個人事業主が年末にできる節税、年間を通してする節税【保存版】
サラリーマンには年末調整があり年内に所得税の納税が完了し、多くのサラリーマンは確定申告をする必要はない。個人事業主(フリーランス、自営業)は2月~3月に確定申告をしなければならないので、まだ2カ月ほど時間がある……などとノンビリしていてはいけない。もし、例年よりガッツリもうかったと感じている個人事業主は、年内に節税対策をしないと確定申告書の納税額を見てガッカリすることになる。今回は、年末にできる節税対策と、年間を通して行う節税対策について説明をしよう。
目次
▼節税はPayPayよりお得?
▼所得税の算出方法
▼住民税と国民健康保険
▼個人事業主の所得の実態
▼自分に合った節税を
▼消耗品費で経費を増やす
▼高額な機器は固定資産
▼中古資産を利用して節税
▼経営セーフティ共済
▼小規模企業共済で控除を増やす
▼注目度が向上している個人型確定拠出年金(iDeCo)
▼青色申告特別控除
▼節税の前に収支の確認をしよう
▼節税は計画的に
▼所得税の算出方法
▼住民税と国民健康保険
▼個人事業主の所得の実態
▼自分に合った節税を
▼消耗品費で経費を増やす
▼高額な機器は固定資産
▼中古資産を利用して節税
▼経営セーフティ共済
▼小規模企業共済で控除を増やす
▼注目度が向上している個人型確定拠出年金(iDeCo)
▼青色申告特別控除
▼節税の前に収支の確認をしよう
▼節税は計画的に
節税はPayPayよりお得?
節税の例を計算してみよう。東京都千代田区在住、30代独身の個人事業主の今年の売り上げが630万円、経費が160万円の場合、所得は470万円(630万円-160万円)となる。節税対策で仕事用にパソコン、タブレット、スマホなどを新調し、経費を20万円増やすと所得は450万円となる。節税前と節税後の所得税、住民税、国民健康保険を比較してみた。
経費が20万円増えたことで、所得税が4万円、住民税が2万円、国民健康保険が1万8000円減り、税金と国保の合計額を7万8000円も減らすことができた。気分的には39%のキャッシュバックだ。終了したPayPayの20%キャッシュバックなら4万円。約8万円のキャッシュバック(ではなく節税)はかなりうれしい。
ただし、事業のために必要な経費を使って納税額が減ることは望ましいが、節税は目的ではないので、不要な経費を使うことは単なる無駄遣いにしかならない。また、事業は継続的なものなので、年末に購入しないで年始に購入すれば来年の経費が増え、来年分(再来年の春に納税)の納税額が減ることも忘れないでほしい。大切なのは、収支や現金、預金の残高を確認し、バランスの取れた支出と節税を心掛けることだ。
所得税の算出方法
節税をするために必要なのは所得税の算出方法を理解することだ。所得税の計算式を見てみよう。
所得税の計算式。売り上げ、経費、各種所得控除を把握すれば、所得税の納税額が算出できる
法人は3月決算、9月決算など決算月が選べるが、個人事業主は12月が決算月となる。売り上げは1月から12月の売り上げ=年商だ。売り上げは発生した時点で集計をするので、12月に納品し請求書を送り、翌年の1月末に入金された売り上げは今年の売り上げとなる。
経費も同様に年末に納品されたものはクレジットカードで購入し、引き落としが2月でも今年の経費となる。法人取り引きで、年内に納品、請求がされ、1月末に支払った場合も同様に今年の経費となる。経費になるのは事業に必要な支出。仕事用のパソコンなら、パソコンの購入費、電気代、ネット回線費、修理費なども経費となる。売り上げから経費を引いたものが所得だ(1行目の式)。
各種所得控除の代表的なものは基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などで、ほとんどの控除はサラリーマンと共通している。1行目の式で算出した所得から各種所得控除を引いたものが課税所得(2行目の式)。この課税所得に税率を掛けると所得税額が算出できる(3行目の式)。
所得税算出の概念図
税率は表のように課税所得の金額により5%から45%まで税率は上がっていく。税率は課税所得全体にその税率が掛かるわけではなく、その金額の部分に対する税率となる。
所得税の税率表
例えば、課税所得が370万円の場合、195万円までの部分の5%①、195万円を超え330万円の部分の10%②、330万円を超え370万円の部分の20%③を合計した額が納税額となる。税率表の右側にある控除額を使用すると、簡単に計算することができる。
