メガバンクや大手証券が「令和時代」に生き残るためのカギとは?(撮影:今井康一)
平成の約30年間にあって、銀行証券会社などの日本の金融ビジネスは大きく相対的地位を低下させた。

衝撃的だった野村証券の「店舗2割削減」

この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら
平成元年、すなわちバブルの最後の1年の仕上げに掛かった1989年当時と較べるのはフェアでないかも知れないが、大手銀行も大手証券会社も現在の収益環境は厳しく、学生の就職人気も随分低下した。メガバンク3行は経営規模こそ大きくなったものの、人員や店舗の削減を発表しており、ビジネス全体の退潮が鮮明だ。
先日、野村證券の2019年3月期の決算発表があったが、海外投資の大きな減損処理があって、大幅な赤字となった。長年にわたって社風に不似合いとも見える「グローバル化」の夢を追い続けてきた同社が、何年かに一度のペースで海外事業の損失を出すのは「よくあること」なのだが、今回は、これまで強かった国内ビジネスの収益力では海外の損をカバー出来なかった。国内ビジネス自体の収益力に明らかに翳りが見られる。
加えて、衝撃的だったのは、同社が国内の営業店舗を2割削減すると発表したことだ。顧客との接点を多く作り、強引とも称される強力なセールスで手数料を稼ぐ、従来の対面営業型のビジネスモデルがいよいよ限界に来ている。
投資信託の乗り換え営業に象徴されるような手数料稼ぎのビジネスに対しては、監督官庁である金融庁の視線も厳しくなっている。業界2番手の大和証券グループの決算資料のリテール営業に関する説明の中には、「株式投信は、主にスイッチング取引が減少したことにより、投信募集手数料は微減。期中平均残高の減少により、投信代理事務手数料も減少」と正直な記述がある。
対面営業型の大手証券は、昨年金融庁に出した投信ビジネスに関する指標(いわゆるKPI)によると、預かり残高上位の投資信託20本の年間平均手数料(販売手数料と信託報酬の合計)が資産残高の2%から2.5%レベルに達する。飽くまでも平均値なので、投資家によっては手数料をもっと払っているケースがあるだろうし、「これでは、投資家が儲けるのは大変だな」と思わざるを得ない。そして、顧客にメリットのないビジネスが長く続くとは思えない。
メガバンクでも、窓口で扱っている投資信託の同様の手数料が2%前後に上る。投資家から現状と同様のペースで手数料を取り続けるのは、難しくなりつつあるのではないか。
メガバンクにはまだ余裕があるようにも見えるが、証券会社と比較して、銀行はより装置産業的である分、小回りが利かない。
加えて、国際ビジネスをほとんど持たない地方銀行には、今や稼げるビジネスがない。問題として話題に上ることの多い貸家向けのローンの不良化よりも先に、運用の失敗で経営破綻する地方金融機関が出ることが心配だ。1990年代の経験から見て、収益に苦しむ金融機関は、リスクもコスト(実質的な手数料)も大きな不適切な運用商品(1990年代だと仕組み債など)に手を出すことが多い。彼らは、今や、危険が一杯の池(リスクのプール)で泳ぐカモのような状態になっているのではないだろうか。
地方銀行は、つい近年まで地元では「いい就職先」で通っていた。しかし、現在では、お金持ちの顧客にとって銀行がもたらす最大のリスクは、手数料が高い投信や保険を売りつけられること以上に、息子や娘が銀行に就職してしまうことではないか。

新技術で手数料の価格破壊が起きた

バブル崩壊の後始末に終始した感のある平成の金融ビジネスにあって、前向きな変化はインターネットを使った取引の発達だった。規制によって守られて変化の乏しい金融業界にも、新技術は影響を及ぼした。
この技術革新の平成時代に於ける最大の成果は、株式の売買委託手数料の自由化と大幅な引き下げの実現だった。取引コストの低減は、投資家全般にとっていいことだ。
他方、平成時代全体を見ると、投資信託の手数料は、1990年代に募集手数料、信託報酬共に引き上げられ、加えて、頻繁な乗り換えを勧誘する営業形態によって、投資家が支払う手数料水準はかなり高いものになった。
証券業界の手数料稼ぎの道具が、株式から投資信託に移った。そして、投信の販売は、1998年の「日本版ビッグバン」で銀行にも解放されたが、現在、銀行窓口での投信販売は対面営業の証券会社と大きく変わらない状態になっていて、収益環境の悪化に苦しむ銀行の手数料稼ぎの手段になっている。
しかし、平成の終わりに向かって、投信の募集手数料にもノーロード(販売手数料ゼロ)が増え、インデックスファンドの普及拡大と共に信託報酬も低下した(特に外国株式のインデックスファンドの手数料率引き下げが顕著で喜ばしい)。また、森信親長官時代に金融庁が、金融機関の露骨な手数料稼ぎに対して厳しい姿勢を取り始めたことも後押しとなった。
令和の時代にあって、対面営業で金融商品を販売して高い手数料を取るスタイルのビジネスはどんどん苦しくなっていくだろう。
これに対して、金融機関は、(1)資産の預かり残高を拡大して残高に対するフィーで稼ぐ、(2)アドバイスやコンサルティングで稼ぐ、という方向を目指しているように見える。
人間によるアドバイスに対する需要はしばらくの間はあるはずなので、こうした路線はある程度の成果を上げそうだ。しかし、技術の進歩を考えると、遠からず、(1)残高にかかるフィー水準の競争、(2)AI的技術によるアドバイスの機械への置き換え、の両方が進むはずなので、新技術による「残高フィー」、「アドバイス料」両方の価格破壊が進むと見るのが妥当だろう。
株式の売買手数料に対して起こったのと同様の変化が、金融のあらゆる商品・サービスに対して起こるはずだ。その変化に適応できた者が、令和の時代の主な金融プレーヤーになるはずだ。

