピンチ2:不動産 夫婦共有での購入は絶対に避けるべき!

 不動産では「女性の持ち家志向」が挙げられる。
「マンション購入の相談に来る夫婦の7割は、妻のほうが積極的です。落ち着いて子育てしたいなど理由は様々あると思いますが、男性より女性のほうが持ち家志向が断然高いことは明らかです」(不動産ジャーナリストの榊淳司氏)
 持ち家志向を背景にして、単身女性のコンパクトマンション(50平方メートル未満)購入が90年代に流行した。
 外資系メーカーに勤める40代後半の女性が言う。
「独身が続いて将来住む家が無いのが不安になり、30歳を過ぎた時に都内で購入しました。結婚して新しく家を買えば、マンションは売るか賃貸に出そうと思っていましたが、結局独身が続いているので、早めに買ってよかったです」
 一方で失敗例もある。
「結婚してマンションを購入したため、自分で買ったマンションは売りましたが、大赤字。人口が増えて地価が上がると言われた地区で買ったのに、人口が増えず、買った時の半値以下に落ちていました」(千葉市在住の40代女性)
 単身女性のマンション購入は今では一般化した。
 背景には、「高齢単身者は賃貸に入りづらいのではないか」という見方がある。高齢単身者は年金が少なく孤独死のリスクもあるからだ。
「人気エリアに住んでいた人が、定年後もそこで賃貸を探せば厳しいでしょう。しかし不人気エリアへ行けば借りることはできる。それに公営住宅は、家賃の3~4倍の収入があれば年齢に関係なく入れます。今は、都心でコンパクトマンションの建設が続いているので、需給関係だけで見れば20年後、30年後は賃貸物件が余ります」(前出・榊氏)

借入額は年収の5倍を目安に

 気をつけるべきは、今は低金利で借入限度額が上がっているということだ。
 金利3%の時、年収700万円の人の借入限度額は5305万円だが、金利が1%に下がれば、7232万円まで上がる(フラット35の場合)。
 本来、金利が下がれば返済負担は減るが、2000年以降は不動産価格の上昇もあり、低金利の分だけ借入額を増やしたせいで、返済負担が逆に増してしまう傾向があるという。
「金利が上がれば、途端に返済がきつくなる。今後10年、20年の間に金利が上がらない保証はありません。退職金や遺産は当てにしてはいけません。今は、年収の7~8倍は借りられ、返済終了年齢が定年を超えることもありますが、借入額は年収の5倍を目安にするべきです」(同前)
 都心の不動産価格が高騰して8000万~1億円の新築マンションも珍しくなくなった。こうした高額物件を購入している一部が、夫婦ともに稼ぐ「パワーカップル」の共有購入だという。
 都内在住の50代の男性サラリーマンが嘆息する。
「夫婦共有でマンションを買った後、5年前に離婚しました。子供が大学を卒業するまで妻と子供がそこに住み、私は賃貸マンションを借りました。マンションのローンと家賃の二重払いで本当にきつかった」
 前出・榊氏が強調する。
「夫婦共有での購入は絶対に避けるべきです。一つは、夫婦どちらかが働けなくなりローン返済ができなくなれば、家を売らざるを得なくなる。それ以上に、離婚した時は共有名義の不動産は処理に困る。2人ともローンを組んでいるため、片方が所有権を買い取る余裕は無い。ましてどちらかが所有権を第三者に売却してしまえば大問題になる。結婚する時に離婚を考える人はいないでしょうけど、今は3組に1組が離婚する現実があるのです」
※本記事の続き「ピンチ3:相続」、「ピンチ4:長生き」は、「週刊文春WOMAN vol.2」でお読みいただけます。
(坂田 拓也/週刊文春WOMAN vol.2)