今年の5月病は深刻? 退職代行に殺到する「会社辞めたい」コールの衝撃中身
ブラック企業の対抗策として、急激な需要の高まりをみせている退職代行サービス。「仕事を辞めたいのに言い出せない人」に代わって、法の専門家である弁護士が会社に退職の意思を伝えてくれる、というのが趣旨だ。
その現状は、労働問題の水際とも言える。退職代行案件を多数請け負ってきた嵩原(たけはら)安三郎弁護士は語る。
「依頼者のメールはまさに労働者の悲鳴。長時間労働、パワハラやセクハラ、残業代の未払いなど様々な労働問題が浮き彫りになってきます」
特に今年のゴールデンウィークは史上類をみない10連休。そのぶん揺り戻しも大きいのだろう、相談がすでに殺到している実情がある。
「“連休まではせめて働こう”と思っていても、実際に長い休みが明けて仕事が始まることをイメージすると、“やっぱりムリだ”と心折れる。それで相談に来るケースが非常に多い。『勤務先に電話してほしい』という依頼は、連休が明ける5月7日が一番多いです」
依頼者が置かれている状況は十人十色。だが、相談者の8割は何らかの「パワハラ」に悩んでいるという。今回は嵩原氏がもっとも印象に残った事例をひとつ紹介しよう。
* * *
◆「ハンコの角度が違う」と女性社員を罵倒
相談者「金融機関に勤める32歳、女性です。1年前から契約社員として今の職場で働いているのですが、常に高圧的な態度を取る上司にもう限界です。無視、怒鳴るは当たり前。数日前には、請求書にハンコを押したときに『角度が違う! 他の社員に悪影響を与えている!』 と大勢の前で激怒されました」
嵩原 「目上の人に対してハンコも“お辞儀”していないのは失礼、とする慣習ですね」
相談者「そうやって叱られると緊張して萎縮して、またミスをしてしまう……悪循環です。また以前、子どもが急に熱を出して早退を願い出たら、露骨にイヤな顔をされました。『仕事をする気があるなら、子どもぐらい犠牲にしろ』と罵倒されました」
嵩原「そういったお母さんの声は、本当によく耳にします。子育てへの理解があまりにもなさすぎますね。しかも、自分も子育てで苦労したはずの女性社長にもこのような発言をする人がいます。なぜなんでしょうね」
◆勤務時間外にも及ぶ暴言の数々
相談者「上司のパワハラは勤務時間内だけじゃないんです。業務中に話せばいい内容の電話を、帰宅後や休日に、昼夜構わずしてくるんです。(電話に)出れなかったら当然キレられる。まったく気が休まりません」
嵩原「体調やメンタルへの異常はないですか?」
相談者 「朝起きると頭痛と吐き気が止まりません。先日は通勤時に過呼吸で倒れてしまいました。病院に行ったら『パニック障害の症状かもしれない』と言われました」
嵩原 「それはもはや労災です!このままですともっと大きな健康被害がでてしまいますよ!」
相談者「でも私、 契約社員として2年間の雇用契約を交わしているんです。それでもやめられますか?」
◆正社員と契約社員で異なる“退職のルール”
嵩原「確かに正社員と契約社員は退職のルールが異なります。正社員なら法的には会社に対して退職の申出はいつでもできます。しかし契約社員は、契約期間内に退職したいと申し出ることは原則として不可能です」
相談者「ああ、やっぱりダメなんですね……」
嵩原「でも、聞いてください。体調、精神的疾患などを理由とする、『どうしても業務を続けられないような不調』が起こった場合、契約期間内でも退職は可能です。これは民法第628条を見れば明らかなんです」
相談者「でも以前、その上司から『もし契約期間中に辞めたら、損害賠償で訴えるぞ!』とも脅されました。自信たっぷりに言ってきたので、それが怖くて」
◆「損害賠償で訴える」会社の脅し文句は正当か?
