『働きアリからの脱出 個人で始める働き方改革』(越川慎司/集英社)
 各企業で働き方改革が始まると同時に、「ジタハラ(時短ハラスメント)」が問題になっている。会社や上司は「早く帰れ」「○○時には消灯」とプレッシャーをかけてくるが、達成目標や業務量が変わるわけではなく、「余計にキツくなった」と感じている会社員は少なくないだろう。本書『働きアリからの脱出 個人で始める働き方改革』(越川慎司/集英社)によれば、“真の働き方改革”とは、早く家に帰ることではなく、無駄な業務を削減し、浮いた時間を正しく再配置すること。だから、部下に「早く帰れ」と言うだけでは、上司は仕事をしていないのと同じである。そして、こうした時間管理の改革を個人のレベルでも行い、会社から言われるがまま動く“働きアリ”状態から脱出せよ…というのが本書の主張だ。

■上司に不満を言っても仕方がない。その理由とは

 まず考えてほしいのは、自分の仕事環境における“外円”と“内円”という考え方だ。
 前者は、社会の仕組みや会社の制度、上司などのような“コントロールできないエリア”。後者は、時間や体調といった自己管理やコミュニケーション能力、作業の工夫などのような“自分でコントロールできるエリア”のことだ。私たちのエネルギーは限られているから、会社や上司について愚痴を言う前に、“内円”の中から効率的に改革をしていこう。その際におすすめの方法は、移動中などのスキマ時間に“振り返りの時間”を作ることだという。なぜ忙しいのか、無駄な時間はなかったか、などを10分ほどの時間で内省し、それを次の仕事に活かしていけばよい。

■仕事が絶えないフリーランスの秘訣は、サラリーマンにも有用

「いつかは独立を」と考えている会社員もいるはずだ。特定の組織や時間に縛られないフリーランスの働き方は、働き方改革が目指すひとつのゴールでもある。
 こうした自由な働き方を目指すならば、「ポジショニング」と「セルフブランディング」が欠かせない。フリーランスは、自分の弱み・強みを分析し、他人には簡単にマネできない仕事を継続的に行うことで、安定的な収入を得ることができる(ポジショニング)。さらに、SNSやメルマガなどのツールを使い、自分の商品価値を高めることで、新たな仕事を獲得することができる(セルフブランディング)。
 こうした考え方や戦略は、実は普通の会社員にも応用が可能だ。組織の中で自分が持つ強みを意識し、それをきちんとアピールしておくことで、上司に“コイツにしか任せられない”と思わせたら勝ちである。

■“自分もああなりたい”と思うようなメンターを持つ重要性

 自分が成長するためには、客観的に自分を見てくれる人が必要だ。そこで著者が推奨しているのが、“自分もああなりたい”と願う社員に、メンターとしてついてもらうこと。指導される側は、メンティーといい、メンターと対話することで気づきを得て成長していく。メンター側も「人間的に信頼され、尊敬される人物」にならなくてはならないから、自分を律する機会にもなるだろう。メンターとメンティー、双方に得るものがあるのだ。
 本書では、“今日からできる働き方改革”と題して、ヒアリング、コミュニケーション術、会議、社内メールなど、毎日発生する業務に関する具体的な改善方法も掲載されているので、こちらもぜひチェックしてほしい。自分のできることを見つけ、これらをどんどん実行し、そして改善を続けていけば、きっと「ジタハラ」なんて怖くなくなるはずだ。