あなたの部下が「報連相」しない本当の理由
何気ない言葉の使い方ひとつでも、間違えれば部下の信用をなくす原因になってしまいます(写真:mits/PIXTA)
「部下からの報連相(報告・連絡・相談)が思うように上がってこない」――。
講演や研修を通じて、たくさんのリーダーの方たちから筆者の元にさまざまな相談が来ます。その中でも圧倒的に多いのが冒頭の「報連相が上がってこない」というものです。
おそらく、リーダーの悩みの上位3位以内に入るのではないかと思います。実際、私も会社員時代、リーダーとして営業部隊を率いていたのですが、部下から思うように情報が上がってこないことにつねにイライラしていました。
部下に「報連相」を絶対に上げさせようと、高圧的に命じて、厳しく管理していました。また、部下が「報連相」を怠るたびに、激しく叱責していました。
「報連相」が上がってくる5つの方法
ところが、まったく効果が出ず揚げ句のはてに部下たちからそっぽを向かれる始末。また、このようなことが在籍した複数の会社で繰り返し発生し、降格人事を3回も食らうハメになりました。
3回目の降格人事ののち、再びリーダーに復帰した私は、とにかく「このままじゃいけない」と思い、「もし自分が部下の立場だったら」という視点から考え直すことにしました。そして、さまざまな試行錯誤をした結果、拙著『部下に9割任せる!』でも紹介している次の5つの方法にたどり着きました。
1. 「なぜ」を使わない
2. 解決策のヒント“だけ”を与える
3. 「デキる人」よりも「相談しやすい人」になる
4. 他人の責任にしない
5. 部下との小さな約束を守る
さっそく1つずつ見ていきましょう。
1. 「なぜ」を使わない
「なぜと聞くことは大切ではないか」と反論したくなった方もいらっしゃるかもしれません。確かに要因を考え、掘り下げていくことは必要です。トヨタやリクルートなどでは「なぜを5回繰り返す」といわれていますし、私も大切なことだと思います。
ただし、気をつけなければいけないのは、「なぜ」は自分に問いかけるときだけに使う言葉だということです。
例えば、計画と結果がかけ離れてしまったときにその要因を検証する、あるいは新規のアイデアを考えたりするといった場合です。このような自分への問いかけとして「なぜ」を使うことはいいのですが、部下に対して使うのはよくありません。
「なぜ、期限に間に合わなかったんだ?」
「なぜ、競合他社に受注を奪われてしまったんだ?」
「なぜ、見積もりを間違えたんだ?」
このように「なぜ」と言われると、言われた側は自分が責められていると感じてしまうのです。とくに、立場の弱い部下にとっては、上司の「なぜ」という言葉に強い圧迫感を感じます。
「なぜ」を「何」に変える
極端な話、部下に対して「なぜ」という言葉を使うリーダーが世の中から減るだけで、職場でメンタル不全に陥る人が減ると言っても過言ではないと思います。
ただ、ここで誤解していただきたくないのは、「Why(原因・理由)」を分析することは悪いことではないということです。「なぜ」という言葉がよくないだけなのです。
そこで「なぜ」を「何」に変えるようにしましょう。先ほどの3つの例文を「なぜ」から「何」に変えてみます。
「何が原因で、期限に間に合わなかったのだろう?」
「競合他社に奪われてしまった要因は何だろう?」
「見積もりを間違えた原因は何かな?」
先ほどに比べると、聞かれたほうも気持ちが楽になるのではないでしょうか。「なぜ」が「責められている」と感じさせるのに対して、「何」は人ではなく起きた出来事や事象に焦点を当てています。そのため、聞かれた側は第三者の視点に立てることができ、解決策を考える余裕が生まれます。
「失敗した部下に厳しくしなくてどうするのだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、大切なのは脅威を感じさせることではなく、部下の今後の行動改善につなげることです。そのために、失敗を自分で冷静に考えさせるのです。
2. 解決策のヒント“だけ”を与える
迅速に対応しなければならないクレームなどの場合は、解決策をアドバイスするのはかまわないと思います。しかし、そうした緊急の場合以外は、解決策そのものではなく、ヒントを与えたほうが部下は成長します。
とくに、優秀な部下ほど、上司から解決策を押し付けられて「そのままやれ」と言われることを嫌いますし、そうでない部下であっても、ある程度は自分で考え、自由にやれる余地を欲しがるでしょう。
