「ゆで太郎」郊外店の成長支える意外なファン
ゆで太郎システムが展開する「ゆで太郎」岩槻笹久保店。そばといえば都心のイメージが強いが、郊外店には意外な需要があった(撮影:梅谷秀司)
大手そばチェーン「ゆで太郎」を展開するゆで太郎グループが好調だ。1994年にグループ1号店を出してから、着実にその規模を拡大し、2018年にはグループ全体で200店舗を突破。「富士そば」や「小諸そば」など先行するライバルを追い越し、店舗数で国内トップに君臨している。
そんなゆで太郎グループは2つの会社から成り立っていることをご存じだろうか?1つは、創業者の水信春夫氏が始めた直営店を主体とする信越食品で、もう1つは水信氏の知人である池田智明氏が始めたフランチャイズ主体のゆで太郎システムである。
社長はもともと「ほっかほっか亭」のFCオーナー
2004年に設立されたゆで太郎システムは、2018年末時点で167店舗を展開、売上高は90億3000万円と100億円に迫る勢いとなっている。2017年の国内におけるそば・うどん店の市場規模は1兆2794億円で、前年比2.7%程度。原材料費や人件費の高騰を考えると、ゆで太郎システムの数字は立派なものと言えるだろう。
ゆで太郎システムの特徴は、なんといっても郊外への展開だ。早い、安い、うまいが売りの立ち食いそばは、もともと働く人たちがメインの客層であり、これまでは主に駅前やオフィス街、繁華街などに出店してきた。ライバルである「富士そば」や「小諸そば」も同様だ(信越食品は都心を中心に展開している)。
人口減が続く中、ロードサイドにある小売店や飲食店は集客に苦労しているという話も聞こえるが、ゆで太郎システムはなぜ郊外を目指すのか。それを説明するには、池田社長の経歴を振り返る必要がある。
池田社長はもともと持ち帰り弁当のチェーン、「ほっかほっか亭」のFCオーナーからスーパーバイザーとなり、さらに群馬・埼玉エリアを統括する事業所長、後に取締役として活躍。そんなときに、知り合いの水信春夫氏が始めたゆで太郎に魅力を感じ、ほっかほっか亭時代に得たFC運営のノウハウを活かすべく、ゆで太郎システムを設立した。
「ほっかほっか亭で働いていた頃、外回りをしていて食べたくなるそば店が郊外になかったんですよ。ゆで太郎は立ち食いそばではなく、町のそば専門店と変わらないクオリティを持っていた。ゆで太郎を知ったときから、これをこのまま郊外に持っていけば、必ずうまくいくと思っていましたね」と池田社長は振り返る。
池田社長が設立したゆで太郎システムはまず都心で5店を始めると、設立から3年後に千葉県市原市に郊外店である、五井白金通り店をオープンさせた。念願だった初の郊外ロードサイド店だったが、これが見事に成功する。
時間帯によって客層が変化
「郊外に行くと、気軽に食べられる日常食というのが意外に少なくて、牛丼かコンビニエンスストアになっちゃうんです。そばは健康にもいいし毎日でも食べられるから、リピート率も高い。郊外のロードサイド店は数こそ多いんですが、そばに限ってみれば、実はライバルは少ないんです」
「ロードサイト店にそばのライバルは少ない」と話す池田社長(撮影:梅谷秀司)
飲食店が立ち並び、激しい競争があるのかと思いきや、実はゆで太郎にとってロードサイドは競合の少ない、ブルーオーシャンだったのである。
さらに、郊外店には競合が少ない以上のメリットもあったという。
「都心店でのお客さんはオフィスで働く人たちなんですが、働く時間が決まっているので、朝と昼の決まった時間に集中して混む。その点、ロードサイド店は早朝に開店すると、まず現場へ向かうブルーカラーのお客さまが来てくれて、その後にはホワイトカラーのお客さまが来る。
昼に混むのは変わりませんが、午前10時や午後2時のようなアイドルタイムにも朝食や昼食を食べ逃した人が来てくれるんです。盛りそばをさっと食べるぐらいなら、その後に響かないですからね。飲食店にとって、売り上げの波が少ないというのは理想的です」
