結局「老後の貯蓄」は、いくら必要?どうやって貯める?
老後資金はいくら準備すればいい? 老後の支出は1カ月約27万円
人生100年時代において、「老後のお金不安」が増幅しています。理由のひとつが、老後の収入の柱である年金の先が見えないこと。原則65歳まで働き続けることができるようになったとはいえ、老後をアクティブに生きるためには、年金を補完する資金を準備する必要があります。必要な老後資金の考え方と計算方法、老後のための貯金方法を解説します。
平成29年「家計調査報告(家計収支編)」(総務省)によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の1カ月の家計収支は次のとおりです。
・実収入……20万91989円(うち社会保障給付は19万1880円)
・支出……26万3717円(うち消費支出は23万5477円)
・赤字……5万4519円
老後の定期収入である公的年金や企業年金では、生活費や税金・社会保険料等の支出が賄えず、貯蓄の取り崩しや仕送りを受けて不足分を補っているようです。
人生100年時代、老後資金はいったいいくら準備すればいいのでしょうか。順を追って計算していきましょう。
セカンドライフに必要な資金は? ケーススタディで試算
充実したセカンドライフを送るための老後資金には、何が何でも確保したい生活資金、安心かつ充実した人生にするその他の資金、例えばレジャー費用や車の買い替え費用、住宅のリフォーム費用、子どもへの援助費用、などがあります。では65歳でリタイアする同い年のAさん夫妻(妻は専業主婦)を例に、セカンドライフに必要な資金を計算していきましょう。
なお、セカンドライフ期間は、「平成28年簡易生命表」(厚生労働省)を基に、10万人の出生に対して生存割合が25%になる年齢(Aさん90歳、妻95歳)までとしました。
「平成28年簡易生命表」の65歳の平均余命は、男20年、女25年です。平均余命時点(男85歳、女90歳)のそれぞれの生存割合は男46%、女50%。多くの人が平均余命を超えて生きていくのです。
平均余命までの老後資金計画では、それを超えて生きる人たちは困ります。そこで、ここでは生存割合が25%程度になる年数を使い、生活資金を計算しました。
一般に、現役時代に、老後の生活資金を見積もる場合の計算式は、
・夫婦時代の生活費=現役時代の生活費×70~80%×夫の平均余命
・妻だけの時代の生活費=現役時代の生活費×50%×夫と妻の平均余命の差
を使います。すでにリタイアしている場合、夫を見送った妻の生活費は「夫婦時代の生活費の70~80%」、妻を見送った夫の生活費は、夫の家事力により「夫婦時代の生活費の80%~100%」とします。
▼【1】生活資金では、Aさん夫妻が65歳から生存率25%になるまで生きる場合に必要となる生活資金を計算してみましょう。
・毎月の生活費は、前出の高齢夫婦無職世帯の支出額27万円(=60歳以上の勤労者世帯の支出38万円の71%に相当)とする。
・夫婦時代の生活費=27万円×12カ月×25年=8100万円
・妻だけの時代の生活費=27万円×12カ月×80%×(30年-25年)=1296万円
以上から、生活資金は9396万円になります。
▼【2】その他の資金(子どもへの援助資金や自宅のリフォーム費用等)項目と金額は自分の状況に合わせます。ここでは次のように考え、2600万円としました。
・住宅ローン残債返却……500万円
・住宅リフォーム資金……500万円
・趣味・レジャー関連費用……400万円
・子どもの結婚・住宅購入援助資金……400万円
・車買い替え関連費用……200万円
・医療や介護費用……300万円
・予備費……300万円
▼【3】65歳から夫90歳・妻95歳までに必要な老後資金【1】【2】を踏まえて、65歳から夫90歳・妻95歳までに必要な老後資金はどうなるでしょうか。
【1】生活資金9396万円+【2】その他の資金2600万円=1億1996万円
となります。
リタイア後の収入の柱は退職金と公的年金の2つ
老後の生活を賄う資金は、預貯金、退職金、公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)の3つ。中でも、リタイア後の主な収入源は、退職金と公的年金の2つですが、企業年金が給付される人も少なくありませんので、勤務先に確認するといいでしょう。*共済年金は平成27年10月1日に厚生年金に統一されました。統一時に65歳以上で退職共済年金を受給している人には、従来通り退職共済年金が給付されます。
では、それぞれの金額の目安を見ていきましょう。
