亡くなったホームレスの小屋には花が供えられていた(写真)。病気などで亡くなることが少なくない、ホームレスの健康を悪用する貧困ビジネスの手口とは(筆者撮影)
ホームレス。いわゆる路上生活をしている人たちを指す言葉だ。貧富の格差が広がる先進国において、最貧困層と言ってもいい。厚生労働省の調査によると日本のホームレスは年々減少傾向にあるものの、2018年1月時点で4977人(うち女性は177人)もいる。そんなホームレスたちがなぜ路上生活をするようになったのか。その胸の内とは何か。ホームレスを長年取材してきた筆者がルポでその実態に迫る連載の第9回。

健康を保つのが難しいホームレス

野宿生活はとても過酷だ。健康を保ち続けるのはとても難しい。また、ホームレスの中には高齢の人も多い。健康上、問題を抱えている人も多い。
そもそもケガや病気が原因でホームレスになった人も少なくなく、前職に建築関係や土木関係の仕事をしていた人がいる。
「重いものを運ぶ仕事で腰を痛めてしまった」
「鳶職として作業中、高所から落下して足をケガしてしまった」
というような話をよく聞く。
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ケガや病気が原因で日雇い労働に行けなくなり、そのまま収入がなくなってしまった。治療費で貯金も消えてしまい、結果的に野宿生活を余儀なくされてしまうというケースだ。
夏場に荒川の河川敷を歩いていると、上半身裸になって体を洗っている男性がいた。男性の上半身にはガッツリ入れ墨があった。またお腹には縦に15センチほどの傷があった。
話を聞くと、まだ野宿生活を始めて間がないという。
ホームレスになる前は、個人経営のリサイクル店を運営していたそうだ。捨ててあるテレビ、洗濯機、冷蔵庫などを拾ってきて直して販売していた。商売が順調なときは、テレビや雑誌の取材が来たこともあったという。
「3年前にがんになって入院したんだけど、この間また再発したんだ。ある日すごい気持ち悪くなって、ウンコも真っ黒になっちゃって、慌てて病院に行ってカメラを飲んだら胃がんだった。そのまますぐに手術をして胃をとっちゃった」
腹の傷はそのときのものだという。
手術や入院にお金もかかり、その間仕事もできなかったので、結局お店を手放すことになってしまった。
現在はホームレスをしながら単発の清掃の仕事などで収入を得ている。ただ、食べるのが精一杯で術後の通院はできていないという。
がんは治ったが併発している病があるらしく、苦しい日々だと語っていた。
ホームレスの中には、厳しい野宿生活を続けるうちに病気になってしまう人もいる。

病気になっても病院に行けない

ホームレスの平均年齢は高い。平均60歳以上であり、70代、80代も珍しくない。高齢者にとって、夏の暑さ、冬の寒さは体にこたえる。いつでもきちんと食事がとれるわけではないので、栄養失調にもなりがちだ。
そしてほとんどの人は健康保険を持っていない。廃品回収などの収入では、食事代を確保するだけで精いっぱいである。病院に行くお金はとても確保できない。市販の薬を買うのすら難しい。病気になっても、我慢してやりすごして、そのうちに悪化していく場合が多い。

亡くなったホームレスのために花が手向けられていた(筆者撮影)
しばらく見ないのでテントの中をのぞくと亡くなっていた、というケースもよく聞く。多摩川などのテント村を歩いていると住人が亡くなってしまい、花や線香がお供えしてある小屋も目につく。
かつて上野のホームレス村を取材していたとき、定期的に一時立ち退きがあった。いったんテントを別の場所に移し、一定期間後に戻ってくることを強要された。警察や区から予告があるため、みんな朝からテントを畳んで移動する。しかし、動かないテントがいくつかあった。テントの中をのぞくと、すでに亡くなっていることが多かった。
不摂生がたたり病気になる場合もある。
かつてホームレスの喫煙率は非常に高かった。そのため、ホームレスの取材に行くときは、タバコを持っていってお礼に渡すことが多かった。
ただ、近年はタバコがずいぶん値上がりしたので、ホームレスには購入のハードルが上がったようだ。また、全体の喫煙者数が減り、喫煙のマナーも上がったので、ポイ捨てされた吸い殻もあまりなくなった。なかなか定期的にタバコを吸うのが難しくなり、そのままやめてしまったという人が増えた。タバコを渡そうとしても
「タバコはやめた」
と断られることが多くなったので、僕は最近、ホームレスを取材する際にはタバコは持ち歩いていない。
お酒をたくさん飲むホームレスも多い。
そもそも酒を飲みすぎて会社をクビになったり、日雇労働の仕事を失ったりしたのが原因でホームレスになった人はかなりたくさんいる。そういう人は、ホームレスになった後も、手に入れたお金は全部酒にして飲んでしまう場合が多い。
飲む酒は、値段の割にアルコール度数が高い焼酎のカップ酒が選ばれやすい。ふたをあけるとストレートでググググと一気に飲む。そんな飲み方が体にいいわけがない。
結果的に、肝臓や腎臓など内蔵を傷める。土気色の顔をしているのに、さらに酒をあおりそのまま路上で寝てしまう。
酔っ払ってケンカをして、それで大ケガを負う場合もある。定期的にお話をうかがっていた大阪・西成地区のあるホームレスは、酔っ払っているときにケンカをしかけたり、酔って寝ているときに一方的に暴力を振るわれたりして、いつもケガをしていた。
ある日その男性に会うと、アゴを蹴られ、下の前歯が何本も折れていた。普段は病院には行かないが、今回ばかりは足を運んだそうだ。アゴには縫い跡が生々しく残っていた。しかし定期的に病院に通う金はない。痛くても我慢するしかない。
「しかたないからアルコール消毒するんだ。ついでに麻酔にもなるしな」
と言って笑い、またお酒を飲んでいた。数時間後にはベロベロになって公園で寝てしまった。このままでは暴力を受けたり、金を盗られてしまったりする可能性が高いのはわかるが、ベロベロに酔ってしまうと周りはもうどうしようもない。

