高齢化によって日本人はこれから多くの問題に直面する(写真:cba/PIXTA)
政府が掲げる「人生100年時代」。その内容は、今後さらに長寿化が予想される日本人が、キャリアプランや働き方、学び直しなどをシフトせざるをえない状況にあるというもの。当然、「65歳定年制」や「余生は年金で暮らす」という過去の常識も見直さざるをえない状況にきている。「副業アカデミー」代表であり、明治大学リバティアカデミー講師でもある小林昌裕氏が、「人生100年時代に日本人が直面する問題」について解説する。
仮に75歳まで定年が延長されたとしても、「人生100年時代」を前提とするなら、さらに20年以上は年金をベースに自活しなくてはなりません。
夫がサラリーマンで妻が専業主婦の場合、老人夫婦世帯の年金受給額は、現在は約月22万円ですが、今後確実に受給額は下がっていくでしょう。今の現役世代が高齢者になるころには、元金が戻ってくるかどうかすら怪しいと思います。

年金をアテにしてはいけない

要するに、年金はほとんどアテにできないし、受け取るとしてもせいぜい5万~10万円程度という覚悟が必要です。ゆとりある老後生活を送るためには、毎月38万円ほど必要と言われます。
しかし、年を取れば大きな病気をする可能性も高まりますし、老人ホームに入居するとなれば、入居一時金だけで1000万円、毎月の居住費を含む生活費が20万~30万円かかりますから、38万円というのは決して贅沢できる金額ではなく、現役時代と同程度の生活水準を維持するために必要な金額になります。
少なく見積もっても、夫婦2人で毎月最低25万円ぐらいは必要ですが、これは年間にすると300万円。老後が20年間はあるとすると、6000万円は必要になります。
これだけの額を確保できる人は、サラリーマンではごく一部のアッパー層に限られるでしょうし、そういった人たちでも、現在の給与水準が退職するまで維持できる保証はまったくありません。
例えば、今40歳ぐらいの人が、もらえる年金を考えずに、定年までの30年間で6000万円貯めるには、年間200万円、月々17万円弱を貯金する必要があります。
そんな金額の貯金、本業だけではとてもできません。潤沢な老後資金のない人びとは、確実に生活水準が下がります。質素な暮らしが維持できればまだよいほうですが、病気などしてしまったら、一気に生活は破綻します。 
伴侶に先立たれた場合は、とくに男性のほうは生活が乱れてすさんだ暮らしになりがちです。
量販店で購入したヨレヨレのフリースやサンダルを着用し、食事はスーパーの見切り品。昼から発泡酒やパック入り焼酎を飲んで酔い、ネット動画で時間をつぶす日々。こうした「貧困老人」は今後激増する可能性もあります。そんな生活を続けていると、家族や友人とも疎遠になり、最期は風呂場で孤独死……。そんな悲惨な最期でいいのでしょうか。こうなる前に、できることはあるでしょう。
こうした動きに追い打ちをかけるように、政府は労働基準法を改正し、「時間外労働の上限規制」を打ち出しました。これまで残業時間は「月45時間、年360時間まで」とされていましたが、法的強制力はなく、青天井でいくらでも残業することが可能でした。そこで今回の改正法では、法律により上限を設けたのです。大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から適用(特例あり)され、時間外労働は確実に減ります。
これはすなわち、企業側がこれまでのように無制限に残業した分の残業代を払うことができなくなった、ということを意味しています。

経営者が望む「人件費の削減」

残業時間の短縮化に伴い、実質的に給与が削減される人も出てきます。会社に所属していれば将来は安泰、という時代は、もう終わりを迎えているのです。
時間外労働の上限規制は、表向きは働き方改革ということで、過度な残業はやめましょうということですが、企業や経営者の立場から代弁すれば、その本当の目的は人件費の削減です。
サラリーマンだと、「あと1時間残業すれば、2000円残業代増えるな」という考えは、どうしてもありますよね。でも、経営者としては、そういうことはもうやめさせたいわけです。
今はまだ、月3万円とか5万円ぐらい残業代をつけて、それで手取りがやっと25万~30万円という人は、決して珍しくないでしょう。
でも、その残業代がなくなって手取りが20万円少々となると、かなり「ヤバい」状況です。月17万円を貯金する余裕なんか、とてもありません。
国際社会に目を向ければ、電子マネーの普及やドローンの技術などを見ると、日本はすでに中国の後塵を拝しています。中国では、20代の社長が年商数百億円の会社を立ち上げていたり、何を買うにもキャッシュレスが当たり前です。
一方、日本は鎖国状態でどんどん離されていき、国際的な競争力は低下していきます。GDP(国内総生産)も中国だけでなく、ドイツ(2017年度時点で4位)にまで抜かれてしまいそうです。
そうなると、世界的に見てもジリ貧になっていくわけで、何もしないで給料が上がるなんてことは、絶対にありえないのです。
昭和型のキャリアプランでは、家庭のことは放ったらかしで、会社に対して全人格的に没入することも可能でした。そうすることが求められていて美徳とすらされており、会社側も十分な報酬や待遇で応えることができました。
ただし、今の社会では終身雇用は事実上崩壊しており、自分自身の生活や家庭生活を犠牲にしてまで会社に奉仕することは、むしろ危険であり、馬鹿馬鹿しい行為であると理解するべきです。

われわれは「80歳まで」働くかもしれない

リンダ・グラットン氏は著書『LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略~』において「100年ライフ」の到来を予測し、「教育→仕事→引退」という旧来の人生設計が過去のものになると提示しています。
人生が短かった時代は「教育→仕事→引退」という古い3ステージの生き方で問題なかった。しかし、寿命が延びれば、2番目の「仕事」のステージが長くなる。引退年齢が70~80歳になり、長い期間働くようになるのである。
90~100歳で死ぬのが当たり前になれば、80歳ぐらいまで働くことになるのは、何ら不思議ではありません。
定年延長について「死ぬまで働けというのか!」とネガティブに捉える人も少なからずいるようですが、「そのとおりです」と言いたいです。
これまで説明してきたように、年金や健康保険といった社会保障費は財源的に極めて厳しいと言わざるをえません。「60歳で定年を迎えて、老後は悠々自適に……」なんて悠長なことを言っていられたのは、70歳ぐらいで死ぬ時代で、なおかつ高度経済成長やバブル経済の余韻がまだ残っていた時代、すなわち「日本が豊かだった時代」の話です。
日本は先進国であるとはいえ、もはや世界をリードしているとは言えないでしょう。だからこそ、生涯働き続けることから逃れることはできないのです。