データを握るのは誰か?

金融は元々お金の流れと共に情報を処理するビジネスだ。モノを直接生産するわけではないが、お金の流れを通じた情報処理で資源配分を効率化して生産に貢献する。例えば、銀行は口座のお金の流れのデータから他人よりも正確な与信判断が出来ることが強みのビジネスだった。
ところが、令和の時代に入った今の状況を見ると、金融業はデータにお
ける優位を急激に失いつつある。例えば「Amazonが銀行業免許の申請をしたらどうなるか?」という問が頻繁に聞かれるが、「Amazon」の 部分をグーグル、アップル、フェイスブックといった企業に変えてもあまり違和感はない。あるいは現在覇権を巡って鎬を削っているキャッシュレス決済分野で勝ち残った業者などが、金融サービスを提供することを考えると、融資についても資産運用やコンサルティングについても、現在の銀行や証券会社よりも強力なデータを持ち得るように思われる。
例えば、個人のリアルな店舗の購買行動を個人名、位置情報、決済の状況などと共に把握することができると、個人に対する評価とマーケティングは、現在の銀行に可能なレベルの遙かに上を行くにちがいない。一方、銀行は決済業者と個人の帳尻を決済するだけで、個人の行動に関する情報を持てない。金融ビジネスの主なプレーヤーは、案外短期間で大きく入れ替わるのではないだろうか。当面は、キャッシュレス決済で誰が覇権を握って、データを保有するようになるのかに注目したい。
ところで、大きなデータを元にした新しい金融ビジネスは、非常に強力なマーケティング能力を持つはずだ。個人の金融行動は、趣味嗜好や性格などと共に、「新しい金融機関」によって丸裸の状態で把握されるだろう。
こうした動きに対して、欧州のように個人情報の権利を強化して情報の利用を規制する方向を選ぶのか、中国のように情報の利用に関する規制をむしろ緩和してビッグデータのビジネス利用を促すのかが問題になる。アメリカは中国寄りの路線に見えるが、中国は政府の後押しもあって、データのビジネス利用に関してすでにアメリカの先を行っているように見える。
この問いに対する筆者の目下の答えは、「中国型+消費者権利の強化」だ。データ利用の拡大は止めようがないし、有効に規制することが不可能だろう。加えて、データ処理ビジネスに制約を加えると経済は活性化しない。
データは広く自由に利用させる一方で、(1)使用するデータと利用方法について企業に厳しく開示させる、(2)買った金融商品の返品などに関して消費者の権利を強化する、(3)金融商品のマーケティングに対する警戒的な啓蒙を広く行う、(4)マーケティングに対抗するビジネスを育成するなど、個人が「新しい金融ビジネス」のカモにならないような「金融マーケティングに対する対抗的力」を養うことが、令和の時代の金融行政には求められるのではないだろうか(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
「平成最後の」と「令和最初の」は、読者にとってすでに耳にタコ状態だろうが、性懲りもなく「令和最初のG1競争」の予想をお届けする。
NHKマイルカップ(5日、東京競馬場11R、1600メートル)は年によってメンバーの質に差があるが、今年はアドマイヤマーズ(朝日杯優勝馬)とグランアレグリア(桜花賞馬)のG1馬2頭が出走して、それなりに格の高いメンバーだ。

マイルカップは2頭が抜けているがグランアレグリア本命

実績・実力とも2頭が抜けているように思うが、両馬を比較すると、直線が長くスピード優先の目下の府中のコース状態を考えると、ディープインパクト産駒で圧倒的なスピード能力があるグランアレグリアに一日の長があるように思われるので、こちらを本命に採る。現実に府中のマイルで2勝している。
アドマイヤマーズはマイルが得意なダイワメジャー産駒で実績と安定感あり、対抗以下には落とせない。しかし、距離が1ハロン(200メートル)長かったとはいえ府中コースの共同通信杯を取りこぼしている。中山や阪神のような、小回りながらタフなコースの方が合うのではないか。
2強の一角を崩す可能性がある単穴はディープインパクト産駒のダノンチェイサーだろう。3連単の2着、3着で狙ってみたい穴馬は、有力2頭が先行タイプなので脚をためて追い込む馬だろう。カテドラル、ケイデンスコール、ヴィッテルスバッハを押さえておきたい。