強度のアルコール依存症や違法ドラッグを使用する人も

もっとアルコール依存症がひどくなると、会話をするのも困難になる。被害妄想が強くなり、怒鳴り散らしたり、暴力を振るったりすることもある。
僕も取材中にしたたかに酒に酔った人に絡まれたことが何度もある。包丁を突きつけられたことも2度あった。
彼らは入院して治療しなければならないレベルの、アルコール依存症だろう。
また数は少ないが覚せい剤など、違法ドラッグを使用するホームレスもいた。もちろん心身ともに悪影響がある。
アルコールやドラッグとは関係なく、精神病を患っていると思われる人も少なくない。
話をうかがうと、
「近くに住む(別の)ホームレスに命を狙われている。『殺す!!』『殺す!!』と毎晩小屋の外から言われるんだ。こっちから殺さないと殺されるよ」
と早口で言っていた。少し聞き込みをしたが、実際には彼に対し「殺す」と言っている人はいなかった。非常に強い被害妄想を持っているのだ。
被害妄想を持っているだけならいいが、妄想が行き過ぎて本当に暴力を振るってしまうこともあるようだ。誰が悪いわけではないが、被害者は出る。
人前でズボンを脱ぐ、路上で大小便をする、など奇行が目立つ人もいた。寝床の周りをゴミだらけにしたりするのも、近くに住んでいる人にとっては大変迷惑だ。
かつて僕が住んでいた家のそばに、道行く女性を大声で怒鳴りつけたり、子どもに触ったり、男性器を露出させたりするホームレスがいた。ある日、ホームレスの行動に腹を立てた男性が彼を取り押さえていた。
取り押さえた男性の目にも、道行く人たちの目にも、ホームレスの男性が、完全に悪いように見えたと思う。
たしかによくないことをしているかもしれないが、ただ病気ならば仕方がない部分もある。彼に必要なのは、暴力による成敗ではなく治療だろう。
精神を病んだホームレスは、ホームレスの中でも目立ってしまう。
多くのホームレスは、あまり目立たないように周りに迷惑をかけず生活しているが、そのように目立つホームレスがいると
「ホームレス=困った人」
「ホームレス=悪い人」
というイメージが定着してしまう。こういうイメージは、お互いにとってよくない結果になる場合が多い。ホームレスに対する暴力も、そもそもはそのような誤解から始まっている場合がある。
あまりに精神状態がひどいホームレスは、積極的に保護をして治療をしたほうがいいだろう。

治療費を払ってもらえない病院側のジレンマ

病気が悪化したり、暑さ寒さに倒れてしまったりしたところを、救急車で搬送されることもある。自分で救急車を呼ぶこともあるし、知り合いや通行人が電話をかけることもある。
病院によってはホームレスの受け入れを拒むところがある。とくに何度も入退院を繰り返しているホームレスは、病院のブラックリストに載っている場合があり、なかなか病院に入ることができないという。
病院で治療を受けたり、入院したりすると、当然費用がかかるが、多くのホームレスは支払うことができない。病院サイドも最悪の場合はお金をとるのを諦めるしかない。ただお互いのダメージを減らすために、治療を最低限に絞ったり、入院期間を短くしたりするケースもある。それが問題視されることがあるそうだ。新宿の総合病院で務める医師は、
「病院としてはよかれと思ってやっているのですが、人権団体に差別だと抗議されたこともあります。しかし、きちんと治療をして、高額の治療費を請求しても怒られると思うんですよね。とても難しい問題ですね」