また、都心店は400円台のそば単品が注文されることが多いのに対し、テーブル席が多くゆっくり食べられるロードサイド店では、日替わり得セット(570円)など、ミニ丼とのセットが多く注文されるという。客単価が高いのも大きなメリットだろう。
500円台で食べられるメニューが多いのが強みだ(撮影:梅谷秀司)
そして、池田社長も予想外だったというのが、ファミリー客が多く訪れることである。来客の減る平日の夜や土日に、家族連れがやってきてくれたのだ。確かにゆで太郎はそば以外にも、カレーライスや丼ものが充実している。こうしたメニューが500円台で食べられるのだから、子どもを持つ家庭にとってはうれしいだろう。さらに小さな子どもがいても、店舗には広い駐車場があるため、車でさっと行けるのもありがたい。
「こんなにそばが好きな人がいたんだ」
「ファミリー層に加えて、近隣のお年寄りも来てくれました。お年寄りは牛丼やパスタより、やっぱりそばなんですよね。老夫婦の場合、2人分では食事を作るのが面倒というのもあるんでしょう。若い家族連れからお年寄りまで、『こんなにそばを好きな人がいたんだ』と、うれしい驚きがありました」(池田社長)
そばのほかに丼ものなどが充実しているので広い客層を狙える(撮影:梅谷秀司)
実際に、埼玉県さいたま市にある岩槻笹久保店を訪れてみた。今年の2月にオープンしたばかりの同店舗は、10台以上を停められる駐車場を持ち、店内は明るく広い。
訪れたのは午後3時というアイドルタイム真っ盛りの時間帯だったが、まばらながらも客足が途切れることはなかった。
同店の平岡店長に話によると、朝から夜までまんべんなく来客があるという。客層はドライバーに加え、目の前にあるJU埼玉オークションセンターという業者専門のオークション会場の職員やそこを訪れる人。
朝から夜までまんべんなく客が来るという岩槻笹久保店(撮影:梅谷秀司)
さらに家族連れも多い。駅からは遠いうえに、周囲に飲食店もなく、車が行き交うばかりの土地だが、商売的には間違いなくブルーオーシャンなのだ。
ゆで太郎システムは現在、東京や神奈川など首都圏に加え、東日本各地や遠くは福岡県にも出店している。中には駅前など繁華街への出店はあるが、その多くは郊外のロードサイド店である。
「都心より郊外への出店のほうが、増えていますね。関東地方だけで500店舗まで伸ばせると思いますよ。今は年間で20店の出店を目標にしています。地方になるとツユの違いなど、食文化の差はあると思いますが、味を変えるつもりはありません。今はどこにいてもいろいろ地域のものが食べられますからね。食べつけないからウケない、というのはないと思いますよ」と池田社長は自信を見せる。
ロードサイド展開を軸に、全国への拡大を目指すゆで太郎システムには、死角がないように思えるが、今後の課題というのはあるのだろうか。
課題は次世代を担う人材育成
「とにかく人材育成、経営幹部を育てることですね。人がいなければ、出店することが難しくなってしまいますから、新しい人たちを育てていかないと。そのために社長直轄の研修センターを作りました。研修に関しては社員だけでなくパートさんにも受けてもらって、それに合格すると職人としてのバッジを進呈しています。
ほかにも、パートさんにも社会保険に有給休暇など、気持ちよく働いてもらえることに注力しています。やっぱり従業員に喜んでもらわないと、商売になりませんからね」
関東だけでも500店は出せる余地があると見る池田社長(撮影:梅谷秀司)
近年、そばはその栄養価の高さから、健康食として見直され、幅広い年齢層から支持されるようになってきている。それにもかかわらず、郊外のロードサイドには安くおいしいそば店は少ない。年間20店という出店目標を掲げていた池田社長だが、現在、課題という人材の問題がうまく解決されれば、さらなる出店を実現できるだろう。
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