もはや共働きでなければ買えないような金額になってきている(写真:sunny/PIXTA)
東京のマンション価格は平均で7000万円――。
2018年の不動産価格は横ばい傾向だったが、高止まりの状況だった。とくに東京23区は2017年、2018年の平均価格がそれぞれ7089万円、7142万円と、いずれも平均価格は7000万円を超える。坪単価(3.3平方メートル)でも300万円をゆうに超える(首都圏マンション市場動向 不動産経済研究所 2019/01/22)。
昨年、東京カンテイが公表した「年収倍率」も話題となった。各地域のマンション価格は年収の何倍かを調べた興味深いデータだ。
東京は新築マンションが年収の13.26倍、築10年の中古でも10.46倍となっている。全国平均が新築で7.81倍、中古で5.30倍なので、東京はほかの道府県と比べても突出して高い(新築・中古マンション年収倍率・改訂版 2018/09/25)。
年収倍率は都道府県別の平均年収と比較しているので、価格が高くてもその地域の年収も高ければ倍率に大きな差は出ない。しかし首都圏、とくに東京だけが平均の2倍近くと際立って高い。新築マンションで年収倍率が10倍を超える地域は東京以外に神奈川が11.16倍、埼玉が10.13倍と3カ所のみだ。
なぜここまで東京は突出して高いのか? これは金利、ライフスタイル、商業施設との競合と、3つの大きな変化がある。

金利が下がると不動産価格は上がる

近年、最も不動産価格に影響を与えた要素が金利であることは間違いない。アベノミクスによる異次元金融緩和で一時的にマイナス金利になるほど長期金利が下がり、それに伴って不動産価格も上昇している。
金利低下が不動産価格の上昇につながるロジックはさほど難しくない。例えば4000万円を35年ローンで借りた際、金利1%なら返済総額は約4742万円だが、4%では約7438万円と急激に増える。
毎月の返済額を固定したシミュレーションも見てみたい。35年ローンで毎月の返済額を15万円にした場合、金利別の借入れ可能額は、金利が1%なら5313万円も借りられる一方で、4%では3387万円しか借りられない。金利が上がると借入れ可能額が大きく減ることがわかる。
このように、金利のわずかな変化がローンに大きな影響を与え、それが住宅価格に影響を与える。
「近年は不動産価格が上昇傾向にあったため金利は下がったものの不動産価格は上がっている」といった説明をされることもある。しかし正しくは「金利が下がったから不動産価格が上がった」で、シーソーゲームの関係にある。
ただし、これは不動産価格が上がったことの説明であって、東京だけが高いことの説明にはならない。東京の不動産価格が高い理由は人口密度にある。不動産価格は「そこから得られる収益」で決まる。シンプルに言えば「儲かる土地ほど値段が高い」という原則だ。
用途が居住用でも商業用でも、原則として人が多いほど不動産価格は高くなる。居住用ならばオークションの参加者が多いほど価格が上がるように、家の値段も上がる。オフィスや店舗などの商業用でも、お店や企業の得る収益が多いほど高い家賃を払うことが可能になる。つまり客の多い場所ほど賃料が上がる。
したがって最も人口の多い東京が、最も価格が高いのはある意味で当然と言える。

共働きがマンション価格を押し上げる

東京が高いのは当たり前、という説明で終わることも可能だが、より詳しい説明をするのであればライフスタイルの変化が挙げられる。それが女性の就業だ。
家を買うタイミングは、多くの家庭で結婚して子どもが生まれてからだ。結婚後、そして出産後に妻が働くかどうかによって専業主婦世帯と共働き世帯に分けられるが、一昔前と比べてその割合は大きく変わった。
1980年ごろ、専業主婦世帯と共働き世帯の割合はおおむね2:1だったが、現在ではそれが逆転して1:2となっている。新しく結婚する夫婦によってその割合が変えられているので結婚退職、いわゆる寿退社はほとんど見かけなくなったと言っても過言ではない。
現在は大手企業ほど産休・育休の制度が整って取得も容易になっている。大手企業で雇用が安定していて給料が高く産休・育休が取得しやすい……そんな状況であえて退職するメリットはほとんどない。30歳で結婚して退職した女性がもし60歳まで働いていたとすれば、と考えれば、平均年収300万円で考えても9000万円、400万円ならば1.2億円と、莫大な額に上る。これは節約では到底カバーできない額だ。共働きであることはそれだけで購買力が強いことを意味する。

