60歳定年から年金を受給するまでの空白の5年間で退職金と貯蓄が2000万円消える? 定年が60歳以上に延びている企業が多くなってきましたが、65歳まで働くと家計はどう変わるかチェックしましょう。

60歳定年で年金をもらうまでに必要なお金は2000万円!?

2000万円!? 大きな金額ですね。

2019年5月に金融庁の金融審議会で報告された、いわゆる「2000万円問題」は記憶に新しいところですが、その内容は65歳以降に公的年金だけでは毎月5万円の赤字で、年間60万円、30年では老後の不足額が約2000万円というものでした。

この記事でいうところの2000万円はその前の5年間の話です。仮に60歳で仕事を辞めた場合、年金が給付される65歳までの5年間での不足額についての解説になります。

▼勤労者世帯における毎月の平均消費支出額を5年間使い続けると……この金額は、勤労者世帯における毎月の消費支出の平均額28万8026円(総務省「令和元年7月分 家計調査 二人以上世帯」より)で暮らし続けた場合に、退職してから年金を受給する65歳までの5年間に生活費として使うお金の総額です。

計算すると、以下のとおりです。

生活費28万8026円(月額)×12カ月×5年間=1728万1560円

この生活費の金額以外にも、車の買い替えやリフォーム、旅行などを考慮すると、プラス200~500万円は別に必要になります。少なくとも約2000万円は見込んでおいた方が無難ですね。

この金額はあくまで平均額なので、家計によって変わります。皆さんの家計は今現在1カ月間を、いくらぐらいの金額でやりくりされているでしょうか? その金額を目安にして、上記の式の生活費のところに置き換えるとある程度の感覚が掴めますね。

▼定年後はゆとりある生活をする? 生活水準を落とす?今より自由な時間も増えるので、ゆとりある生活をしたいということであれば、今の生活費よりプラスアルファが必要ですし、今と同じ生活水準でよいということであれば今の金額と同額、収入もないので生活水準を落とすというなら今より低い金額ということになります。

例えば……

●ゆとりある生活をしたい
生活費40万円(月額)×12カ月×5年間=2400万円

●生活水準を落とす
生活費20万円(月額)×12カ月×5年間=1200万円

いずれにしても、60歳で定年退職すると、その後に年金を受給するまでの5年間で1000万~2000万円台のお金が蓄えから消えていくこととなります。せっかくの退職金もすぐになくなりそうですね。

皆さんは将来に対してどう考えている?

2018年に約4000人に対して金融広報中央委員会が行ったアンケート調査の結果をまとめたデータから読み取ってみます。

以下、「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)平成30年」より抜粋しています。

<老後生活への心配>
・多少心配である……43.0%
・非常に心配である……36.2%
・それほど心配していない……19.8%

「心配である」と回答した方は79.2%で、「心配していない」19.2%を大きく上回っています。その主な理由は次のとおりです。

<老後の生活を心配している理由(複数回答)>
・年金や保険が十分でないから……72.6%
・十分な金融資産がないから……69.0%
・現在の生活にゆとりがなく老後の備えをしてないから……37.0%
・退職金が十分でないから……26.0%

いずれもセカンドライフを支える年金や貯えの不足などが、心配の要因になっています。年金に対してはどのように捉えているのでしょうか?

<年金に対する考え方(生活費について)>
・ゆとりはないが日常生活費はまかなえる……52.0%
・日常生活費を賄うのは難しい……41.8%
・年金でさほど不自由なく暮らせる……4.6%

年金だけでの生活は難しいと答えた方は約4割ですが、生活が賄えるもしくは不自由なく暮らせると答えた方は6割でした。現時点では楽観的に考えている方も意外に多いようです。

今、年金を受給している世代と、今後、年金を受給する世代では年金の給付水準が変わってくるので、今後は楽観的な回答は減少していくと思われます。

▼65歳以上の就業者は年々増加しているセカンドライフにおける収入源はどのように考えているでしょうか?

<老後の生活費の収入源(3つまで複数回答)>
・公的年金……79.6%
・就業による収入……45.7%
・企業年金、個人年金、保険金……37.8%
・金融資産の取り崩し……26.3%
・不動産収入……5.3%

やはり公的年金がセカンドライフでの収入の中心となり、次いで仕事をして収入を得ると考えている方が多いようです。

このような心理も相まってか、総務省の労働力調査(令和元年7月分速報版)によると、65歳以上の全人口3583万人のうち就業者は年々増加を続けて、現在は898万人にもおよび、総労働者数6888万人の1割強を占めます。

以前と比べると高年齢者雇用安定法で65歳までの従業員に就業機会の提供を義務付けたことや、失業手当や職業訓練などを利用できる雇用保険の新規加入が65歳以上でもできることになったことなども追い風となっているようです。

定年延長が家計に与える影響は大!

多くの方が、経済的な理由や健康上の理由、そして生きがいなど求めて60歳以降も働きたいと考えているようですが、年金を受給するまでの5年間を、働いた場合と働かない場合では家計の財政状況も大きく変わります。

下図をご参照ください。60歳定年時に退職金とそれまで蓄えた預貯金の合計が3000万円とした場合で、毎月の生活費が30万円(年間360万円)必要なケースで、その後働かない場合と再雇用で働いた場合(月収20万円)とで、家計の財産がどのようになっていくかを計算したものです。


60歳でリタイアした場合は、年金を受給する直前の64歳の時点で貯蓄は1200万円に減少しています。向こう5年間でその約2/3を取り崩すことになるので、当初の3000万円を資産運用などで増やすことも厳しい状況です。

一方、65歳まで働く場合は、月収20万円としても64歳の時点で貯蓄の残高は2400万円。月収を30万円見込めるなら貯蓄は減ることなく3000万円を維持できます。

貯蓄を取り崩さなくてよいので、その間、資産運用で育てることもできます。3000万円を5%の複利運用をしたら65歳までの5年間で約3829万円にできる計算です。

65歳の時点で財産が手元に1200万円あるか、2400万円あるか3000万円か、あるいは3829万円か? この差は大きいですね。

さぁ、現役世代の皆さんのセカンドライフはどうしますか? どのようなセカンドライフを過ごしていきたいか、そのために今からどんなことをしていかなければならないかをじっくり考えて実行していきましょう!
(文:平田 浩章(マネーガイド))