「人間を商品にたとえることに批判もありました」と語る田村さん。
 ブスは美人に比べてソンなのか? ある調査では、美人はそうでない人よりも生涯年収が約3000万円高い、という結果が出ている(ダニエル・S・ハマーメッシュ『美貌格差』より)。時代は変わりつつあるし、年収と幸福は必ずしも比例するものではないけれど、男女問わず、いまだ外見は人生を左右する一つの要素ではないか。そんななか、「ブスが幸せな結婚&ビジネスでの成功」を掴むための戦略を綴った『ブスのマーケティング戦略』(文響社)が好評だ。婚活や就活をはじめ、対人関係で結果を出したい人に役立つ戦略が詰まった本書について、著者の田村麻美さんに話を伺った。
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■中高生男子並みの欲望が備わっていた
──インパクトのあるタイトルと、ご自身のお顔が大きく載ったインパクトのある表紙カバーに、まず目を奪われました。
田村:抵抗はありました。最初はペンネームで書こうかなとも思っていたんです。でも、何者でもない私がブスについて論じるならば、本名と顔、そして自分自身の経験をさらけ出さなければ説得力がないなと思ったんです。結果、気づいたら、実名・顔出しになっていました。発売直後は恥ずかしい気持ちでもやもやしていましたが、幸い、好意的な反応をいただいていることもあり、しばらくすると怖いものがなくなり、すっきりしている状態です。
──本書は、税理士・早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得、そして一児の母である田村さんの経験をもとに書かれた、ブスが幸せな結婚および経済的な自立を獲得するための具体的な指南書です。「結婚」と「経済的自立」、この2つを目標に据えているところが、共感を得ているポイントの一つだと思いました。
田村:もともとは、結婚はできないかも、という気持ちがあったので、一人で生きていけるようにと、経済的自立をまず考えました。ただ、私は若い頃、男性と恋愛がしたい、少女マンガのようなことをしたいという気持ちがすごく強かったんです。本にも書きましたが、性欲が強かった。中高生男子並みの欲望が備わっていたんだと思います(笑)。だからどうしても、そちらも追い求めずにはいられなかったのです。
でも、私はブスです。じゃあ、ブスの私が男性と付き合うには、結婚するにはどうしたらいいか、ということを、早くから戦略的に考え始めたわけですね。
──ブスに気づいたのは小学生のときだったと書かれています。そこからご自身を「客観視」する人生が始まりますね。
田村:子供って良くも悪くも残酷だから、本当のことを言うんですよね。私はちょっと気になっていた同級生の男子に「鼻が低い」といわれて、気づいてしまったんです。家では親に「かわいい、かわいい」と言われて育ったけれど、ブスだったんだと。なるほどねと。
──反撥するとか、落ち込むではなく、「ブス」であることを冷静に受け入れた。
田村:メンタルが強かったんでしょうね(笑)。性欲とメンタルが強かったから、じゃあどうしたらいいかと、即、行動に出ました。容姿はダメだから勉強して学歴を付けたり、場数を踏むために大学時代は合コンに行きまくったり。結局、私がやったことは、数打ちゃ当たる的な行動だけなんです。「行動して失敗して成功してほしい」。単純ですが、それがこの本のメッセージです。
■婚活に悩む女性にも役立つアドバイス  自己肯定と自己評価は違うもの
──やみくもに行動するのではなく、「マーケティング理論」を駆使しているところに、この本の特徴があります。たとえば自分を商品と見立てて(=プロダクト分析)、いまいる場所(=市場)と、ライバルの特性(=競合)を精査しようと書かれています。
田村:商品である自分の査定にあたって、たとえばこんな指標があるのではないでしょうか、という提案として、5つの指標を出しました。「見た目」「経済力(仕事)」「学歴」「居心地(人柄)」「相性(個性)」です。見た目は、商品でいえばパッケージにあたります。ブスである私はここで勝負できないわけだから、商品価値を上げるために、他でどう点を稼ぐか、という戦略が必要になるのです。
──商品価値とともに、「どこで売るか」も大事ですね。「市場」が変わると「武器」が変わると。婚活に悩む女性にも役立つアドバイスが多数あると感じました。
田村:良い商品でも、売る市場を間違えたら売れないように、どんなに美人だって、ブスが好きな男性には好かれない。反対に、ブスだって、場所や相手が変わればモテることもある。市場と武器を関連付けて見極めるのはとても大事です。
実はこの本を出した直後に、人間を商品にたとえるのはいかがなものか、という批判をいただいたんです。でも、他者からの評価を得ないことには生きられないという点において、人間も商品と同じだと私は思うんですね。恋愛や結婚をするかは個人の自由としても、人は一人では生きられません。仕事では、会社員は会社に評価されるし、自営業だってお客さんに評価される。最初から評価を気にして戦略を立てたほうがむしろ生きやすいのではないか、というのが私の考え方です。
──田村さんにとって恋愛とビジネスは一緒ですか? キャリア女性のなかには、恋愛より仕事のほうがラク、という人もいるようですが。
田村:私にとっては同じでしたね。でも、仕事のほうがラクというのもわかります。商品のことはわかるけど、自分のことは、なかなかわかりませんから……。それに、「水」だったら、売れないならパッケージを変えようとなるけれど、同じように、自分がモテないから自分を変えようとは思わない人もいるかもしれませんね。
──田村さんはなぜ自分を客観視できたのでしょうか?
