老親の「本当の預金」を知りたいなら、休眠預金と家計簿の話をしよう お金の実状は外から見てもわからない
老親ときちんと「お金の話」はできていますか?
最近、40~50代の方から「年金生活の親と“お金の話”をしたいけれど、何をきっかけにするといいでしょうか」と質問を受けることが増えています。
〔photo〕iStock
どんなことを知りたいのかと尋ねてみるのですが、返ってくる答えは人それぞれ。比較的多いのは「お金のことで困っていることがあるなら相談に乗りたい」と「相続のことをどう考えているのか聞いてみたい」の2点です。
お金の実状は、外から見るだけではまったくわからないものです。
それは家族であっても同様。「余裕がありそうに見えたけど、実際にはなかった」というケースもあれば、反対に「うちの親はお金がないと思っていたら、亡くなったあとに貯め込んでいたことが明らかになった」というケースもあります。
裕福だと思っていた父が「葬式代も残してなかった」
数年前のことですが、70代後半で亡くなった父親の葬儀を済ませた知人が「葬式代の貯金も残ってなくて驚いた」と話してくれたことがありました。葬式代は、子どもたちで出し合うことになったと言います。
知人のお父さんは、70歳過ぎまで子会社で週に3~4日会社員として働き、厚生年金には70歳まで加入していました。サラリーマンとしては恵まれていた人ですね。
70歳過ぎまで給与収入があり、長く厚生年金保険に加入していた分、年金額はそこそこ多いはず。だから子どもたちは、ある程度の貯蓄が残っているものと思っていたのですが、実際には違っていたわけですから、驚いて当然です。
知人は、親の貯蓄が底をついた理由を考えてみたそうです。思い返してみると気前よくお金を使っていたことに気づきました。
月に1回、子世帯が実家に帰るとごちそうが用意され、外食すると支払いはすべて親持ち。そういう親子関係では、漠然と「うちの親はお金に困っていない」と考えても仕方ないですね。
確かに知人の両親は「困っていなかった」でしょう。リタイア後も膨らんだ支出のまま生活ができていたわけですから、幸せだったはずです。しかし、お父さんが亡くなったあとのお母さんの生活は一変します。
不安になった老母が突然、「仕送りをして欲しい」と
お父さんの死亡時に貯蓄がちょうどゼロになったわけですから、お母さんの老後資金はゼロです。今後の収入は、遺族厚生年金と自分のわずかな基礎年金だけですから、お父さんと2人で暮らしていたときの収入に比べると激減します。
お母さんは、ひとりになったときの年金額を見て「これでは暮らしていけないから、毎月仕送りをして欲しい」と言ったそうです。50歳前後の子どもたちは「うちの親はお金がある」と思っていたわけですから、想定外の展開に戸惑いを隠せません。
きっかけ作りに「休眠預金」の話題が最適なワケ
先の知人は、親の財政状態を知っていれば、大盤振る舞いの食事も少しずつダウンサイズする提案もできたのに・・・と悔やんでいました。あとで困ったことにならないように、また、親の心配事を取り除いてあげるためにも、親とお金の話をする機会は持った方がいいです。
年末年始のお休みに帰省するなら、いい機会。表情を見ながら話をするといいですね。話のきっかけとして、「今、困っていることある?」と聞いてみるのもいいのですが、今の時期なら「休眠預金」の話題が最適です。
〔photo〕iStock
「休眠預金」とは、長い間、入出金などの動きのない銀行等の口座のことで、これまで休眠扱いになる年数は、5年ないし10年など銀行により異なっていました。
それが2018年1月に「休眠預金等活用法」という法律が施行され、「2009年1月1日から10年以上取引がされていない預金」と統一されることになります。つまり来年、2019年1月から法律施行後の”新”休眠預金が発生し始めるのです。
この法律は、休眠預金として放置されているお金を社会のために有効活用しようという観点からできました。これまでは各金融機関で管理されていましたが、“新”休眠預金は「預金保険機構」に移管され、そこから民間公益活動に活用されることになります。
「10年以上放置した預金は没収されてしまうのか?」と不安を覚えるかもしれませんが、仮に休眠預金になったとしても、その後引き出すことは可能ですからご安心ください。
ただし、“新”休眠預金になるまでのプロセスはやや複雑なので、説明します。
