お金持ちになれる人は損してトクをとる?
金持ちになれる人とは、目先の利益を捨てられる人でもある
レストランで何度も行きたくなるのは、どういう店でしょうか。味が良いのは当然ですが、特にそこそこの値段の店であれば、やはり「誰かと一緒に酒食を共にする時間と空間が楽しい店」ということになるはずです。味が良い・高級感があるとはいっても、店員の態度が悪いとか、サービスが気が利かないという店に、特別な人を連れて行こうとは思わないでしょう。その積み重ねが結局は、繁盛する店と閉店に追い込まれる店を分かつ原因の一つとも言えます。チェーン店は顧客に均質なサービスを提供することがひとつの価値となりますが、独立系店の場合は、差別をしないことがむしろ「気が利かない」「特徴がない」という評価になりかねません。たとえば3人で行ったとき、「こちらの料理はわりと量が多いので、3人でしたら1つで十分ですよ。もし足りなければあとで追加していただいてもいいですし」とか、「別々にご注文いただいてシェアするのもお勧めですよ」とアドバイスしてくれたとしたら? こう言われれば、顧客の方も「自分たちを大事に扱ってくれている」と気分が良くなり、次にまた誰かを誘いたいなと感じる。
私の経験ですが、あるイタリアンレストランに行ったときのことです。フルボトルのワインと値段の高いコース料理を注文したあと、私が店を出るときに、フロア長、料理長がそろって店の外まで見送りに来たことがあります。
これはVIP扱いされて最後まで気分が良い反面、自分にとってもある種のプレッシャーになります。つまり、「こんなに良くしてもらったら、次も来ないわけにはいかないな」「わざわざ見送りされて頭まで下げられれば、次に来たときも安いワインを頼むわけにはいかないな」となるのです。かくして私は、その後も何回か、大切な人を招待する場として利用させてもらいました。外まで見送っても、わずか数歩、数十秒。この差が富をもたらしてくれることに気づくかどうか。いい意味で顧客を差別するのは、「特別感」を演出し、リピーターを獲得することにつながるのではないでしょうか。
また、以前、あるファーストフードチェーンで、感動した対応がありました。テイクアウトで買って帰ったら、ポテトが入っていなかったので、買った店に電話をしました。すると電話の向こうからは、「本当ですか?」なんて疑うことなく、すかさず「申し訳ございませんでした」。そして「レシートがない」と言っても、「大丈夫です」と。その後、わざわざ自宅まで届けてくれたのです(もちろん、ウチがその店から歩いて5、6分だったから、という理由もあるとは思いますが)。さらにすごいのは、届けてくれたとき、次回から使える無料券をくれたという点です。
こうなれば、入れ忘れに対して怒ったり不満に感じたりするどころか、「そこまでしてもらうとかえって申し訳ない」という気持ちになります。そして、次は必ずその無料券を持ってその店に行くし、同じファーストフードを買うなら、その店に行こう、となります。その店にとっては、1枚の無料券で、私というリピーターを一人確保できたことになり、長期的にはもっと大きなメリットになると言えるでしょう。ここで学ぶべきは、店の売上を上げるには、どんな対応が重要かを考えて行動している、という点です。一時的な損や手間があったとしても、あるいは利益を逃したとしても、次につながるかどうか。
たとえば、あるリフォーム業者。
「あ~、ここも傷んじゃってますね。交換しないとダメですよ」
顧客が詳しくないのをいいことに、修理しなくてよいところまであげてボッタクろうとする。一時的には稼げるかもしれませんが、客も遅かれ早かれ、「ここの修理は要らなかったんじゃないか」と気づくでしょう。最近ではネットに書き込まれ、あっという間に悪いウワサが拡散します。これでは、稼げないどころか、ろくろく商売を続けられなくなるリスクがあります。
反対に、こんな業者もいます。
「ここも古くなっていますが、まだ直さなくて大丈夫ですね。もし不具合が出ましたら、ご連絡ください」
修理の必要がなければ、見積もりだけであっさりと帰る。その際に、名刺に携帯電話番号を書き込んで置いていき、1週間後と1カ月後に、「あれから何か、不具合はありませんか」とご機嫌伺いの電話を入れる。リフォーム屋なのに「修理は必要ない」と言われたら、「本当に顧客のためを思ってくれている」という良心を感じるでしょう。顧客には「いい業者さんね」と映り、次にまたリフォームをお願いするときには、その業者にしようと思うでしょう。そして周囲の人に「あの業者は親切でいい」と、ただで触れ回ってくれるかもしれません。
わざわざ出向いて、見積もりだけして収入にならないのは動き損です。でも最終的には利益を取れる、という発想ができるかどうか。リピーターを獲得できる稼げる人とは、目先の利益や手間を捨てても、「何が重要か」にフォーカスするようです。
(文:午堂 登紀雄(マネーガイド))
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