課税所得370万円の所得税
195万円×5%=9万7500円 ①
135万円(330万円-195万円)×10%=13万5000円 ②
40万円(370万円-330万円)×20%=8万円 ③
135万円(330万円-195万円)×10%=13万5000円 ②
40万円(370万円-330万円)×20%=8万円 ③
①+②+③=9万7500円+13万5000円+8万円=31万2500円
課税所得370万円の所得税(控除額を使用して計算する方法)
課税所得金額×税率-控除額=納税額
370万円×20%-42万7500円=31万2500円
注目してもらいたいのは、課税所得が多い(=税率が高い)人ほど節税効果が高いことだ。課税所得が370万円の人が経費を20万円増やすと、増えた経費の20%=4万円の節税となるが、課税所得が300万円の人は、20万円の経費の10%=2万円の節税、課税所得が180万円の人は、20万円の経費の5%=1万円の節税となる。
言い方を変えると所得税の税率が20%を超える人は積極的に節税、税率が10%の人は少し節税、税率が5%の人は節税より売り上げを増やすことを考えたい。
所得税の計算式は単純なので、納税額を減らす(=節税)方法も単純だ。納税額を減らすには
1.売り上げを減らす
2.経費を増やす
3.各種所得控除を増やす
2.経費を増やす
3.各種所得控除を増やす
となるが、売り上げを減らすのは本末転倒なので「経費を増やす」「控除を増やす」が節税の基本だ。
節税の基本は「経費を増やす」「控除を増やす」
住民税と国民健康保険
住民税の税率はほぼ全国一律10%なので、経費を20万円増やすと課税所得が20万円減り、その10%(税率)=2万円の節税となる。住民税について詳しく知りたい人は、以前に掲載した『住民税はどうやって決まる? その計算方法とは』を参照していただきたい。
国民健康保険は住む自治体ごとに計算式が異なり、同じ自治体でも頻繁に式の係数が変更される。加えて自治体により保険料はかなりの差がある。節税による保険料の削減効果を把握するには、自分自身の住む市町村のウェブサイトなどで算出方法を確認をしよう。住民税も国民健康保険も所得税に連動し上下するので、所得税を減らすことができれば住民税も国民健康保険も減るはずだ。
個人事業主の所得の実態
個人事業主の所得の実態を確認してみよう。「平成28年分 申告所得税標本調査」は平成28年分の所得税の納税額がある人を対象とした統計調査(所得があっても納税額がない人は含まれない)。このデータから所得階級別の人数と人数比率をグラフ化してみた。事業所得者(=個人事業主)の所得は「売り上げ-経費」。給与所得者(=サラリーマン)の所得は「年収-給与所得控除」となる。
所得階級別の人数は個人事業主もサラリーマンも所得300万円超400万円以下がピークとなっているが、各階級の人数は所得が150万円を超えるとサラリーマンの人数が多くなっている。特に所得300万円を超え1億円以下の階級はサラリーマンが圧倒的に多い。全体の人数も個人事業主は174万人、サラリーマンは246万人とサラリーマンは約1.4倍となっている。
所得階級別の人数比率は所得300万円超400万円以下がピークで、所得300万円以下は個人事業主の人数比率が高く、所得500万円を超えるとサラリーマンの比率が高くなる。
このグラフから、全体的にはサラリーマンより個人事業主の所得が低い傾向であることが分かる。課税所得の金額は個人個人の控除(扶養家族や生命保険料など)によるので、所得から課税所得を類推するのは難しい。目安として、所得税の税率が10%(課税所得195万円超)以上になりそうなのを、所得300万円を超える階級の人とすれば、個人事業主で節税の対象となるのは全体の半数ほどとなる。
自分に合った節税を
冒頭で「例年よりガッツリもうかった個人事業主は、年内に節税対策を……」と書いた。節税対策にはさまざまな手法があり、即効性があり年末の節税に有効なものもあるし、年間を通して有効な節税対策もある。ここでは自分に合った節税対策を考えてみたい。
収支(売り上げ、経費)が安定している人
