本格的な運賃値上げ 23年ぶり
ここ数年、値上げのニュースを頻繁に目にするようになりました。
しかし、鉄道の運賃となるとどうでしょう。
JRの運賃はそう大きくは変わっていないなあ…。そんなイメージはありませんか。
それもそのはず。国鉄が分割民営化され、全国にJR各社が発足したのが32年前の昭和62年。それ以降、運賃が本格的に値上げされたのは平成8年のたった1度だけなのです。
この時はJR北海道、JR四国、JR九州のいわゆる「3島会社」と呼ばれる3社が一斉に値上げを行いました。(※消費税の導入、消費税率の引き上げ時には、JR各社が増税分を運賃に転嫁しています)。
それから23年余りがたった5月10日。
JR北海道が運賃値上げを国土交通省に申請しました。
特急料金や定期の割引率は変えなかったものの、近距離、中距離、長距離とすべての運賃を値上げ。中でも目を引いたのは170円だった初乗り運賃が200円になったことです。
現在、JR東日本、JR西日本(一部を除く)、JR東海の初乗り運賃は140円、JR四国、JR九州は160円ですが、初めて200円の“大台”に乗ったのです。
JR北海道の運賃値上げは、消費税率が10%に引き上げられる10月1日から。
消費税率引き上げ分を含めると普通運賃で平均で15.7%、定期運賃で平均22.4%、全体の平均では11.1%の値上げです。
値上げ幅はJR各社が発足して以降では最大となりました。
中には値上げ幅が31.8%となった区間もあります。
値上げ率は過去最大 31.8%も
北海道では人口減少が進んでいます。にもかかわらず、客離れを招きかねない大幅な値上げに、JR北海道が踏み切るのはなぜでしょうか。
値上げを申請したあと行われた記者会見で、幹部は次のように説明しました。
「当社の経営状況は大変厳しい状況にある。今後も鉄道設備の安全投資と修繕をしっかりかけていくと、残念ながら毎年400億円規模の営業赤字になる。そうした中で当社の最大限の経営努力を前提にご利用の皆様にも負担をお願いしなければならない」(JR北海道 綿貫泰之常務)
値上げのニュースでよく耳にするのは『物流コストの上昇』『原材料コストの上昇』といった理由です。これに対してJR北海道の場合は「値上げをしなければ会社の経営を続けていくことができない」という極めて切迫した事情だったのです。
値上げ不可避? 深刻な経営難
たしかにJR北海道の経営状況を見ると年々厳しさを増しています。
ことし3月期の決算はグループ全体で過去最大となる179億円の最終赤字。最終赤字は実に3期連続です。しかも、国からの財政支援に頼らなければ、たちまち資金不足に陥る状況となっています。
ここまで経営が悪化している最大の要因は利用者の減少です。
JR北海道は新幹線を含めて27の路線がありますが、すべてが赤字。しかも、その半数で赤字幅が拡大しています。
さらに国土の22%を占める広大な面積をカバーする総延長2000キロ余りの鉄道網が老朽化し、安全な運行を続けていくための「投資」も年々膨らんでいます。
JR北海道によると、この安全投資には今後5年間で1520億円が必要だといいます。深刻な経営難です。
今年度と来年度は国から200億円規模の財政支援を受ける予定で、なんとか今年度は17億円の黒字を確保できる見通しですが、その先は支援を受けられるめどは立っていません。今回の運賃値上げは、JR北海道ができるいわば“最大の自助努力”だったのです。
ただ、値上げによって見込まれる増収効果は40億円程度。国の支援に頼らない経営の自立への道はなお遠いのが現状です。
近距離は高く 長距離は低く
「値上げしなければ経営が厳しくなる。しかし値上げして客離れを招いてしまえば元も子もないーー」。
値上げ特有のジレンマですが、今回、JR北海道はある工夫でこのジレンマを克服しようとしています。
地下鉄やバスなどとの競合条件に応じてさまざまな値上げ幅を設定したのです。
たとえば札幌市のベッドタウン「新札幌」と「札幌」の区間はJRのほかに地下鉄も走っています。
所要時間はJRが10分かからないのに対して地下鉄は20分以上。しかもJRは乗り換えが不要です。この区間では、値上げをしても競争力があるとみて値上げ幅はおよそ30%に設定しました。
一方、「札幌」とオホーツク海側の「北見」の間は、特急列車(指定席利用)で9050円。これに対して同じ区間を走る高速バスは5340円。価格ではバスが圧倒的に有利です。ここでは値上げ幅は6%と低く抑えました。
JRの運賃は、キロ数に応じて一定の割合で高くなっていく仕組みが一般的です。JR北海道は今回、柔軟に設定できる仕組みを新たに導入しました。値上げのダメージは小さくなるでしょうか。
10年後、20年後の鉄道は
経営難に直面するJR北海道は3年前、全路線の半分余りにあたる、およそ1200キロの区間について、単独では維持できないと発表しました。
この方針のもと、4月には、かつて炭鉱で栄えた夕張市内を走る石勝線の「夕張支線」が、明治以来127年続いた歴史に幕を下ろしました。
来年5月には「学園都市線」の一部の区間も廃止されます。
そして、流氷も見ることができる「釧網線」、ラムサール条約登録の湿地を駆け抜ける「花咲線」、“タマネギ列車”で有名な石北線など、多くの鉄道ファンをひきつけて止まないこれらの路線も、国や沿線の自治体などから支援を受けなければ、維持できないとしています。
JR北海道に徹底した経営努力が求められるのは言うまでもありません。
しかし、値上げをしなければこうした路線を維持し続けることが難しいのも現実です。さらに全国各地で人口減少が進んでいることを考えれば、近い将来、ほかの地域も北海道のような“鉄路の危機”に見舞われるかもしれません。
JR北海道による過去最大の値上げは、地方で鉄道網を維持していくことの難しさを改めて突きつけました。
さて、10年後、20年後、各地の初乗り運賃はいくらになっているのでしょうか。
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