田村:自分に自信がなかったからです。私の場合、自分には何もないから、何を加えていくか、という発想に立てたんです。それは自分を変えるよりも、ラクなことだったのかなと思います。
私から見ると、みんな、すごく自己評価が高いなって思います。自分を好きでいること、つまり自己肯定力は大事だと思うのですが、評価は他人がするものですよね。だからやっぱり、ある程度は客観視したほうが生きやすいと思いますね。
■「美人」「ブス」という言葉がなくなっても……
──自信はない田村さんですが、行動する勇気はお持ちだった。それはなぜですか?
田村:失敗は怖くないんです。失敗して当たり前だと思っているから。それこそ自信がないところからくるのですが、私と付き合ってくれる人がいるのだろうかとずっと思っていましたから、付き合ってくれる人がいなくて当たり前。付き合ってくれる人がいたら、ほんとですか?? という感じになるんです。
──旦那さんにも自分から積極的にアプローチし、プロポーズも田村さんからしています。男性からしてほしいという気持ちはなかったですか? また、性欲についても赤裸々に書いていらっしゃいますが、そこへの抵抗などは?
田村:自分から行くことに関しては、待っていて何か良いことがやってくるならいいんですが、私には来ませんから、時間がもったいないと思ってしまうんです。時間は有限ですからね。とくにブスは、見た目では勝負できないぶん、若さが貴重なポイントになります。素早く動かざるを得ないんですよ。
それに、そもそも自分のことを女性だという意識はあまりないんです(笑)。世間一般的な女性らしさ、男性らしさ、という価値観が希薄というか……。たまたま私の性別が女性で、恋愛対象が男性だった、という感じですね。
──昨今、女芸人の「ブスいじり」が議論になったり、「ブス」と付くドラマのタイトルが変更になったりと、メディアにおいては、美醜にまつわる言葉の扱いは変化しつつあります。そういう状況を田村さんはどう捉えていらっしゃいますか?
田村:時代とともに価値観は変化しますし、国や文化によっても変わります。たとえば私がこの本で紹介したことは、この時代に日本社会で生きていくために、という視点に立った上での戦略だったので、たとえばグローバルに生きることを考えたら、戦略は違ってきたと思います。もしかしたら、ここまで他者評価を気にしなかったかもしれませんね。
もう一つ思うのは、美人とかブスとか、声に出して言わなくなったとしても、心の中では思うかもしれないし、仮に言葉自体はなくなったとしても、どうしたって好き嫌いは残るだろうと思うんですね。つまり、学歴や収入、性格と同じように、外見は他者に評価を下される一つの指標であるわけだから、受け入れるほうが生きやすいし、建設的ではないかと思います。
──「ブスのくせに」と言われ、自分でもそう思っていた田村さんが、欲しいものを全部手に入れることができたのは「ブスだったから」と書かれているのが印象に残りました。
田村:本当にそうなんです。ブスだったから私は武器を身に付けたんです。もし私が美人だったらきっと勉強もせず、適当に企業に就職して、深く考えずに結婚退職して、夫婦関係が破たんしても経済力がないから離婚できない……そんな状況にいたんじゃないかと。いま、うちは家族仲良くやっていますが、幸い税理士の仕事を続けているので、夫にそれほど依存することなく生活ができていて、ありがたいです。私はブスに諦めてほしくないんです。この本を読んで行動しようと思ってくれる人が一人でもいたら、嬉しいですね。
【PROFILE】田村麻美(たむら・まみ)
税理士。立教大学経済学部卒業後、同大学院で経済学研究科博士課程前期課程修了。早稲田大学ビジネススクール(MBA)修了。夫と娘の3人家族。本書が初の著書となる。
http://tamuramami.com/