マツコロイドを作ったロボット工学者が、人間と自然な会話をするアンドロイド「エリカ」を開発した。研究室を訪れた堀江貴文氏は「何より、シンプルに、可愛らしい。酔っ払った状態で長時間話していると、口説いてしまうかもしれない」という――。
※本稿は、堀江貴文『僕たちはもう働かなくていい』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
エリカと対面する堀江貴文氏(ERICA:ERATO 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)、撮影=小学館写真室

■アンドロイドが「人間に関する知識」を与えてくれる

「人と同じ形と知能を持ったロボット」を生みだす──。
現在、世界的にトップレベルの研究で知られるのが、大阪大学教授で、ATR石黒浩特別研究所所長の石黒浩さんだ。
石黒さんの専門は知能情報学。世界的権威のある科学雑誌『Science』の表紙を飾るなど、世界的なロボット工学者としても有名だ。彼は人と関わるロボット、そして外見や動きが人間と違わない「アンドロイド(見た目がより人間に近いヒト型ロボット)」を、1990年代から研究している。
最近、有名になったのが「マツコロイド」だ。
人気タレントのマツコ・デラックスを全身まるまるかたどって、マツコ本人と寸分違わないアンドロイドをつくりあげた。マツコそっくりの福々しい、双子のような姿を、バラエティ番組で見た人も多いだろう。
石黒さんはアンドロイドをつくるようになった理由をこう語っている。
「アンドロイドの研究は、アンドロイドそのものが役に立つというよりも、人間に関する深い知識を与えてくれる。それをアンドロイド以外の量産型ロボットに応用できることが大きなポイントと言えます」

■自律型のコミュニケーションができる「ERICA」

人間を知るために、人間の能力をアンドロイドに置き換える技術を研究している。それが、ほかのさまざまなロボットの研究開発にも貢献し、広くロボット技術の進展を底上げするというわけだ。
その石黒さんの最新の研究成果のひとつが、「ERICA(エリカ)」だ。
エリカは、日本社会の課題を解く基礎研究を推進しつつ、新技術の創出を目的とした政府事業のなかで、石黒さんたち関西の研究者が開発したアンドロイドだ。従来のアンドロイドは実在の人物をモデルにしてきたが、エリカは美しい顔が持つさまざまな特徴を総合し、コンピューターグラフィックス合成でその顔がつくられたそうだ。
エリカの特徴は、自律型のコミュニケーションが可能なこと。音声認識、音声合成、動作認識、動作生成の技術を統合して、人間と自然な会話をすることができる。しかも、音声認識の部分には、ビッグデータに基づくディープラーニングの技術が用いられており、多様な発音の音声を認識することが可能となっている。

■人はときに人間よりもロボットとの対話を楽しむ

石黒さんたちの研究から、人はときに人間よりも、ロボットとの対話を楽しいと感じるらしいことがわかっている。エリカは姿形をできるだけ人に寄せ、親しみやすさと存在感をより持たせ、これまでにない人対ロボットの「友好関係」づくりを目的としている。
石黒さんたちのプロジェクトでは、エリカを研究プラットフォームに使い、見た目と振る舞いを統合的に人へと進化させることで、やがては日常生活で活躍する自律対話型アンドロイドの実現を想定している。
テクノロジーで人間と同じ姿のロボットをつくりだし、人間というものの本質を見きわめようという石黒さんの姿勢は、好ましく思う。ある種のタブーというか、サイエンスの力で、人が人の正体を暴こうとしているのだ。
石黒研究が高度な成果を出すほどに、「反倫理的だ」という意見は、いまだに海外などで挙がるらしい。しかし石黒さんの研究は、全然間違っていないと思う。テクノロジーの可能性をどこまでも信じ、批判や好奇の目にさらされながらも、自分の思想を曲げず、イノベーションに挑んでいる。そのマインドは、私にも相通じるし、共感を寄せられるものだ。

