副業兼業で収入を増やしたいが(写真はイメージ)
副業・兼業が「働き方改革」につながるとして、政府が盛んに推進しているが、実際に社員の副業兼業を認めている企業はどのくらいあるのだろうか。
容認・推進している企業は4分の1で、7割以上が禁止していることが、リクルートキャリアが2018年10月12日に発表した調査で明らかになった。政府が笛を吹けど企業は踊らず......なぜ反対しているのだろうか。

副業・兼業先で働きすぎて健康を害した場合の責任は?

副業・兼業については、長く反対してきた日本経済団体連合会が2017年12月、「個々の企業の判断に任せる」と、事実上容認に方針転換。それを受けて厚生労働省が2018年1月、「副業兼業の促進に関するガイドライン」を発表した。
その中で、副業・兼業のメリットについて、まず労働者には次の4点をあげている。
(1)収入増。(2)離職しなくても別の仕事でスキルやキャリアを積むことができる。(3)自分がやりたいことに挑戦して、自己実現ができる。(4)将来の起業、転職の準備ができる。
また、企業側にも次の4つのメリットがあると強調している。
(1)労働者が社内で得られない知識・スキルを得られる。(2)労働者の自律性・自主性が高まる。(3)優秀な人材の流出を防止でき、競争力が高まる。(4)労働者が社外から新たな知識・情報・人脈を入れることで、事業の拡大につながる。
つまり、副業・兼業の推進は、優秀な人材を確保・育成して労働市場を流動化させ、社内創業を活発化させてイノベーションを促進するため、日本経済の生産性を高めるというわけだ。
ところが、リクルートキャリアの調査では、副業・兼業を推進している企業はわずか3.6%で、容認している企業(25.2%)と合わせて28.8%に留まった。就業規則で禁じている企業が71.2%に達した。
禁じている企業にその理由(複数回答)を聞くと、最も多いのが「社員の長時間労働・過重労働を助長する」(44.8%)で、次に「労働時間の管理・把握が困難」(37.9%)というもの。
また、「労働災害の場合の本業との区別が困難」(22.8%)も5位だった。これらの意見はつまり、現実問題として、もし社員が副業に精を出し過ぎて健康を害した場合、その責任を自社と副業先の会社との間で、どのような割合でとることになるのかという懸念だ。

わが社の情報漏えいのリスクが心配

3位以下は「情報漏えいのリスクがある」(34.8%)、「(ライバル会社と)競業となるリスクがある・利益相反につながる」(33.0%)などが上がっている。いずれも、ガバナンス(企業統治)面での理由が目立つ。また、厚労省ガイドラインのメリットとは逆に、「人手不足や人材の流出につながる」(20.2%)という心配もあった。
じつは、こうした企業側の「懸念」も厚労省のガイドラインでは想定している。「企業の対応」として、「必要な就業規則の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である」と、さまざまな法令や判例などを列挙して細かな対策を明記している。
しかし、企業側が最も心配している「副業・兼業先で働きすぎた場合の安全対策」については、「現時点では明確な司法判断は示されていないが、使用者は労働契約法上の安全配慮義務がある」と、あいまいにしか示していない。むしろ「労働者が自ら労働時間や健康状態を管理する必要がある」と、労働者側に自己責任を求めている。これでは、企業側が労働災害になった場合の対応を不安視するのも無理はないかもしれない。
また、調査では副業・兼業を推進・容認している企業に、その理由を聞くと、最も多いのが「特に禁止する理由がない」(42.5%)という消極的な反応だ。続いて「社員の収入増」(38.8%)、「人材育成、本人のスキル向上になる」(24.2%)、「定着率が向上する」(22.3%)、「人手不足解消や多様な人材の活躍につながる」(22.3%)、「イノベーションの創出につながる」(17.7%)などと、厚労省のガイドラインにそうような回答が多かった。
ただ、副業・兼業を認める場合でも、就業規則に「本業に支障が出ないこと」(79.1%)、「会社の社会的信用を傷つけないこと」(56.6%)、「営業秘密を開示しないこと」(53.2%)などの条件を課しているケースが多い。
また、兼業・副業を認めていない企業に、「将来認めることを検討しているかどうか」を聞くと、「検討したい」「検討中」が合わせて16.7%で、「検討していない」「わからない」が合わせて83.3%と8割以上に達した。政府が音頭をとるほどには兼業・副業を認める動きはまだ鈍そうだ。
一方、副業・兼業先として、他社でメインに働いている人を受け入れている企業も全体の13.1%だった。今後、受け入れるかどうかは、「受け入れておらず、検討する予定もない」(58.0%)とする受け入れ拒否派が最も多く、6割近くに達した。多少前向きの「受け入れていないが、将来検討したい・検討中」が約4分の1の27.5%だった。
調査は2018年9月14日~19日にかけて、インターネット上で実施。人事部・その他管理職の正社員2271人から意見を聞いた。(福田和郎)

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