「保険でお金を貯める」のはやめたほうがいい
外貨建て保険は「日本が少子高齢化で国力が衰える」から入っておくべきなのだろうか(写真:jun/PIXTA)
今、保険ショップや銀行では貯蓄を目的にして「外貨建て保険」を勧められるケースが増えています。しかし、外貨建てでも円建てでも保険は資産形成には向きません。コストが非常に高いというのが理由の1つです。
先日(4月20日)に金融庁主催の「つみたてNISA(少額投資非課税制度)フェスティバル2019」が開催されましたが、その中の「長官に聞いてみよ~!」というコーナーで、遠藤俊英長官もこうおっしゃっていたのが印象的です。
「外貨建て保険は、投資信託以上に販売手数料が高い。手数料を顧客にわかりやすく開示すべきだ。『保険は保障部分があり投信と比べられない』というのではなく、リターンをわかりやすい形で開示し、そのうえで顧客に比較して選んでもらうということをしてほしい」
実際、外貨建て保険は運用目的で加入する人がほとんどですが、コストだけでなくリスクや利回りについての説明も不十分なことが多いのです。生命保険協会の調査結果では、外貨建て保険に関する苦情は1888件(2017年度)で、5年前の3倍に急増しています。今回は外貨建ても含めた貯蓄性保険の注意点についてみていきましょう。
「保険なら安心」という幻想
「お金を増やしたい。でも投資は怖い。保険なら安心かも」と考えてもいいのでしょうか。
大本真央さん(仮名・パート勤務・53歳)は、この春、次女が大学を卒業しました。2人の娘の教育費が想定よりもかかったため、現在貯蓄額は500万円ほど。夫の定年までの「最後の貯め時」でしっかり老後資金を貯めたいと考えています。
早速、テレビコマーシャルで知った保険ショップに予約を入れました。これまで一度も投資をしたことがないので、あまりリスクの大きいものは嫌だと思い、「保険なら安心かも」と考えたのです。
そこで勧められたのが、「トンチン年金保険」と「米ドル建ての介護保険金付き終身保険」でした。真央さんが外貨建てに微妙に抵抗感を示したために、1つは円建てのトンチン年金保険になったようです。
運用目的で2つの保険を勧められた真央さんですが、夫に「契約する前に、もう少し調べてみたら?」と言われ、ネットで調べると結構ネガティブな情報も多く掲載されていました。そのため心配になって、私の元へご相談に来られたのです。
トンチン年金で元を取るのは難しい
まずは長生きするほど有利になる終身型の保険「トンチン年金保険」についてみてみましょう。
現在53歳の真央さんは、70歳まで毎月約4万4000円の保険料を支払うと(総額約898万円)、70歳から年金として年額36万円が生きている限り受け取れます。その代わり、死亡したときの保障はありません。
保険料は決して安くはありませんので、加入のポイントは「元を取れるかどうか」となります。真央さんの場合、95歳まで生きれば元を取れます。現在53歳女性が70歳になる頃の平均余命(どのくらい生きるか)は、平均21.6歳、91.6歳まで生きる計算です。
「うちは長生きの家系だから検討する価値はある」とおっしゃっていましたが、まさにそこが盲点です。長生きリスクに備えるこの保険は、真央さんのように長寿を考える人が加入する傾向があります。結果、生命保険会社の支払いリスクが高くなると考えられるため、一般的な死亡保険よりも保険料が高くなる傾向があります。
真央さんは、会社員として働いた期間も長いので65歳から受給できる公的年金額は、約180万円の見込みです。ここで、もし公的年金の繰り下げ受給を選択した場合(70歳から受け取る)、5年間受け取らない年金額の合計は900万円で、トンチン年金保険の保険料とほぼ同じです。
一方、5年間の繰り下げ受給で増額する年金額は約75.6万円(180万円の42%)です。つまり、未受給の年金900万円分は、受給開始から11年と11カ月で元を取れることになります。70歳から受給開始すれば81歳のときに元を取れるというわけです。また、公的年金は、インフレになれば、それに合わせてある程度増額されますが、トンチン年金保険は増額されることはありません。公的年金の繰り下げを優先するほうが、長い老後を考えると有利でしょう。