収支が安定している人は納税額も大きな変動はないと思われる。この場合は年間を通して有効な節税対策を心掛けたい。年末に節税対策で経費を積み上げると、その年の分の納税額は減るが翌年の経費が減る。翌年、何もしなければ翌年分の納税額が増えることとなる。その対策で翌年の年末も経費を積み上げると、毎年毎年、年末に節税対策を繰り返すこととなり、無駄な経費の出費が懸念される。
年々売り上げ上昇している人
順調に売り上げが伸びていて、年々課税所得が増えている人も、年間を通して有効な節税対策を心掛けたい。課税所得の伸びにより、税率が10%→20%→23%と上がっていくなら、今年よりは来年、来年よりは再来年に経費を積み上げた方が節税効果が高くなる可能性がある。
毎年でなくても、今年よりも来年の売り上げが増えることが見込まれているなら、年末の経費を年始に回した方がトータルの納税額を減らせることが期待できる。
収支の変動が激しい人
先のグラフの通り、個人事業主はサラリーマンより所得が少ない人が多い。加えて安定しないのも個人事業主の特性だ。ライター業を例とすれば、連載記事を掲載していた雑誌が休刊となり、売り上げが激減する可能性がある。毎月の売り上げも上下するし、年間の売り上げや所得が数百万円も変動することは珍しくない。
同じ20万円の経費が、税率が20%の年は4万円の節税となり、5%の年は1万円の節税となる。当然、もうかった年に経費を積み上げると節税効果が高くなる。収支の変動が激しい人で、例年より売り上げが急増したときは、年末の節税対策が有効だ。
過去、筆者が年末の節税対策で購入したもの
消耗品費で経費を増やす
前述の通り、「経費を増やす」「控除を増やす」が節税の基本だ。まずは経費から見ていこう。損益計算書の経費の科目には荷造運賃費、水道光熱費、旅費交通費、通信費、接待交際費、修繕費、消耗品費、地代家賃などがある。どの経費を増やしても納税額は減るが、支払った経費以上に税金が減ることはないので、無駄な経費を支払うことは避けよう。
損益計算書の経費欄には「荷造運賃費」「水道光熱費」「旅費交通費」「通信費」といった経費が並ぶ
これらの経費の科目で荷造運賃費(宅配便など)、水道光熱費、通信費(電話代、スマホの通信費、切手代など)、地代家賃(店舗、オフィスの家賃、月極の駐車料金など)などは年間を通じて支払う経費だ。節約するべきもので積極的な節税の対象とは考えにくい。
安くなったiPhone 8なら経費で購入できる
旅費交通費、接待交際費、修繕費、消耗品費などは意図して増やすことができる経費だ。遠方の取引先に年末のあいさつに行けば旅費交通費。大切は取引先と会食をすれば接待交際費(または会議費)。傷んでいる什器や業務機器を修理すれば修繕費。10万円未満のパソコン、スマホ、NAS、Wi-Fiルーターなどを新調すれば消耗品費を増やすことができる。年末の節税対策に有効なのは、意図して増やすことができるこれらの経費だ。繰り返しとなるが、事業に必要な支出でなければ、ただの無駄遣いとなるので注意したい。
年末の節税対策で、手っ取り早く経費を増やせるのは消耗品だ。消耗品費は10万円未満または使用可能期間が1年未満の少額減価償却資産のことで、簡単に言うと10万円未満の備品が対象となる。10万円未満の判定は、消費税の免税事業者であれば税込の購入価格で行う。通常、開業から2年間は免税事業者。そのあとで「消費税課税事業者選択届出書」を提出した記憶がなければ、税込で10万円未満なら消耗品費となる。
高額な機器は固定資産
収支の浮き沈みが激しい人で、今年はかなりもうかったから、3万、5万じゃなくドーンと100万円くらいのものを買って経費を増やしたい、という人もいるだろう。残念ながら10万円を超える機械、器具などは固定資産となり、数百万円のクルマを買っても、買った年に全額を経費することはできない。
例えばクルマの場合は、長期に使用するため6年に分割して経費とする。6年=72カ月で分割するので12月に360万円のクルマが納車されても、その年に経費にできるのは1カ月分の5万円だけだ。製品ごとに分割する期間=耐用年数が定められていて、クルマは6年、パソコンは4年、テレビとカメラは5年などとなっている。このように価格=価値を分割して経費にしていくことを減価償却という。
クルマは固定資産となり、新車なら6年で減価償却する