共働きなら通勤時間も2倍

共働きの夫婦は通勤時間が2人分発生する。これも不動産価格に影響を与える要素になりうる。
専業主婦家庭ならば夫だけが働いて片道1時間でも往復で合計2時間だが、2人とも片道1時間の距離ならば2人の通勤時間は合計4時間となる。ここまで通勤に時間を取られると仕事と子育てとの両立が非常に厳しくなる。5~10分の差で保育園のお迎えに間に合うかどうか、という状況にある人は決して少なくないだろう。そんな人にとって通勤時間が30分か1時間かの違いは死活問題となる。
結果的に共働きの夫婦ほど便利な場所に住むインセンティブが生まれる。職住近接(しょくじゅうきんせつ)とも言うが、職場の近く、つまり多くの場合が都心部に近くなおかつ駅の近くを好む。
都心寄りで駅近くのマンションであれば当然価格は高くなる。不動産価格が全国平均の2倍近くで高止まりしている理由も、共働きの夫婦がギリギリ2人で払える額、これ以上は無理、という水準まで上がっているためと見ることもできる。
有楽町や大手町、渋谷、新宿など、オフィスの固まっている場所まで通勤が便利で乗り換えなしで行ける場所、30分程度で行ける場所、なおかつ駅近……となるとファミリータイプのマンションならば6000万円とか7000万円になっても決しておかしくはない。
もちろん、これだけ高価格のマンションを買うのは日本国内でもごく一部の人なので、「いくら便利と言っても高すぎないか?」と思う人も多いだろう。はっきり言って意味不明な価格水準に見えるかもしれない。
実際、筆者の下へ相談に訪れた人が地元の友達に6000万円のマンションを検討していると話したところ「いったい何を考えてるのか?」とビックリされたという。国内でも住宅相場が東京の半分以下という地域も珍しくない。おそらくその友人のほうが正常ということになるのだろう。
では6000万円のマンションを買う人は、ブランド物の洋服で着飾って高級車を乗り回して深く考えずに高いマンションを買うような無計画な人なのか? 実態はその真逆だ。
夫婦で仕事とプライベート(子育て)の両立を考えると、職場寄りで交通の便がよい場所にマンションを買う以外に選択肢がなく、ある意味で「仕方なく」6000万円とか7000万円のマンションを買っている、というのが実態だ。
生活スタイルもとくにぜいたくをしているわけではなく、住宅と子育てにはお金をかけるがそれ以外はごく普通だ。筆者の下に訪れる人は、車を持っている人も1~2割程度と非常に少ない。お金がないのではなく、都心部に住めばとくに必要ないということだ。

オフィスとホテルがマンション価格を押し上げる

東京の不動産価格に影響を与えている要素は、金利、ライフスタイルの変化、そして最後が商業施設とのバッティングだ。
前述のとおり、都心寄りで駅近となれば商業施設とマンションがバッティングする。飲食店やオフィスが入るビルを建てるか、ホテルを建てるか、それともマンションを建てるのか、不動産事業者はより儲かるほうを選ぶ。
法律の規制も関わるが、商業施設への需要の高さもマンションに影響を与えている。2012年の政権交代によるアベノミクス以降、オフィスの賃料は緩やかに上がり続け、空室率は下がり続け、オフィス需要は強い。
訪日外国人旅行者数も2013年に1000万人を初めて突破するとその後も増え続け、2018年には3倍の3000万人を初めて突破した。当然、旅行者向けのホテル需要も強い。
これらの要素がマンション価格にも影響を与える。便利な場所は誰にとっても、どのような用途でも便利であることに変わりはない。そして不動産事業者にとってオフィスビルやホテルと同等以上の収益がなければ、わざわざ居住用のマンションを建てる理由がない。
筆者が事務所を構える山手線・日暮里駅のすぐ近くでもマンションが建築中だ。渋谷や新宿には劣るが、駅の目の前なので繁華街の真っただ中となる。そこにマンションを建てればオフィスや店舗向けのビルと真っ向からバッティングする。
もちろんこれはかなり極端な例。すべての立地でバッティングするわけではない。しかし一部でもこのような状況があれば、商業用ビルやホテルとバッティングしてマンション価格が高くなる。

都内のマンション購入は共働きで定年まで働くのが前提

「東京のマンションが高いから結局何なんだ?」ということになるが、今後首都圏、とくに都内でマンションを買う人は夫婦ともに定年まで働き続けることがほぼ確定しているということだ。
7年ほど前に筆者がフィナンシャルプランナーとして開業した当初は、「ローンの返済にめどがついたら働き方をセーブしたい」「正社員を辞めて派遣やパートなどで働きたい」と話す奥さんは多かった。女性が定年まで働く感覚がまだ少なかったと思われる。
現在では、そういった話はとんと聞かなくなった。女性も定年まで働く前提でいる人が急激に増えた……というより途中で辞めるという感覚がない人がほとんどだ。短期間で常識が大きく変わったように思う。
筆者が見ているのはあくまで全体の一部でしかない。「高額なマンションを買えば仕事を辞められないだけでは?」という見方も当然あるだろう。「そんな高いマンションを買うなんて、楽しい生活を送るために働くのか、それとも仕事のために無理して高いマンションを買うのか、いったいどっちなんだ?」と感じた人もいるだろう。
これはニワトリが先か卵が先か、という話になってしまいそうだが、支出の優先順位は子ども(教育費)と住宅コストが多くの人にとって1位と2位だ。そして生活の優先順位で言えばそこに仕事も加わり、子どもは家族と言い換えても同じだろう。
家族、住宅、仕事と、3つの要素をどれも優先するのであれば便利な場所にあるマンションしか選択肢がないというケースも多い。そして住宅ローンを返済するために嫌々働いているのではなく、仕事にやりがいを感じて優先順位が高いからこそ、高いマンションを買ってでも両立を目指している、というのが実態だ。