生活者の買物環境が変わり、小売店の在り方にも変化が求められる現在。スーパーマーケットの実店舗には買物体験のエンタメ化や、店舗や商品に共感できるストーリーの発信など、広い意味でのメディア化が必要だ。
 今回は青森県に1店舗のみを構えるスーパーマーケットながら、驚きの価格帯や読みたくなるPOPでファンを増やし、市外からも買物客が訪れるというヤマヨ十和田店を紹介する。
 スーパーマーケットらしからぬポップな印象の外観からして、他店舗と一線を画しているような印象を受けるヤマヨ十和田店の最大の特徴は、とにかく品が安いこと。特に鮮魚は市内の他店舗に比べて7~8割の価格で購入できるのだと、居合わせた買物客が言っていた。その激安っぷりに、週末は開店前から長蛇の列ができることも多いのだという。

つい読んでしまうPOPはまさにエンタメ

 だが、本記事ではその激安さを伝えたいのではない。確かに商品の価格が安いことは生活者にとって重要で、スーパーマーケットを選ぶ選択基準の一つになるだろう。しかし、安さだけを売りにするお店では、他に安いところができるとすぐに顧客も離れてしまう。価格だけでしかお客さまとつながりがないのは、非常に危うい関係であると私は思う。
 もちろん安いこと自体は悪いわけではないし、手頃な価格の商品がそろうスーパーマーケットは私も普段とてもありがたく通わせてもらっている。だけど、買物客に固定ファンとなってもらうには、もう少しスパイスが必要だ。
 ヤマヨ十和田店の“スパイス”は「エンタメ要素たっぷりのPOP」。コンテンツとしての魅力が非常に大きく、わくわくしながら読ませてくれるそのPOPは、もはやPOPの域を越えている。

 通常、POPといえばその商品の良さ・推しポイントを端的に書いたり、「特売」などの価格情報を書いたりするのが普通である。しかしヤマヨ十和田店のPOPは、なんというか、ポエムのような、日記のような、叫びのような、とにかく他では見ない内容なのだ。

 店中に思わずクスッと笑ってしまうような内容のPOPが張り尽くされ、POPをしっかり読んでいると、1時間ほど買物時間がかかってしまう。また本音で書かれたPOPに、ついつい買うつもりのなかった商品にも手を伸ばしてしまう。ヤマヨ十和田店の個性的な仕掛けに、まんまとハマッている自分がいた。

 実際、このPOPの取り組みを始めてから「お客さまの滞在時間は延びている」と専務の新藤晴生氏は教えてくれた。
 ちなみにこのようなPOPのスタイルは4年前ごろから始め、内容は各売場の担当者が自由に決めて書くそう。個性豊かな内容だが、なぜだか全体的にはうまくまとまっており、“ヤマヨ十和田店らしさ”を創り出している。

Twitterにも思わずフォローしたくなるつぶやきがたくさん

はやりのタピオカもTwitter担当者には魅力が分からず。でもそのこびない姿勢が逆にイイ!
 この自由な雰囲気はTwitterでも裏切らない。ちょっと斜に構えた(!?)運用者が、自由に、一人言のように、押し付けがましくないツイートを発信していて面白い。そう、ヤマヨ十和田店はとにかく面白いのだ。
 元気で明るく品行方正なスーパーマーケットも、お客さまに気持ちよく買物してもらうためにはとても大切であるが、クラスに優等生ばかりが集まっていても息苦しい。
 ちょっと普通ではなくて、クラスの輪を乱してしまうときもあって、でも芯が強く自分のスタイルを持っている人に憧れたことが誰しもあるはず。そんなヤマヨ十和田店の“優等生でない”姿勢に、買物客たちは心をつかまれているのではないだろうか。
ちなみに、チラシも一癖あって面白い。右下のコメントに注目

自由なPOPはなぜ生まれた?

 一見ふざけているように見えるPOPやTwitterだが、実はその誕生にはヤマヨ十和田店の熱い思いがある。
「世の中に多数あるおいしい商品や面白い商品を販売し、その魅力を伝えたいという思いで、通常のスーパーには置いていないような独自路線の強い商品を多くそろえています。またその魅力を伝えるために、まずは自分たちが楽しもうという気持ちから、今のようなPOPのスタイルになりました」と新藤氏は答えてくれた。
 当初は珍しい商品にのみ使用されていたPOPだったが、だんだん大手メーカーの一般的な商品にもこのスタイルの商品紹介が広がっていったという。そうしていくうちに、ヤマヨ十和田店の「らしさ」が誕生したのだ。

〈この"メディア化"をまねしたい! 「ヤマヨ十和田店編」〉

 ヤマヨ十和田店から学びたいのは、いわゆる優等生像を目指さず独自の方向性を貫く姿勢と、そのエンタメ力。安さだけでは危ういお客さまとの関係性を、POPのエンタメ力という魅力で離れ難くしている。
 毎日仕事や子育てで疲れている買物客にとって、「買物が面白いこと」は緊張した気持ちを緩めてくれる効果も果たす。「買物=疲れる」という悲しい方程式も、こんな方法なら覆してくれるかもしれない。
「買物を楽しくしたい」とは、どのスーパーマーケットでも考えていることではあると思うが、「楽しい」のつくり方は各社それぞれ。こんな風に、POPを「読み物」にしてしまう「楽しさ」もぜひ一つの方法として覚えてほしい。
 主婦にとって「つらい」買物が「楽しい」買物になるよう、楽しみながらメディア化していきましょう!