「10万円以上のものを買っても、今年の経費になるのはわずかな金額なの?」と諦めることはない。減価償却には特例があり、10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として3年で均等に割って償却することが可能だ。例えば18万円の新4K衛星放送対応テレビを通常の5年(=60カ月)で償却すると12月に経費となるのは3000円、節税効果は数百円だけだ。これを一括償却資産とすれば6万円ずつ3年で償却できるので、12月に買っても6万円をその年の経費とすることができる。
さらに青色申告を行っている個人事業主は、10万円以上30万円未満の資産を「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」により、その年に全額経費として処理することが可能だ。これを摘要すれば20万円を超えるミラーレスカメラを年末に買っても、全額をその年の経費にすることができる。
青色申告の特典で、20万円を超えるミラーレスカメラを全額をその年の経費にすることができる
中古資産を利用して節税
固定資産の減価償却の裏技的なものを紹介しよう。クルマを新車で購入した場合は耐用年数の6年で減価償却をする。中古車の場合はどうなるか。中古資産の耐用年数は、原則は「何年使えるか見積もる」だが、一般的には簡便法という計算式で耐用年数を求め、減価償却を行う。簡便法の計算式は以下の通り。
(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×20%)=耐用年数
※算出された耐用年数に1年未満の端数があれば切り捨て
※耐用年数の最低年数は2年
※算出された耐用年数に1年未満の端数があれば切り捨て
※耐用年数の最低年数は2年
4年落ちの中古車を買った場合は以下の計算となる。
(6年-4年)+(4年×20%)=2.8年 → 1年未満の端数を切り捨て=2年
月単位で細かく計算すると新車登録から3年10カ月を超えるクルマの耐用年数は2年となる。新車で360万円のクルマを購入すると減価償却費は5万円/月、60万円/年となるが、4年落ちの中古車を240万円で購入すれば2年で減価償却できるので10万円/月、120万円/年を経費にすることができる。
耐用年数が6年から2年になれば、減価償却費は3倍となる。減価償却費は月割りとなるので、年末の節税には効果が薄いが「安定して稼いでいる」「事業でクルマを使う」人の節税には効果的だ。個人事業主の場合は、クルマの費用は按分(=仕事とプライベートの使用比率で分けること)するので、全額を経費にすることはないと思うが、ベースの金額が大きいので参考にしていただきたい。
注意点を1つ。国税庁のウェブサイトには「中古資産を事業の用に供するために支出した資本的支出の金額がその中古資産の取得価額の50%に相当する金額を超える場合には、簡便法により使用可能期間を算出することはできません。」と書かれている。意味不明だ。要約すると「中古資産の修理費・改良費が、買った金額の50%を超えたらダメよ」ということで、動かないクルマを80万円で買って50万円で修理した場合は簡便法で計算できない、となる。滅多にないことだと思うが注意しよう。
経営セーフティ共済
極めて浮き沈みが激しい人がガツンともうかったときに役立つのが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」だ。「経営セーフティ共済」は、取引先が倒産した際に、連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度で、掛けた金額の最高10倍(上限8000万円)まで無担保・無保証人で借入れができる。掛金は必要経費に算入できるので節税対策の1つとなっている。
要するに、100万円預けたら(掛けたら)その年の経費を100万円増やすことができる。100万円掛けてあれば、取引先が倒産して回収ができないときは、掛金の10倍の1000万円まで貸してくれる。
「経営セーフティ共済」は連鎖倒産を防ぐことに加え、節税対策にも利用できる
倒産に関する側面はさておき、節税面の効果を見ていきたい。「経営セーフティ共済」の掛金は毎月5000円から20万円まで5000円刻みで選択できる。年額にすると6万円~240万円を経費として計上できる。掛金の合計の上限額は800万円。掛けた金額に利子などは付かない。加入から40カ月(3年4カ月)以上経って解約すれば掛けた金額が全額戻ってくる。
ガツンともうかった年の年末に1年分(今年12月~来年11月)を前納すれば、20万円×12=240万円もの経費を増やすことができる。年末ギリギリに加入する場合の注意点は前納方法を「口座振替」ではなく「振込」を選択すること。口座振替にすると引き落とされたときの経費になるので、来年の経費となってしまう。
