郭台銘会長
 シャープが親会社の台湾・鴻海精密工業と進めてきた協業戦略に暗雲が立ちこめている。シャープは9日、2020年3月期の業績予想を発表。同年度を最終年度とした中期経営計画よりも、売上高が6000億円下回り、計画達成を実質断念した。加えて、鴻海の郭台銘会長が政界進出を表明したことで、経営体制そのものにも不透明感が高まる。今後の成長戦略としても決定打が欠ける中、視界不良の状況が続く。

 「米中貿易摩擦や中国経済の減速などにより、デバイスやディスプレーを中心に想定以上に厳しさが増した」。シャープの野村勝明副社長は中計達成を断念した理由を説明した。20年3月期の売上高は前期比10・4%増の2兆6500億円、営業利益は同18・8%増の1000億円となる見通し。17年に発表した中計では、同年度に売上高3兆2500億円、営業利益1500億円を達成するとしていた。

 今後は「アクオス」「ダイナブック」のブランド力を生かし、スマートフォンやパソコンの販売増に期待を寄せる。19年後半には中国ハイセンスからブランドを取り戻し、米国のテレビ事業に再参入することを決めた。「シャープにとって(米国は)空白市場。ダイナブックなどいろいろな商品を展開したい」(野村副社長)。

 財務体質改善も急ぐ。みずほ銀行と三菱UFJ銀行が保有する優先株を20年3月期中に全て買い戻して消却する方針。シャープは経営危機の際に、債務を優先株に振り替えて資本を増強した。一部は消却済みだが、今なお約1000億円分の優先株が残る。「負の遺産」を解消し、経営再建にめどをつける。

 明確な成長戦略を示せない上、業績にも陰りが見える。19年3月期の連結決算は売上高が前期比1・1%減の2兆4000億円、営業利益は同6・6%減の841億円。減収、営業減益となった。

 リスクも顕在化してきた。鴻海の販売網を生かし、高精細な「8K」液晶テレビを展開するが、販売目標に達しなかった製品を鴻海グループが買い取っているとの見方がある。加えて、液晶パネルの供給先についても「シャープは鴻海向け以外に、液晶パネルを外販しにくくなっている」(液晶製造装置メーカー関係者)。

 最大の波乱要因は、鴻海の郭会長が台湾総統選に出馬表明したことだ。郭会長は5月1日(米国時間)にトランプ米国大統領と面会し、米国の液晶工場の建設計画が順調であることをアピールするなど、米中貿易摩擦が激化する中でもバランス良く立ち振る舞っている。郭会長が一線を退くと、同じ経営方針が続くかは不透明。鴻海依存の経営再建は薄氷の上に成り立っている。
(文=園尾雅之)