高齢者でも、一定額以上の収入や資産があると、所得税や個人住民税、公的医療保険などの負担を求められます。これらは「非消費支出」と呼ばれ、老後の支出の約11%を、赤字の約50%を占めています
無職となった老後も、年金など一定額以上の収入や資産があると、所得税や個人住民税、公的医療保険などの負担を求められます。収入が減っている分、こうした支出がいくらかかるのかは気になるところ。高齢世帯の支出の約11%は、税金や社会保険料が占めているというデータもあります。内容を把握して、老後の赤字家計を防ぎましょう。

税金等の負担は支出の約11%

総務省の「家計調査報告(家計収支編)―平成29年(2017年)平均速報結果の概況―」によると、高齢世帯の1カ月の家計収支は次のとおりです。

◇高齢無職世帯(世帯主が60歳以上の無職世帯)
実収入:20万4587円
支出:26万5634円
(非消費支出(注1)2万7952円、消費支出23万7682円)

毎月6万1046円の赤字です。非消費支出は支出の10.5%を占め、赤字6万1046円の約46%に相当します。

◇高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)
実収入:20万9198円
支出:26万3717円
(非消費支出 2万8240円、消費支出23万5477円)

高齢無職世帯に比べ、収入が約5000円多く、支出は約2000円少なくなっています。毎月の赤字は5万4519円で、非消費支出は支出の10.7%、赤字の約52%に相当します。

(注1)非消費支出とは、税金(勤労所得税、住民税、固定資産税などの直接税や登録免許税など)や社会保険料(厚生年金掛金、健康保険料、共済組合掛金など)など消費者の自由にならない支出(「家計調査の仕組みと見方」総務省統計局より)

代表は所得税・復興特別所得税・個人住民税

◇税金
税金を納める義務のある人が直接納める税金のことを「直接税」といいます。毎年納める直接税の代表は、所得税や個人住民税です。2013年からは東日本大震災の復興の財源として復興特別所得税が加わりました。これ以外にも、土地・建物を所有する人は固定資産税や都市計画税、車を所有している人は自動車税を納めます。

◇社会保険料
社会保険料には、国民健康保険料と介護保険料があります。

こうしてみると、勤労者時代には意識せずに納付していた税金や社会保険料が多いことに驚くでしょう。

所得税と復興特別所得税

高齢夫婦無職世帯の主な収入源は公的年金等です。公的年金等の受給者は、原則、確定申告をして所得税と復興特別所得税を納付します。ただし、次のような人は確定申告は不要です(住民税は別途申告が必要)。

・公的年金等の収入金額が400万円以下
・それ以外の所得金額の合計が20万円以下

◇税額の計算例
では、「夫・妻ともに65歳の夫婦2人暮らし、収入は夫の公的年金250万円と妻の公的年金70万円、世帯で納付する社会保険料は年間30万円」という世帯を例に、所得税額と復興特別所得税を計算してみましょう。

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除=250万円-120万円=130万円

(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除=30万円+38万円+38万円=106万円

(3)課税される所得金額
(1)-(2)=130万円-106万円=24万円

(4)所得税額
24万円×5%=1万2000円

(5)復興特別得税
所得税額×2.1%=1.2万円×2.1%=252円

(6)所得税+復興特別所得税
1万2000円+252円=1万2252円→1万2200円

※所得控除は、社会保険料控除・配偶者控除・基礎控除のみを対象とした。所得控除には他に生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、寄附金控除などがある

個人住民税(市民税・県民税)

個人住民税は、確定申告を基に地方自治体が税額を算出します。確定申告をしない人の場合は、地方自治体に住民税の申告をすることによって税額が決まります。納税通知書が6月に地方自治体から送付されてきますが、65歳以上の公的年金受給者で個人住民税を納税する義務がある人は、一部の市区町村を除き、公的年金から個人住民税が引き落とされます(=特別徴収)。その額は、6月に地方自治体から送付される税額決定通知書で確認できます。

◇税額の計算例
では、前出の「夫・妻ともに65歳の夫婦2人暮らし、収入は夫の公的年金250万円と妻の公的年金70万円、世帯で納付する社会保険料は年間30万円」の例で、個人住民税を計算してみましょう。

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除=250万円-120万円=130万円

(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除=30万円+33万円+33万円=96万円

(3)課税される所得金額
(1)-(2)=130万円-96万円=34万円

(4)所得割額(市民税+都民税)
34万円×6%+34万円×4%=3万4000円

(5)調整額
(5万円+5万円)×5%=5000円

(6)均等割額
5000円

(7)個人住民税
3万4000円-5000円+5000円=3万4000円

※所得額によっては、軽減措置がある。
※三鷹市役所のホームページを参考に計算した。

国民健康保険税と介護保険料

年齢によって保険料の内容は次の3種類があり、計算が異なります。

64歳まで:医療保険料+後期高齢者支援金+介護保険料(第2号被保険者)
65~74歳:医療保険料+後期高齢者支援金+介護保険料(第1号被保険者)
75歳以上:後期高齢者医療保険料+介護保険料(第1号被保険者)

国民健康保険税と介護保険料の算出は、(1)住民税を基に算出する、(2)所得と資産を基に算出する、の2方式があります。算出に用いる係数や均等割・平等割の金額、限度額などは地方自治体により大きく異なります。

◇国民健康保険税の限度額の例
上田市:89万円(医療分54万円、後期高齢者支援分19万円、介護分16万円)
武蔵野市:87万円(医療分54万円、後期高齢者支援分18万円、介護分15万円)
金沢市:85万円(医療分52万円、後期高齢者支援分17万円、介護分16万円)

◇介護保険料基準額(月額)の例
千葉県四街道市:3700円(年間4万4400円)
埼玉県三郷市:4300円(年間5万1600円)
青森県青森市:6394円(年間7万6728円)
徳島県阿南市:5250円(年間6万3000円)

現在、社会保険料は非消費支出の中で大きな割合を占めており、滞納者が増える傾向にあります。

固定資産税と都市計画税

固定資産税は、毎年1月1日時点の不動産(土地・建物)の所有者が納税義務者で、地方自治体から納税通知書が5月前後に送られてきます。所有者とは、固定資産税課税台帳に登録されている人です。固定資産評価額は3年に1回見直されます。都市計画税は、毎年1月1日時点の都市計画区域内の不動産(土地・建物)の所有者が納税義務者です。固定資産税と一緒に納税します。

(軽)自動車税

自動車税は都道府県税、軽自動車税は市区町村税で、毎年4月1日時点の(軽)自動車の所有者が納税義務者です。地方自治体から「自動車税納税通知書」が送られてきます。税額は、自動車の種類・用途・排気量・排出ガスや燃費の性能になどにより異なります。

これら以外に支払う可能性のある直接税に、相続税や贈与税があります。

老後、一定以上の収入や資産がある人には、税金や社会保険料が付いてまわります。国の財政状況や高齢者人口の増加に対応するため、2014年4月に間接税である消費税が5%から8%に上がりました。さらに、2015年10月には10%になる予定です。介護保険では、所得の多い高齢者の利用負担割合を1割から2割に引き上げる予定です。

これからも税制改正や社会保障制度の見直しなどで、税金や社会保険料の負担は増え続けると思われます。それはつまり、消費者の自由にならない非消費支出が増えるということです。政治の動きに敏感になっておきましょう。
(文:大沼 恵美子(マネーガイド))