まず、最終取引(入出金など)から10年を経過した預金のうち、残高が1万円以上なら、銀行から届け出住所に「休眠預金に該当する(しそうな)口座があります」と通知状が郵送されます。
通知状が届くと休眠預金にはなりませんが、転居先不明で届かない場合は休眠預金になります。
残高1万円未満だと、通知状は発送されず休眠預金となります(下記図、参照)。
対象となる預金は、普通預金、定期預金、貯金、定期積金など。財形貯蓄や外貨預金は対象外です。
2019年1月から休眠預金の「通知」が始まる
今年の夏に自宅の机を整理していたら、古い通帳がでてきました。通帳の残高は、1999年1月5日付けで5701円。19年も経っているので、十分「休眠」状態です。
ATMで引き出しを試みたところ、「窓口にご相談ください」とエラー表示がでて、引き出しどころか、残高照会もできませんでした。
そこで解約手続きのために支店に出向いたのですが、待つこと30分。その銀行では休眠状態になっていると端末上では履歴が出てこないため、口座開設した札幌の支店に照会をしなくてはならず、そのため時間がかかったようです。
現状の「各銀行管理の休眠預金」を解約するのに30分程度の時間を要したわけですから、2019年1月以降“新”休眠預金として預金保険機構に移管されると、その場ですぐに解約手続きができないことが十分予想されます。
放置している口座があるなら、休眠預金等活用法が施行されることをきっかけに整理に取りかかることをオススメします。
その際は、支店に出向く前にまず口座を開いた支店に「解約手続きをしたい」と電話をしておくと、当日の手続きが多少スムーズになると思います。預金保険機構に移管されたとしても、窓口は口座のある金融機関です。
放置している口座があると、2019年1月以降に銀行から「通知」がきます。高齢になると、郵便で送られてくる「書類」を読み解くのが徐々におっくうになるものです。
今回の帰省の際に「今度、休眠預金の法律ができるんだって」と、あらかじめ仕組みを話しておくと、両親は通知がきたときに「あぁ、この前聞いたあれのことだ」とすんなり処理ができるはずです。休眠預金ネタ、ぜひご活用ください。
家計簿を渡して、きっかけ作りにするのも一手
もうひとつ、お金の話をするきっかけ作りに適したものがあります。
宣伝になり恐縮ですが、私は2010年から年金生活者専用の家計簿『かんたん年金家計ノート』を毎年、執筆・監修しています。
最初に執筆依頼があったとき、どうしたら高齢者に使いやすく作りで、必要なお金の情報を提供できるのか構成にかなり頭を絞りました。当時は、他に年金生活向けの家計簿がなかったので、参考になるものはなく、編集者と1年近くかけてコンテンツを考えました。
たとえば、家計簿には必ずある「毎月の予算のページ」。公的年金は偶数月に2ヶ月分振り込まれます。年金支給月にお金を使いすぎると、翌月は足りなくなってしまいます。また、旅行などの大きな出費は年金収入ではなく、老後資金の貯蓄から取り崩すことになります。こうした点が、現役時代のお金の流れと異なる点です。
ですから予算のページは、支出のカテゴリー別に「今月の年金から出すのか」「先月の年金の残りから出すのか」「老後資金の貯蓄から出すのか」といった「資金繰り」の考え方を表を使って取り入れています。これにより老後資金の大幅な取り崩しを防ぐことができます。
家計簿の使い方は「自由」なんです
巻頭のマネー特集は、高齢者が気になるテーマを毎年取り上げて書いています。巻末では健康保険制度についてわかりやすく解説しており、病院通いの多い高齢読者にご好評をいただいています。
おかげさまで今年は10年目、最新刊として2019年版が発売されました。
毎年この時期に独身時代にお世話になった友人の両親などにプレゼントすると喜ばれています。日々の記録をしっかりつけるために使っている人もいれば、記録はせずにお金の特集ページを参考にしてくれる人もいるようです。
70代後半の実家の母は、マネー特集の記事を読み、家計簿ページは大きな出費があるときにだけ、備忘録として記入していると言っていました。特に冠婚葬祭の出費をメモするのに役立っているとのこと。
使い方は自由ですし、540円と手頃な価格なので帰省時に「お金の話」をするきっかけ作りとして、両親にプレゼントしてみてはどうでしょうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