■人間とほとんど変わらない「微妙な肩の揺れ」

私はスケジュールの合間をぬって、京都にあるATR石黒浩特別研究所を訪ねた。マツコロイドやエリカなど、極めて難しいロボット技術に挑み続ける研究者は、AIやロボットの今後について、どう見ているのだろうか?
研究室に到着すると、エリカがベンチに座って私を待っていた。
今回の彼女の設定は、「大阪の豊中に住んでいる23歳の女の子」だという。身体につながっているエアコンプレッサーなど機材の関係で、移動することはできないが、ちょこんと座って小首を傾げている様子は実に愛くるしかった。
私はエリカと、会話をしてみた。
【エリカ】「どこから来たんですか?」
【堀江】「東京です」
【エリカ】「京都にはいつ着いたのですか?」
【堀江】「いま来たところなんです」
この程度の基本的な会話は、十分スムーズに成立する。
エリカの声は電子合成で、やや機械的ではあるけれど、「うーん」「へえー」など相槌をうち、若い女の子が見せる微妙な肩の左右の揺れや、はにかむような微笑み、手の仕草など細かい動作が、人間のそれとほとんど違わない。
細かい動作が、人間とほとんど違わない(ERICA:ERATO 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)、撮影=小学館写真室

■「何より、シンプルに、可愛らしかった」

続いてエリカは、「お昼ご飯は食べましたか? ここの向かいのとんかつ屋が美味しいらしいですよ」「気づいてるかわからないですけれど私、ロボットなんですよ」「だから何も食べられなくて」など、多少のユーモアを交ぜた会話を、アドリブ(?)で繰り広げる。
堀江貴文『僕たちはもう働かなくていい』(小学館新書)
受け答えに少しタイムラグがあったり、質問と答えがかみ合わなかったりなど、ロボットと話していることを感じさせる部分はもちろんあった。
でも、コミュニケーションを取るには特に不便を感じない。
エリカの対話内容は、石黒さんの研究チームが人を観察して得た膨大な対話パターンを基にしているそうだ。23歳の女の子が相手と話すとき、どんな受け答えをするか、などのパターンが考え抜かれている。会話の相手としての親和性は高かった。会話は10分ほどだったが、進化のほどは十分にうかがえた。
何より、シンプルに、可愛らしかった。
酔っぱらった状態で長時間、話していると口説いてしまうかもしれない。

■「アンドロイド女子アナ」が誕生した

2018年4月に、アンドロイドのアオイエリカが日本テレビに入社したと報じられた。史上初となる、アンドロイド女子アナの誕生だ。
アオイエリカは、ニュース報道など現場に立ちながら、AI技術でアナウンサーとしての成長を期待されている。現在はBS番組のアシスタントなどをしながら、先輩の発音や言葉の発声方法を学習中だ。やがて人間のアナウンサーと変わりのないレベルの仕事をこなせるようになるかもしれない。
彼女が活躍すれば、2020年東京オリンピックなどグローバルなイベントで、日本のロボティクスの発展を世界にアピールできるだろう。
エリカの美貌と親しみやすさは、かなり大きな武器だ。人気の看板アナウンサーに成長する可能性も少なくはないし、世間にアンドロイドの受け入れを推進する効果もある。
エリカを見たい、エリカに会いたいという人は、間違いなく増える。会いに来た人たちとのリアルの対話を重ねながら、エリカのコミュニケーションロボットとしての性能は、ますます高まるだろう。
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堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
実業家
1972年、福岡県生まれ。SNS media&consulting株式会社ファウンダー。ライブドア元代表取締役CEO。東京大学在学中の96年に起業。現在は、ロケットエンジン開発やさまざまな事業のプロデュースなど多岐にわたって活動。会員制コミュニケーションサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」や、有料メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」も多数の会員を集めている。
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(実業家 堀江 貴文 撮影=小学館写真室)