年内に「振込」による前納を行えば、1年分をその年の経費にできる
銀行の最終営業日(2018年は12月28日)でも手続きは可能だが、書類の不備で出直しになることを考慮し、数日前に手続きをしたい。前納の期間は任意に選択できる。12カ月分でも8カ月分でも3カ月分でもよい。掛金の増減、任意の前払いができるので業績に応じてコントロールが可能だ。
「経営セーフティ共済」は一時的に巨額の経費を積み上げることは可能だが、利用する際の難しさは解約するタイミングだ。掛金は全額その年の経費となるが、解約したときは全額が事業所得となる。仮に毎年100万円を掛けて、40カ月(3年4カ月)が過ぎ5年目に4年分の400万円を解約すると、その400万円は売り上げに上乗せとなる。売り上げ急増=納税額も急増だ。
課税所得が安定して300万円の事業主がいたとしよう。そのままなら所得税は5年間ずっと20万2500円だ。「経営セーフティ共済」に100万円を掛けると、掛けた年の課税所得は200万円になり所得税は10万2500円。毎年10万円の節税となる。5年目に解約すると4年分の400万円が上乗せされるので課税所得は700万円。所得税は97万4000円に跳ね上がる。5年間のトータルの納税額は経営セーフティ共済を利用すると増えることになる。
ずっと課税所得が300万円の方が納税額は少ない
このように収支が安定している人の節税には適さない。解約のタイミングを見つける際に役に立ちそうなのは「掛け止め」という制度だ。例えば年100万円を掛け、400万円になったところで掛け止めをすれば、400万円を預けた状態で期限なく停止できる。掛け止めしている期間は節税にならないが、売り上げがドーンと落ちた年に解約をすれば、事業と生活の安定化、トータルの納税額の減少に役立つかもしれない。
小規模企業共済で控除を増やす
節税の基本である「経費を増やす」「控除を増やす」のうち、ここからは控除を増やす方法を説明しよう。確定申告書の控除欄を見ると、下段から基礎控除、扶養控除、配偶者(特別)控除……と聞いたことのある控除が記載されている。
確定申告書の控除欄
多くの人が該当する控除のうち、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除などは節税対策で意図的に控除額を増やことは考えづらい。たまたま婚姻届を出す準備をしていれば年内に提出する、未払いの社会保険料があれば年内に納付する、などが考えられるが、万人向けの節税対策にはならない。
個人事業主が控除増やして節税する方法で、最も有効なのは「小規模企業共済」だ。「小規模企業共済」は経営者の退職金制度と呼ばれるもので、納めた掛け金の全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となる。年払いが可能なので年末に1年分を納めれば大きな節税となるし、通年でも節税効果は高い。
「小規模企業共済」は年末でも通年でも節税効果が高い
小規模企業共済の掛け金は、月額1000円から7万円まで500円刻みで選択できる。掛け金の全額が控除の対象となり、最大で年額84万円の控除を受けることができる。所得税の税率が20%であれば所得税で16万8000円、住民税で8万4000円、合計25万2000円もの節税が可能だ。
確定申告書には「小規模企業共済等掛金控除」の欄が用意されている
無理に掛け金を上げることはお勧めしないが、もし業績が落ち込んだときは、掛け金を月額1000円に減額するこができる。その後、業績が回復したら再び増額することができるので、業績の変化に柔軟に対応することが可能だ。減額した場合は運用面でデメリットもあるが、運用自体が低率なので節税の効果を考えればメリットの方が大きいと思われる。掛けた共済金は将来、一括受け取りや分割受け取りができる。事業をやめたときに退職金、あるいは年金として受け取るイメージだ。
消耗品を購入して経費を増やすと手元の現金を支出することになるが、小規模企業共済の掛け金は将来戻ってくるので、無理に出費をするよりは安心だ。すぐに必要なもの、すぐに欲しいものがない人は年末の節税に最適だと思われる。