▼【1】退職金退職金の額は、会社の規模や職種、勤続年数等で異なります。「平成25年就労条件総合調査結果の概況」(厚生労働省)によると、平成24年の1年間における勤続35年以上の定年退職者の退職給付額は 、
・大学卒(管理・事務・技術職)……2562万円(1567万円)
・高校卒(管理・事務・技術職)……2272万円(1470万円)
・高校卒(現業職)……1872万円(1184万円)
でした。これは、退職一時金だけでなく年金払いの分も含む金額です。カッコ内の金額は、退職一時金のみの場合です。
一方、日本経済団体連合会と東京経営者協会会員企業「2016年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」によると
・大学卒(管理・事務・技術職)……2374万円(2592万円)
・高校卒(管理・事務・技術職)……2048万円(2400万円)
・高校卒(生産・現業職)……1821万円(1954万円)
でした。これは、退職金一時金のみ・退職一時金と年金併用・退職年金のみの単純平均額です。カッコ内の金額は、ポイント方式の場合です。
▼【2】公的年金老齢基礎年金や老齢厚生年金の金額は、毎年誕生月に送付される「ねんきん定期便」で確認します。旧共済年金加入者にも「ねんきん定期便」が送付されます。
老齢厚生年金を受給している夫が死亡すると、一定条件を満たす妻には遺族厚生年金が給付されます。
Aさん夫妻のリタイア後の収入はどれくらい?
では、Aさん夫妻のリタイア後に予定される収入を見ていきましょう。【1】退職金……2500万円
【2】年金合計……7428万円
平成29年度の新規裁定者の年金額は、厚生年金(夫婦2人の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)は22万1277円。老齢基礎年金は6万4941円(月額/1人)です。
・夫が受給する公的年金総額=(老齢基礎年金+老齢厚生年金)×12カ月×25年=(6.5万円+9.1万円)×12カ月×25年=4680万円
・妻が受給する公的年金総額=老齢基礎年金×30年+遺族厚生年金×5年=6.5万円×12カ月×30年+6.8万円×12カ月×5年=2748万円
以上から、Aさん夫婦の、Aさん90歳・妻95歳まで生存する期間に予定される収入の合計は、
【1】退職金2500万円+【2】年金合計7428万円=9928万円
になります。
老後の貯蓄目標額は「支出-収入」
必要な老後資金は、「老後に必要とする老後資金-老後に予定される収入合計額」で算出します。Aさん夫妻が必要とする老後資金は1億1996万円、それに対して収入は9928万円。その差2068万円が、老後資金として準備すべき金額=目標貯蓄額になります。
では、この2068万円をどのように準備すればいいのか、考えていきましょう。
月11万円、15年間積み立てれば約2000万円貯まる
前出の家計調査によると、2人以上の勤労者世帯の年代別黒字額は・40~49歳……16万2040円
・50~59歳……12万456円
・60歳以上……3万4680円
です。45~59歳の15年間に毎月11万円、60~64歳の5年間に毎月1万5000円を貯めると、元金だけで2070万円(=1980万円+90万円)になり、目標額をクリアします。
実際には、教育費や住宅ローン返済への支出とのバランスをとりながら、ゆとりがある時期には増額、家計が厳しい時には少し減額しながらコツコツと貯め続けることが肝要です。
目標貯蓄額が高すぎる場合は、現在の支出内容を見直して無駄な支出をカットして貯蓄額を増やす、老後の「その他の支出」の内容や予定額を検討する――例えば子どもへの資金援助の額を減らす、自宅のリフォームの規模を縮小する、など――ことなどが必要です。
それと並行して65歳以降も働く、妻のパー ト収入を増やす、など収入を増やす道を考えるのもいいのではないでしょうか。
老後のための貯蓄は、早めの計画づくりが吉
40歳代から老後資金をコツコツと貯めるには、目標が必要です。まずはリタイアメントプランを作り、その実現のために必要な老後資金を把握し、貯蓄目標額を把握しましょう。節目節目、例えば50歳、55歳、60歳、に、プランや老後資金、目標貯蓄額の見直しを繰り返し行い、思い描く老後のために微調整しながら準備を進めましょう。
その過程で、お金以外に必要なこと、例えば人のネットワークや健康維持、資格取得、などへの対策もたてることができます。
老後資金の準備は豊かな老後に必要な「生きがい、お金、健康」の準備にも繋がります。
(文:大沼 恵美子(マネーガイド))
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