本音は「労働時間削減」より「給与アップ」 働く人が幸せになるための「働き方改革」とは
2019年4月には働き方改革関連法が施行されるなど、「働き方」についての議論は尽きない。労働時間の削減、ワーク・ライフ・バランスの実現などが叫ばれる中で、理想と現実の間に大きな歪みが生まれている側面も見受けられる。
元日本マイクロソフト業務執行役員で、現在は働き方改革の支援を行う株式会社クロスリバーの代表を務める越川慎司氏は、著書『働きアリからの脱出』(集英社刊)で、500社を超える企業への調査から9割近くの企業が「働き方改革は成功していない」と感じていることを解き明かす。
では、それは一体なぜか? その鍵は個人が感じる「働きがい」だ。
越川氏に聞く、働き方改革で生まれた「理想」と「現実」の歪みの埋め方、そして個人が仕事の時間生産性を上げて、幸せになれる働き方についてのインタビュー。前編では「働きがい」の重要性と、生産性を高め、必要とされる人材になっている人の共通点をあげてもらった。
(新刊JP編集部)
■「働きやすさ」ではなく「働きがい」が成功のカギ?
――実際に「働き方改革」の支援を通して現場を見ている中で、働き方を変えることの難しさをどのように実感されていますか?
越川:難しさは私たちが行っている調査でも数字として出ています。今日(12月5日)までで527社を見てきたのですが、アンケートの結果、成功をしていると実感している企業はわずか12%しかありません。つまり、残りの88%は失敗しているということです。
その理由はシンプルに2つあげられます。まずは改革の成功の定義が定まっていないということ。つまり、なにをもって達成とするかが決まっていないんです。
もう一つは、働き方改革が目的化しているケースですね。人事制度が増えたり、最新のAIを導入しても利用者が少なく、働き方は変わらない。
最近、「働き方改革をやめる」という声が企業からあがっています。2、3年やってみたけれど上手くいかず、社長の一言でやめるという流れです。
――時短ハラスメント(労働時間削減を強制した結果、サービス残業などが増えるなどの現象)が問題になっていますけど、目的を定めずに始めてしまうと失敗してしまう。
越川:そうです。ただ、意外と経営陣がそこに気付いていないんです。例えば、午後7時になった強制的に電気を消す。すると会社で仕事ができなくなるため、夕方付近からスターバックスが混みはじめるんです。仕事をする場所が会社からスタバになっただけ。
社員の皆さんは責任感が強いので、仕事を終わらないまま帰るわけにはいかないと思うのでしょう。さらに、「早く帰れ」と同時に「でも売上は達成しろ」と言われます。そこに歪みが生まれています。
また、最近では在宅勤務が推奨されつつありますが、実は在宅勤務は長時間労働を生む一つの要因になっています。働く場所を自由にさせるよりも長時間労働を生み出すものは何かを見つけ、それを効率化していくことが先決ではないかと考えています。
―― 一方の12%の成功企業の共通点を教えて下さい。
越川:これは会社の成長と社員の働きがい向上という2つの目的が明確になっているという点ですね。
働き方改革は「社員の働きやすさ」ではなく「社員の働きがい」を目指した方が成功しやすいという傾向が出ています。売上が落ちても社員が早く帰れたほうがいいという考え方では上手くいかず、従業員が早く帰れてなおかつ売上も伸びているというのが健全な働き方改革になります。
――売上がのびていないと会社全体が暗くなります。
越川:そうです。給料も上がらないですからね。2019年4月に働き方改革関連法が施行され、残業時間規制が導入されます。これで労働時間が減ることが考えられますが、一方で給与と業績を上げていくための仕組みを作らないといけません。
――調査をされていて、一般社員の声として「給与アップ」と「労働時間削減」、どちらを望む声が多いのでしょうか。
越川:これは間違いなく給与アップです。むしろお金がもらえるのであればもっと働きたいという声が多いですね。特に20代、30代はその傾向が強いです。
だからこそ副業に注目が集まっているのでしょうけど、個人的にはアルバイト的な感覚での副業はあまりおすすめできません。というのも、若いうちは勤務が終わった後も働く体力がありますが、年齢を重ねるとだんだん体力的にも難しくなります。だから、働く時間を増やしてお金を得るよりも、自分の強みを明確にしてまず社内で評価と給与を上げていくことを模索すべきだと思います。もう長く働いて成果を残すという方法は通用しませんから、より短い時間でより大きな成果を残す方式、つまり時給の上げ方を見つけなればならないのです。
■個人で始められる「生産性」の上げ方とは?