申し込みは金融機関などで受け付けているので、普段使用している銀行の窓口に行けばよい。こちらも12月の最終営業日までに手続きをすれば年内に加入できるが、書類の不備なども考慮すると数日前には手続きをしたい。
注目度が向上している個人型確定拠出年金(iDeCo)
個人型確定拠出年金は個人事業主と一部のサラリーマンに対象が限定されていたが、2017年から公務員、主婦など、基本的に全ての人が加入できるようになったため注目度が向上している……らしい。実際に筆者の回りで個人型確定拠出年金を知っている人はほとんどいないが、スマホでニュースサイトなどを閲覧していると、金融機関のiDeCoの広告を目にする機会は多い。
2016年12月の加入者数は30万6314人だったが、2017年から急増して、2018年10月時点の加入者数は106万7447人と約3.5倍に拡大している。この実績から見ても注目度が向上しているのは間違いないだろう。
個人型確定拠出年金の公式サイト
毎月の掛け金は5000円から1000円刻みで6万8000円(個人事業主の場合)まで選択できる。年額では6万円から81万6000円で、小規模企業共済と同じく納めた掛け金の全額が小規模企業共済等掛金控除として控除される。小規模企業共済と異なるのは、運用方法を自分で選択できること、加入資格が60歳未満、上限額が国民年金基金、国民年金の付加年金との合計額となる、などがある。
以前は月払いしかできなかったが、2018年1月から年単位拠出が可能となった。12月から翌年の11月までで1回から12回の拠出が可能となり柔軟性は増したが、掛け金の増減が年に1回だけという制限があることを考慮すると、業績の浮き沈みに対応するのは難しい。年末ギリギリの節税対策よりは、年間を通しての節税に有効だろう。60歳で払い込みが終わるので比較的若い人向けとも考えられるし、掛け金の投資先を元本保証の商品や元本保証のない国内株式、国際株式、国内債券、国際債券、不動産投信などの商品と組み合わせることができるので、日頃から投資に興味がある人向けとも考えられそうだ。
小規模企業共済は掛け金と支払い方法を選択するだけだが、個人型確定拠出年金は銀行、証券会社、保険会社などそれぞれの金融機関で選択できる金融商品が異なるため、どこの金融機関を選んで、どの商品を組む合わせるかを決めるのが難しい。運用益を期待しなければ、手堅く元本保証の商品を選択しても節税効果は得られるので、投資に縁遠い人は普段利用している金融機関や手数料の安い金融機関を選択するのも1つの方法だと思う。
銀行、証券会社、保険会社など多くの金融機関がiDeCoに力を入れている
筆者の個人的な意見としては小規模企業共済、個人型確定拠出年金、経営セーフティ共済の順に検討をすることをお勧めしたい。
青色申告特別控除
青色申告の代表的なメリットが、青色申告特別控除だ。単式簿記による記帳を選択すると10万円。複式簿記による記帳を選択すると65万円の控除が受けられる。経費で65万円を使ったり小規模企業共済に65万円を掛けたりするのには、手元資金にゆとりがなければできない。青色申告特別控除は資金のゆとりが必要なくても、頑張って複式簿記で記帳すれば65万円の控除が受けられる。
青色申告には青色申告特別控除のほかにも、固定資産のところで説明した、10万円以上30万円未満の資産を全額経費にできる「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」や、赤字の3年繰り越しなど、節税メリットがいくつもある。白色申告をしている人で節税を意識している人は青色申告に切り替えることをお勧めしたい。
青色申告に切り替えるには手続きが必要だ。今年10月以降に開業した人は、開始した日から2カ月以内に税務署へ「青色申告承認申請書」を出さなければならない。開業から2カ月以上経過した人は、来年から切り替えるしかない。来年から青色申告に切り替える人は3月15日までに手続きをしなければならない。確定申告書を提出するタイミングで、「青色申告承認申請書」も一緒に提出しよう。
青色申告に切り替える人は「青色申告承認申請書」を提出しよう
簿記などの知識がないと「複式簿記?」と不安を感じる人もいるだろう。手書きの時代に複式簿記で記帳し貸借対照表、損益計算書を作成することはかなり高いハードルだったが、日常的にパソコンを使用しているINTERNET Watchの読者であれば、申告ソフト/サービスを使うことで複式簿記による記帳は可能だと思われる。
節税の前に収支の確認をしよう