嵩原「私の元に相談に来る方の約半数が、会社からの損害賠償請求を心配してきます。でも、法律に従って会社を辞めれば、会社に対して損害賠償をする責任は発生しません。これは法律で決まっている事実です」
相談者「そうなんですね! ちょっと安心しました」
嵩原「万が一、損害賠償で訴えてきた場合でも、私のほうで対応します。退職代行の相談に乗るようになって気づいたのですが、『損害賠償リスク』を気にする方があまりに多すぎる。逆に言うと、企業が「損害賠償するぞ!」を脅し文句にしているのでしょうね。故意に会社に損害を与えた場合など一部の例外を除けば、会社が従業員を損害賠償で訴えてお金を巻き上げることはできません。
理不尽なパワハラで心身ともに限界を超えるまで我慢することはありません。心身に悪影響が出ているようですし、今の会社を辞めて生活を立て直してみることを薦めます」
* * *
このようなやりとりを経て依頼を受けた嵩原弁護士は、相談者の勤務先と交渉。話し合いの末、スムーズに退職が決まったという。
「雇用主も法律を理解していないことが多いんです。また、当事者同士で話し合うとヒートアップしがちなので、第三者を挟むことで落ち着いた話ができる。もちろん、企業側の言い分にも耳を傾けます。ただ話していくうちに『いたずらに長引かせても、双方骨が折れるだけ』と気づくことが多い。はじめは喧嘩腰だった交渉も終盤は和やかになるものですよ」(嵩原弁護士)
パワハラによる恐怖から自ら退職を切り出したくても、切り出せない。また逃げる気力すら絞り出せない。そんなときにプロによる退職代行サービスを利用するのは、決して甘えではない。社畜ではなく人として、生き延びるための戦略なのだ。
【フォーゲル綜合法律事務所】
嵩原安三郎氏。’70年沖縄県生まれ。京都大学卒業後、’99年に弁護士登録。情報商材や副業詐欺など悪徳商法案件を数多く手がけるスペシャリスト
取材・文/アケミン 構成/浜田盛太郎
嵩原「私の元に相談に来る方の約半数が、会社からの損害賠償請求を心配してきます。でも、法律に従って会社を辞めれば、会社に対して損害賠償をする責任は発生しません。これは法律で決まっている事実です」
相談者「そうなんですね! ちょっと安心しました」
嵩原「万が一、損害賠償で訴えてきた場合でも、私のほうで対応します。退職代行の相談に乗るようになって気づいたのですが、『損害賠償リスク』を気にする方があまりに多すぎる。逆に言うと、企業が「損害賠償するぞ!」を脅し文句にしているのでしょうね。故意に会社に損害を与えた場合など一部の例外を除けば、会社が従業員を損害賠償で訴えてお金を巻き上げることはできません。
理不尽なパワハラで心身ともに限界を超えるまで我慢することはありません。心身に悪影響が出ているようですし、今の会社を辞めて生活を立て直してみることを薦めます」
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このようなやりとりを経て依頼を受けた嵩原弁護士は、相談者の勤務先と交渉。話し合いの末、スムーズに退職が決まったという。
「雇用主も法律を理解していないことが多いんです。また、当事者同士で話し合うとヒートアップしがちなので、第三者を挟むことで落ち着いた話ができる。もちろん、企業側の言い分にも耳を傾けます。ただ話していくうちに『いたずらに長引かせても、双方骨が折れるだけ』と気づくことが多い。はじめは喧嘩腰だった交渉も終盤は和やかになるものですよ」(嵩原弁護士)
パワハラによる恐怖から自ら退職を切り出したくても、切り出せない。また逃げる気力すら絞り出せない。そんなときにプロによる退職代行サービスを利用するのは、決して甘えではない。社畜ではなく人として、生き延びるための戦略なのだ。
【フォーゲル綜合法律事務所】
嵩原安三郎氏。’70年沖縄県生まれ。京都大学卒業後、’99年に弁護士登録。情報商材や副業詐欺など悪徳商法案件を数多く手がけるスペシャリスト
取材・文/アケミン 構成/浜田盛太郎
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