――では、自分の時給を上げられる人の特徴を教えていただけますか?
越川:AIを活用した調査の結果で分かったことですが、端的に言えば「内省」している人です。
――「内省」とは?
越川:振り返って反省するということですね。各企業の成績優秀者たちは少なくとも2週間に一度は自分のスケジュールを振り返って、「この会議は無駄だった」「この資料は響かなかった」などと反省し、それを翌週すぐに改善しようとしています。そうやって常に質を高めるルーチンを作っているわけですね。
――まさに個人のPDCAといいますか。
越川:そうです。ただ、特に優秀な社員は「P」を立てないんですよ。失敗してもいいから、まず「D」からスタートする。そして、次の「A」の質を高めるために「C」を念入りに行う。逆に「P」に時間をかける人は成長が鈍い傾向にあります。DCA、CACACA…が良いのです。
――アジャイル的ですね。
越川:まさにそうです。ただ、大手企業になればなるほど100%の情報を集めようとして「P」に時間をかけるんです。だから硬直してしまう。60歳以降も働かないといけない時代がもうやってきている中で、常に市場から求められる人材でないといけません。そのためにも、今からできる限り「D」や「A」を社外に向けてやっていくことが大事だと思います。
――日本人は生真面目で保守的でもあるので、上手くいくかの見極めをするために「P」を大事にします。
越川:しかも合議主義的ですからね。ただもうそのスピード感だと遅いでしょう。
――個人で働き方を変えようとしても、大きな組織では実践が難しいのではないかと思います。組織で仕事をしていると、周囲がついてこない限り成長はありません。
越川:弊社の働き方に関する調査は527社を対象に行っていますが、コンサルティングで深く関わらせていただいている会社は28社あります。そのほとんどが大手の上場企業なんですが、ほぼ100%そういう声は出てきますね。
ただ、新しい試みはメリットとデメリットがセットになっているのが当然で、私はメリットがデメリットよりも大きいときは実践すべきだと言って経営陣を説得しています。少しでもデメリットがあるからやらない、というのはもう生き残れないでしょう。
個人の場合ですと、確かに出る杭になって打たれてしまうこともあるでしょう。だから、まずは本書の「内円ワークショップ」を試してみてほしいです。
――「内円ワークショップ」とはどういうものですか?
越川:自分のスケジュールの中で、自分がコントロールできる時間ってどんな人でも20%くらいはあるんです。まずは自分がコントロールできるエリア(内円)の生産性を改善する。そこで成果を出して、内円を広げていくということです。おそらくそれが一般的に言うところの「スキルアップ」「キャリアアップ」なのだと思います。
――例えば資格試験を取るというようなことでしょうか?
越川:具体的には、先ほどお話した「内省」ですね。時間をかけて派手なパワーポイントの資料を作ったけれど全く意味がなかった。逆にシンプルに作った方が受注できた、とか。
また、資料を作ったけれど、上司から「やり直し」と言われる差し戻しの時間も典型的な無駄です。こうした無駄を省くにはどうすればいいか、結果につながるにはどうすればいいかということを「内省」するんです。
――どうすれば無駄を省けるか、どうすれば成功の精度が高くなるか、ということを考える。
越川:そうです。他にも、海外と比較すると日本企業は圧倒的に社内会議の時間が多い傾向にあり、稼働時間の43%が会議というデータも出ています。でも、深くヒアリングしてみると、会議の為の会議の為の会議、情報共有のためだけの会議、発言者しない人が多い会議、アジェンダがない会議が結構あって、それらが無駄の温床になっていた。
――確かに、なんとなく集まって話して終わりという会議ってあります。
越川:そのため、最近では若手が率先して会議のあり方を変えるというケースが出てきています。彼らが身に付けているのはファシリテーションの能力です。若手から成果の出る会議に変えていく。ファシリテーション力はどこでも応用がきくので、スキルとしても良いです。
(後編に続く)
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