さて、もう1つの「米ドル建ての介護保険金付き終身保険」を見てみましょう。前出の保険ショップでは「少子高齢化が進む日本は国力が低下して今後円は弱くなります。ですから円安リスクを回避するためにもドルを持つ必要があります。介護保障も付いた保険でお金を貯めれば一石二鳥。返戻率155%で、元本保証もされていて安心ですよ」と言われたそうです。
外貨建て保険は「コストてんこ盛り」の可能性
年間保険料は、1ドル=112.97円で換算して約102万円。払込期間は3年(総支払い保険料は約2万7000ドル)、死亡時、または所定の介護状態(公的介護保険制度の要介護2以上の状態になったときなど細かな要件あり)になれば、保険金額4万2000ドルが支払われます。
「返戻率155%で元本保証されていて安心ですよ」ということですが、元本保証されているのはあくまで外貨ベースです。円安ならいいのですが、もし受け取り時に円高になっていれば元本割れすることもあります。 真央さんも「約束されたものではないのですか?」と驚いていましたが、「返戻率155%」は、契約時と為替レートが変わらないことを前提にしたバーチャルな数字です。
このように、「保険」と名前がついているので「安全」と思っている人がほとんどですが、外貨建ての貯蓄性保険は、為替リスクがあります。決して安全性(元本割れしない)の高い商品とは言えません。
そして、何よりも非常にコストの高い商品なのです。外貨建て貯蓄性保険は、保険と外債や投信などをパッケージにした商品ですので、保障と運用にそれぞれ手数料がかかります。購入時や契約期間中にかかる販売手数料、金利の上昇時にかかる費用、年金受け取り時にかかる費用、購入時や保険金受け取り時には為替手数料、一定期間内で解約すれば解約控除もかかります。ともかく「コストのデパート」です。
もはや「日本は国力が低下するから円安になる」というのは、外貨建て保険を売るときの常套句になっています。一見もっともらしく聞こえますが、本当なのでしょうか。
為替の変動の要因は、期間によって異なります。「短・中期」では金利が変動要因となり、金利の高い国の通貨が高い傾向にありますが、保険の対象になっている「長期」では、2つの国の物価の差、つまり購買力平価によります。購買力というのは、モノを買う力のことです。
トルコやアルゼンチンの例でもわかるように、インフレ率の高い国の通貨は、同じ額面でも以前よりも買えるものが少なくなってしまいます。わかりやすくドルで説明すると、例えばリンゴ1個が1ドルだったのが、10年後に2ドルに値上がりしていれば、1ドルのモノを買う力は半分になったことになります。逆に、日本のようにデフレが長く続いた国の通貨は上昇しやくなります。国力と為替には必ずしも明確な関係はありません。
外貨建て資産を持つなら海外株投信で
今後も日本のインフレ率が他の国より低ければ、円の価値は相対的に上がり続けます。もちろん「円の価値が暴落することは絶対にない」とはいえませんが、少なくとも、「日本の国力が低下してどんどん円安になっていく」ということではないのです。
将来、日本がインフレになったときに購買力を維持するうえで、外貨に投資をするのは必要です。でも、それは単純に外貨を持つということではありません。外国為替は円と交換するときの値段が変動しているだけで、金利は生むものの、それ自体が価値を生み出しているわけではないからです。
資産の一部に外貨建て資産を持つことは大切ですが、わざわざ、主に外債で運用している高コストな外貨建て保険という手段を使って持つ必要はありません。
むしろ、外貨を持つなら、低コストのインデックス投信で海外株に幅広く投資するといいでしょう。真央さんも保険はやめて、NISA口座での外国株式インデックスファンドと、個人向け国債変動金利型10年満期で運用することにしました。
このように、保険は商品性をよく理解して、デメリットもわかったうえで契約してください。
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