今のうちに非課税贈与をしておこうと考えている高齢者・中高年の方もいるでしょう。でも、ちょっと待って! その非課税贈与が老後破産を招くかもしれません

非課税で生前贈与をできる制度が3種類ある

個人の金融資産の大半を握っている60代以降の高齢者・中高年から、蓄えは少ないけれどお金を使う(使いたい)20代~40代にお金を回すよう、国は次の3種類の非課税贈与制度を運用しています。

▼住宅取得等資金の贈与税の非課税住宅取得等資金贈与は、2021年12月31日まで延長されました。

現在の非課税限度額は次の通りです(省エネ住宅など「質の高い住宅」と認められた場合の金額)。

・2020年3月31日まで:1200万円
・2020年4月1日~2021年3月31日:1000万円
・2021年4月1日~2021年12月31日:800万円

消費税が10%になったら限度額が上がります(省エネ住宅など「質の高い住宅」と認められた場合の金額)。

・2019年4月1日~2020年3月31日:3000万円
・2020年4月1日~2021年3月31日:1500万円
・2021年4月1日~2021年12月31日:1200万円

▼教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置教育資金贈与は、29歳までの子・孫1人あたり1500万円までは非課税になる制度で、2021年3月31日まで適用されます。子・孫の所得が1000万円以下に限られます。入学金や授業料の他、通学のための定期代や留学の渡航費なども対象になっています。

▼結婚・出産・子育てにかかるお金の非課税制度通称、結婚・子育て資金贈与。20歳~49歳までの子・孫1人あたり1000万円まで(結婚費用は300万円まで)の贈与には税金がかかりません。適用期間は2019年3月31日までです。非課税になる対象は、結婚式・披露宴の費用、新居の住居費や引っ越し代、不妊治療費、出産費用、産後ケア費用、子どもの医療費、保育料などです。

2015年から相続税の基礎控除が縮小されて実質増税になったことだし、非課税制度があるうちに子・孫にお金をあげようと考えている方もいるでしょう。でも、待って。贈与する前に、将来のことをよく考えてからにしましょう。

「予想外の長生き」で老後資金が枯渇するおそれも

筆者が非課税贈与を「ちょっと待って!」という最大の理由は、「今の高齢者は本人の予想以上に長生きする」からです。それは、データ(平成29年簡易生命表)を見ると、長生きの傾向が見てとれると思います。

ある特定の年齢の男女が、あと何年生きるかを示すデータを「平均余命」といいます。60歳以降10歳ごとの平均余命は次の通りです。

・60歳 女性28.97年 男性23.72年
・70歳 女性20.03年 男性15.73年
・80歳 女性11.84年 男性8.95年
・90歳 女性5.61年  男性4.25年

平均余命は、毎年、少しずつ延びています。ということは、今の高齢者が予想を超えて長生きしている以上に、中高年は長生きするかもしれないということです。

長生きすればするほど、老後資金はたくさん必要になります。公的年金で不足する生活費はもちろんですが、医療費や介護費用もかなりかかると思っていたほうがいいでしょう。医学の進歩によって技術料はどんどん上がっていくでしょうし、要介護の期間が長くなれば介護費用もかさんできます。

年金不安に負担増…老後資金は余裕を持っておきたい

今後、公的年金の給付額は減る一方で、健康保険料や介護保険料、医療費や介護費用の自己負担、消費税などの負担は増すばかりなことが想像されます。ですから、老後資金は多いに越したことはないのです。

こんな状況では、非課税贈与は慎重に、といわざるを得ません。つまり、非課税贈与は老後破綻を助長しかねないということ。老後資金が枯渇しても、子・孫がお金を出して面倒をみてくれればいいですが、もらい慣れている子・孫に、それを期待するのは難しいでしょう。

老後も、最後の最後まで経済的に自立する――これが今の高齢者と中高年に求められることです。そのためにも、老後資金のプランはかなりの余裕を持たせて立てた上で、老後破綻の心配はないと判断してから、贈与するようにしましょう。
(文:小川 千尋(マネーガイド))