ヒントを与える場合は、それを強要しないようにすることと、多少時間がかかっても部下が自分で考えて解決策を見つけ出すまで見守ることが大切です。そうすることで、部下の成長が加速します。
また、男性は「解決脳」が強いのに対し、女性は「共感脳」が強い傾向にあるといわれるため、女性の部下に対して「解決してやろう」という態度で臨むと嫌がられることがあるので注意が必要です。
3. 「デキる人」よりも「相談しやすい人」になる
リーダーが、自分を“デキるビジネスマン”に見せようとすることは逆効果です。かつて私の知人で「オレって何て仕事がデキるんだろう。オレが10人いたら、うちの会社も業界トップは間違いないんだけどなあ」などと、飲んだ席で自慢話を語るような人がいました。
この人はプレイヤーとしては優秀だったのですが、部下がついてこず、この人のチームは離職率が非常に高かったのです。そのうち本人も降格させられて、結局、退職してしまいました。このようなタイプの上司には、部下は相談をしづらいものです。
「こんなことを相談して叱られないかな」
「こんなことを報告したら評価を下げられないかな」
このように不安を感じてしまいます。リーダーは自分の能力の高さをアピールするよりも、むしろ自分の欠点や過去の失敗などを開示したほうがいいでしょう。
自分の欠点や失敗を開示する
例えば、「昔こんな大きいミスをしてしまったんだけど、上司に早めに相談したおかげでことなきを得た」みたいな話です。ちなみに、私は会社員時代には、次のようなことを部下たちに開示していました。
・自分で書いたメモの字が下手すぎて読めなかったことがある
・かつては部下に怒ってばかりの上司だった
・かつては部下にナメられないように、鏡の前で怖い表情を作る練習をしていた
・お客さまを間違えて呼び捨てにしてしまったことがある
このようにリーダーが積極的に自分の弱みや失敗談を開示することで、部下は「この人にもそんなことがあったんだ」と感じてくれて、相談しやすい上司だと思ってくれるのです。
4. 他人の責任にしない
例えば、部下から「このお客さまには特別の対応をしたい」などという相談があった場合、「ルールだから、特別扱いはできない」というしゃくし定規な言い方をするのではなく、「できない理由」をきちんと説明するようにしましょう。
あるいは、部下が大きな案件を提案してきた場合は、上司に掛け合い、通してくれるように交渉する。仮に案件が通らなかったら、きちんと自分の言葉で「できない理由」を伝えるようにする。
このときに、「部長がダメだってさ」とか、「ウチの社長ももう少し頭を柔らかくしてほしいよな」などと言うのはナンセンスです。部下は上司からそのような言葉を聞きたいとは思っていません。
自分の力不足で提案を通せなかったことを素直に謝るべきでしょう。他人の責任にしているようでは、部下の気持ちは離れてしまいます。また、「このリーダーに提案しても仕方ないな」などと思われてしまいます。
5. 部下との小さな約束を守る
私は会社員だった頃、部下との約束をよく反故にしていました。例えば、忙しいときに部下から受けたちょっとした相談、あるいは空いているときに回答してほしいと言われた相談への回答を忘れることがしょっしゅうありました。
リーダーにとっては小さな相談でも、部下にとっては大切な相談です。そもそも、どうでもいいことなら、わざわざ部下も言ってこないはずです。とくに「お手すきの際に」「手が空いたときでいいので」「急いでませんので」などと言われた期限のない相談はついつい後回しにしたり、下手をすると忘れてしまうこともあります。
仮にあなたが相談した部下の立場だったら、回答してくれない上司に不満を持つでしょう。信用は小さなことの積み重ねです。「忙しいから」といって、部下の話を適当に聞き流してはいけません。
原点に立ち返る
ですから、部下の話の内容や回答期限などは、きちんとメモをとるようにしましょう。
まるで新入社員に対するアドバイスみたいで恐縮ですが、忙しいリーダーだからこそ原点に立ち返るようにしましょう。
「自分にとっては小さなどうでもいいこと=相手にとってもどうでもいいこと」ではありません。部下は気をつかって「お手すきの際に」と言ってくれているのです。ですから、たとえ「いつでもいい」と言われても、いつまでに回答するかの期限を自分で設けるようにしましょう。
このように、チームの心理的安全性を確保しつつ、信頼関係を醸成することで、部下が「報連相」を上げてくるようになるのはもちろんのこと、チーム全体の生産性もアップするのです。
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