ここまで、「経費を増やす」「控除を増やす」代表的な節税方法を紹介した。節税対策を始める前に売り上げ、経費、各種所得控除の確認をしよう。例年よりガッツリもうかって年内に節税対策をしたい人は、確定申告の時期に1年分の売り上げ、経費を集計しても、今すぐ作業しても労力は同じなので、前倒しで集計をしていただきたい。
集計の強い味方となるのが申告ソフトだ。金額の集計と聞くとExcelを使用したくなるが、最終的に損益計算書、貸借対照表、確定申告書などを作成することを考えると、最初から申告ソフトを使うことをお勧めしたい。
申告ソフトはクラウド環境で使用するものとパッケージソフトをインストールするものが存在する。調査会社が実施したクラウド型会計ソフト利用状況調査によると、会計ソフト利用者のうちパッケージソフトの利用者は75.5%、クラウド会計ソフトの利用者は14.7%となっている。同調査によるクラウド会計ソフトのシェアは弥生が55.4%、マネーフォワードが21.1%、freeeが16.5%などとなっている。
依然として利用者の多いパッケージソフトのシェアを、POSデータの集計によるBCNランキングで見ると、60%前後のシェアを持つ弥生が14年連続1位。会計ソフトのデファクトスタンダード的存在と言える。代表的なソフトを紹介しよう。
やよいの青色申告 オンライン
「やよいの青色申告 オンライン」はクラウド環境で利用する申告ソフトで、銀行口座、クレジットカード、電子マネー、交通カードなどの取り引き明細を取り込むことができる。モバイルSuicaなどを利用している人は、膨大な件数の運賃を瞬時に取り込むことが可能だ。膨大な領収書を手入力する手間が減るので、確定申告の作業時間を大幅に短縮できる。簿記や経理の知識がない人でも、損益計算書、貸借対照表、確定申告書など確定申告に必要な書類が全て作成できる。1年間(最大14カ月)はすべての機能が無料で使用でき、2年目からは「セルフプラン」で年額8000円(税別)と低価格なのもうれしい。
やよいの白色申告 オンライン
今年は白色申告、来年から青色申告に切り替える予定の人にお勧めなのは「やよいの白色申告 オンライン」だ。やよいの白色申告 オンラインは数少ない白色申告専用ソフトで、全ての機能がずっと無料で使用でき、白色申告ソフトでは一択と言ってよい存在だ。クラウド環境で利用でき、銀行口座、クレジットカード、電子マネー、交通カードなどの取り引き明細を取り込むことができる。とりあえず2018年分の確定申告は白色申告という人はぜひ利用したい。
Money Forwardクラウド確定申告(個人事業主向け)
「Money Forwardクラウド確定申告」は、家計簿アプリ「マネーフォワード」で有名な、マネーフォワードが提供しているクラウド環境で利用する申告ソフト。銀行口座、クレジットカード、電子マネー、交通カードなどの取り引き明細を取り込むことができる。ベーシックプランは月単位での利用ができ、月額は800円(税別)。年額プランは8800円(税別)。
freee
freeeは、やよいの青色申告オンライン、MFクラウド確定申告と同じくクラウド環境で利用する申告ソフト。銀行口座、クレジットカード、電子マネー、交通カードなどの取り引き明細を取り込むことができる。スタータープランは月額980円(税別)/年額9800円(税別)。
やよいの青色申告 19
BCNランキングの申告ソフト部門で14年連続1位を獲得している弥生の最新のパッケージソフトが「やよいの青色申告 19」。パッケージソフトでありながら、銀行口座、クレジットカード、電子マネー、交通カードなどの取り引き明細を取り込むことができるクラウド対応型となっている。簿記の知識がない人でも複式簿記による記帳ができる「かんたん取引入力」が用意されている。実勢価格は1万1000円~1万2000円だが、“あんしん保守サポート”を実施中で、次期バーションが無償提供されるので2年間を通算すれば実質は5500円~6000円程度だ。
節税は計画的に
節税は事業の目的ではない。必要がない消耗品を購入して納税額を減らしても無駄遣いにしかならない。無理に小規模企業共済や確定拠出年金の掛け金を増やして事業資金がなくなることも避けたい。事業の収支をよく調べて、冷静に、計画的に節税対策をしていただきたい。
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